花は眠りて








「…珍しいな」
「…私、初めてみたわよ。あ、演技で寝てるのは見たことあるけど…これは違う、わよね?」



 いのは目の前の光景に幻覚ではないのかと、とりあえず一度、己の目を疑った後、更には敵の罠かもしれないと怪しい気配がないかまで探った上で、これが現実であるということを確かめてからようやく我に返ると、シカマルの方へとちらりと視線を向けて問うた。

悔しい事ではあるが、己よりもシカマルの方が忍として優れている事を理解しているからだ。
それに、認めたくはないが自分よりもナルトについても上で詳しい。まだ暗部に昇格してもらえて日が浅いいのには確信が持てなかったからだ。

 あぁ、というシカマルの返事に自分の目は間違っていなかったのだと安堵する。
正解したことと、そして何よりもこの状態に嬉しくて舞い上がってしまいそうな気持ちを抑えながら、そっと足音を忍ばせて、けれども気配を絶つことなく近づいた。

 樹の根っこの傍の青々と茂った草の上に体を横たわらせてナルトは目を閉じていた。
黄金色の、出会った頃よりも少しだけ長く伸びた髪は今は結ばれていないようで緑に混じって広がっている。
樹に茂った葉の隙間から零れ出た木漏れ日がほんのりとその姿を照らし、まるで収穫の時期を迎えた小
麦のように綺麗な金色に見えた。

 ふと、ある事にきづいていのは足を止めた。
周囲にはしつこくない程度にほのかに甘く優しい花の香りが漂っていた。
それは不思議な事に年中散ることなく咲き続ける白い花の香りだった。
実家の家業故に、そして医療に関わる故に人よりは草花に詳しいいのではあるが、この花の名を知らなかった。
かつて一度だけ興味を持って調べたことがあるのだが同じ花を見つけることはできなかったのだ。


――否、その答えは正しくはなかった。


 同じ種類だろうと思われる花の名前ならば知っている。
それは大して珍しい樹ではなく、殆どの者が耳にしたことがあるありふれたものだ。
けれど、その花はこんなふうに優しく甘い香りはしないし、咲くのは春先のほんの僅かな期間なだけだった。
だから、こんな不思議な花を咲かせる樹の名前をいのは知らないし、きっと一生知ることはできないのだろうと思っている。

 それに知ってどうなるというものではない。今は己の知識欲を満たしてくれるだけだ。
いのにとって許されているのはただこの不思議な存在を当然として受け止めることだけだった。
何しろこの樹は、そしてこの場所はナルトにとっても聖域のような場所だ。
いのが好奇心だけで立ち入ってよいものではないのだ。


…しかし、それはいのが自分についた呈のよい言い訳なのだろう。


 本当は、本心は知りたいと思っていた。
なぜこの場所が、この樹が大切なものなのか、どうして誰も…それこそ彼の真実の姿を昔から知りえた者達全てがそこに触れようとはしないのか、何より――何故、彼が時折ふと、自分のことを哀しそうで、そしてどこか懐かしいものを見るような瞳で見るのか気にならないはずはない。

 きっとシカマルは知っているのだろう。
少なくとも真実を知らなくとも、近い真実は得ているのだろう。
彼から直にそう聞いたことはないが、ナルトがそんな表情を見せた時に見てしまった彼の表情は酷く苦いものをかみ締めているようなそんな表情だったからだ。
頭の良さだけでなく、接してきた時間も、その立場もずっとずっといのよりも上でナルトに近しいのだと思い知らされるのはこんな時で、それは酷く悔しかった。

 でも、いのにもその瞳の意味を本当はなんとなくわかっていた。
彼にあんな表情をさせる意味も。
だからこそ、詳しい事を知りたいと思わなかったのだ。
ナルトだけでなく、シカマルの、そしてナルトを知り、慈しむ周囲の者達の、いのを見る視線が知るべきではないのだと告げていて、一層、思い留めるのだ。







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