運命なんて嫌いだと言いながら
結局、その運命に従っている
運命に罪を擦り付けて、罪を見ないふりをした









荒野の上に立つ君と 7













ツナが先にツナの家へ奈々への当然の渡伊の偽りの事情の説明と準備に向かったスクアーロへと一時の別れを告げてから真っ先に向かったのは応接室だった。
走ってきた勢いのままにがらりと音を立ってて開けた。
何時もならば行儀が悪いと眉を顰めそうな行為だが、今のツナにはそんな事を構っていられる余裕はなかった。
しかし、叱責はなかった。
部屋の中には求めていた雲雀の姿はなく、代わりにいたのは草壁だったからだ。


「えっと、あの、草壁さん、恭ちゃんは!?」
「あぁ、沢田か。委員長は街の方へと巡回に行ってるが?」


その言葉にがくりとする。
直ぐに旅立たなければならない身にとってそれは厄介な距離だ。
逢えないままに、言えないままに行かなければならないのだろうかと思うと哀しくて辛い。
けれど、同時に逆にこれが一番いいのかもしれないと思うようになった。

そう、それが最適なのかもしれない。
…己にとっても、雲雀にとっても。

それが運命だったのだろうと小さく笑む。
諦め、哀しみ、覚悟、そんなものを含んだ笑みには偽りが存在していなかった。
素のままのツナの笑みに違和感を敏感に感じ取ったのだろう草壁は訝しそうな表情をした。


「何かあったのか? …そういえば、先ほど沢田が見知らぬ外人と深刻そうな会話をしていたという報告があったが…」
「――…見られてましたか。なら、話は早いですね。…彼は俺の知り合いで…俺の事を迎えに来たんです」
「迎えに? どこか行くのか?」
「えぇ」


それは、草壁にとってはただの話の延長線上の質問で、雲雀と仲のいい己の行動を把握しておこうという程度のものだった。
恐らく少し遠くへ行くぐらいにしか思っていないのだろう。
激変する明日を知らぬ故に。

何処へ行くとは口にはしない。
帰ってこないのだとも、言わない。
問いかけるその視線を受け止めて、黙殺し、ただ望みだけを口にする。


「…ねぇ、草壁さん、恭ちゃんの事、頼みますね」


ツナは草壁に対して今まで見せたことのないような静かで穏やかな、けれど反論さえも飲み込んでしまうような覇者の笑みで笑った。
もはやダメツナを演じる必要も無い。
そして、彼には雲雀へと己が去った事情を説明して貰わなければならないのだから、隠すのは無意味だ。
その笑みに草壁は一瞬固まるが、直ぐにこの己が真実で、そして漠然とだがその言葉からもう帰ってこないというニュアンスを嗅ぎ取り、理解したのだろう。
ハッと疑問から解き放たれてすっきりとした表情を見せたが、それは次第に困惑に満ちたものへと変った。


「…知ってらっしゃるんですか?」
「――ううん。まだ言ってないです。決まったのは急だったから。でも、正直言うべきか迷ってます」


でも結局、ツナは自分がこのまま言わないで行く事を確信していた。
元々の予定だった期限でさえ言えなかったのだ。
きっと、さっき扉を開けた先に雲雀がいたのならば勢いのままに言えたかもしれない。
けれど、もう無理だ。
一度止めた言葉を再び出すには最初以上に力がいる。
それを口にしてしまえば続けて願ってはいけないことを口にしてしまいそうだから…。


「言うべきだ。沢田に、貴方に黙って消えられたら、委員長は怒るでしょう。…いえ、それ以上に傷つきます」


草壁が口にした、傷つく、という言葉が酷くあの雲雀には似合わない気がした。

そうだろうか?
傷つくだろうか、彼は。

いや、うん、草壁が口にした事は正しい。
雲雀はきっと怒って、そしてそれ以上に傷つくだろう。
けれど、それは同時に彼が違う事無く己を大切な存在としている事を意味していて、不謹慎だが嬉しいと感じてしまった。

――…本当に不謹慎だ。



結局ツナは静かに少しだけ苦い笑みを浮かべるだけで草壁のその言葉に答えを返す事はなく、別れの挨拶だけを告げて去っていった。
最後まで咎めるような視線を寄越す草壁の視線がツナが犯す罪を痛いほど教えてくれた。
















next...










*****あとがき。*****
こんにちは。七話目です。
今回は短めです。雲雀さんがなかなか出なくても、それでもヒバツナなんだと言い張ります(おい)
草壁さんは、なぜ雲雀がツナを気に入るのか謎に思っていたので、今回の件で納得したのです。で、ツナ様なツナを見て、流石は雲雀だと雲雀を誇りに思うらしい(笑)

09.4.24 「月華の庭」みなみ朱木







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