唐突なフィナーレ
それを喜ぶものなど数少なく
悲劇に嗤った









荒野の上に立つ君と 6













まさか、それを迎える時がこんなにもあっけないものだとは思いもしなかった。
それはツナが二年生に進級して直ぐの事だった。

嫌な夢を見て飛び起きたツナは、どくどくと逸る鼓動を抑えようと荒い呼吸を繰りかえした。
全身に冷や汗をかいていて酷く気持ち悪かった。
そんなツナとは裏腹に、カーテンの隙間、窓から差し込む太陽の朝の光は眩しく、空は澄み切った青色をしているというのに。

この汗は夢のせいだけではない、とツナは直感した。

嫌な、予感

…違う。
これは予感ではない。
もう既に何かが起きたのだろう。
この世界で、ツナに関わる何かに変化が起きたのだ。

ツナの直感はほぼ外れることはない。
しかも、こういった類に関しては百発百中だった。
とても、嫌なことに。





家の中だけでなく、登校中も授業が始まってもツナの周囲に異変は何もなかった。
真っ先に確認した雲雀の様子も何ら変わりは無い。
常と変わらぬ姿で時が動いていく。
けれど、嫌な感覚はいつまでもツナを包み込んでいた。
むしろ、それは強くなる一方だった。
終わっていることだ、そう思ったのはツナなのに、どうして時の経過と共に強くなるのか。
それも原因を解明するヒントのひとつだというのに少しもわからなかった。

それでも、ツナは常と変わらぬ様を装いながら授業に出ていた。
既に六限目、この日の授業はもう終わりを告げようとしていた。
そんな中、授業中よくやる動作の一つとして、つまらぬ授業の退屈しのぎにツナが窓の外を覗く動作をした時、ツナの視界を掠めた見覚えのある銀色の光に思わず席から立ち上がった。


「沢田? どうした?」


ツナを呼ぶ教師の声が酷く遠く聞こえた。
それだけではない。
ツナの視線は己へと訝かしむ視線を投げかける教師や生徒達を一切無視して、校門に立つ人物にひたと固定されていた。

――もう何年も直接会ってはいない。
けれど、見間違えることは無い、幼い頃の自分をよく知る、そしてよく知っている人物だった。


「…squalo」


暗殺部隊に所属する彼は己の視線に気づいたのか、こちらの方を迷う事無く見上げた。
視線が交わった。
少しだけ緩んだ表情はしかし直ぐに厳しい表情へと変わったのを見て直ぐにツナは解った。
彼が朝から襲われる不安にさせた正体、厳密に言えば、その内容をツナへと知らせる使者なのだと。
その可能性を少しも考えなかったわけではなかった。
けれど、そうだと信じたくなかった気持ちが、その事実からツナの目を逸らさせていたのだろう。
いつもならもっと前に気づき、事前に手を打っておくというのに、直前まで気づかなかったのだから。
無意識の故意の仕業でしかない。

全身から血の気が引くのが解った。
眩暈を感じながらも、ツナは何とか冷静になれと言い聞かせながら、教師の怒声構わず教室から飛び出すと彼の元へと向かった。











「――久しぶりだなぁ、ツナ。…元気だったかぁ?」
「うん、久しぶりだね、スクアーロ。お蔭様で俺はこの通り元気だよ」


穏やかに挨拶を交わすが、けれど、直ぐにツナは笑みを収めてスクアーロ、イタリア時代の幼馴染の一人であり今やツナの従兄弟であるザンザスの腹心の部下である彼と静かに対時した。


「――何が、あったの」
「…お前を迎えに来たぜぇ」


やはりそうだったか、と胸の内で答える。
けれど、それは余りにも急だ。
そして、彼が生んだ一瞬の間が、決定的な何かが含まれる言葉を口にするのを躊躇っているのだとツナへと告げていた。


「スクアーロ、もう一度聞く。誤魔化しは許さない。何が、あった?」


反論など許さぬ、ボスとなるべき者の鋭い視線でツナは問う。
本当はもう、その答えなどほぼ確信していた。
けれど、早とちりは許されない。
何より、その答えをツナは誰よりも聞かなければいけない立場にいた。

あんなにも騒いでいた心は不思議なぐらい凪いでいた。


「――\世が、何者かに殺された」
「おじい様が、亡くなった…?」


分かっていた。
急激に予定が変わるような不足の事態など限られているのだから。
けれど、やはり第三者から齎された決定的な言葉は静かに、けれど酷く衝撃をツナに与えた。

ツナの瞳から涙が一滴静かに零れ、頬伝って落ちる。
――あぁ、やはり、あの時感じた喪失感は、彼を失った痛みだったのだろう。


「あぁ。だから、ボスは俺にツナの、ボンゴレ]世の護衛を兼ねた迎えを命じたんだぁ」


モラトリアムは哀しい知らせと共に終わった。
決して望まぬ形で持って。
そして、血に塗られた弱肉強食の世界での戦いの始まりの鐘の音でもあった。
早く帰ろう、そう告げるスクアーロにツナは反論などなく素直に頷いた。
元よりの約束、それを違える事はできない。そして、ツナ自身にもする気はないのだから。



ただ、大切な人たちへと最後の別れを告げる僅かな時間だけ貰う事を約束して…。
















next... <7>










*****あとがき。*****
こんにちは。六話目です。
いきなり月日が飛んじゃうのが特徴な気がしなくもない昨今です。(気のせいじゃない)
ちなみにweb上では幻の5.5話は半年経過(笑)このままだと歳取るのはあっという間ですね!
この辺りから物語りはアレグロへ。最初のアンダンテはどこに!?
…というか、きょうちゃーん!どこー!!(泣)
ちなみにスクアーロは趣味(私の)だけど、でも、それだけじゃなくてしっかりとした理由がある。彼じゃなかったらディーノさんかな。でも、圧倒的に理由が趣味なのは間違いない(笑)

08.6.24 「月華の庭」みなみ朱木







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