「これだけは譲れないんだ、絶対にね…」










太陽と共に目覚め
     月と共に眠る














それは、ぽつりと思わず零れ落ちてしまった言葉のようだった
しかし、その中にも強い意志を感じさせる声音にコロネロのまどろんでいた意識はぴくりと反応した
それをきっかけに急速に意識を覚醒させるとさっきまで転寝で伏せていた面を持ち上げた
軍隊にいた経験から目覚めはよくクリアだ
けれど、どこにいるか、誰が傍にいるか分かっているので、驚かせないようにコロネロにしてはゆっくりと緩慢な動作で微かに身じろいだ
コロネロのその一連の行動で、ツナはそれを言葉にしてしまった事に気づいたのか失敗したという苦い表情を一瞬だけ見せたが、コロネロが何の反応を見せなかった事で聞いていなかったようだと判断したようだった



「…起こしちゃった?ゴメン」


しかしその話題を追求されたくないのか、直ぐにその表情は掻き消え、コロネロに対して酷く申し訳なさそうな表情をするツナのその表情は相変わらずボンゴレのボスという職業が似合っていなかった
いや、起きるところだったから問題ないぜコラと言えば、ならよかったんだけれどと柔らかな笑みを浮かべた
部下を前にしている時の彼はきりりとした表情を浮かべ、時に冷徹な判断も下せる人間だった
けれど、コロネロを前にする時は大抵、今のような柔らかな表情で、これだけ見ていれば彼に血生臭い世界はまったく似合わなかった

歳を重ねるにつれて初代の西洋の血が濃く出てきたのか、光源によっては美しい琥珀色に見える瞳
そして、キャラメル色の口に含めば甘く溶けてしまいそうな髪色
ツナを構成する要素全てが甘く柔らかだ
苦難に苦難を重ねたような壮絶なる争奪戦を繰り広げたのちにようやく獲得できた恋人はやはり今日も愛らしい
きっと、それを口にすれば、年上の矜持が傷つけられた!と言って嘆くだろうから決して口にはしないのだけれど

ツナとコロネロの差は至るところにある
その中でも最たるものはきっと年齢差だ
地位ならば努力でどうとでもできる
アルコバレーノと呼ばれるコロネロにとって大した事でもない
今現在だとて、マフィアランドを牛耳っているのはコロネロで、それ以外にも自分の命令一つで動く手勢は幾らでもあるのだから
…けれど、こればかりはいくら努力したってどうにもできない
それがコロネロには酷く歯がゆくて
ツナの身長を越しても、強くても、結局のところ、この年齢差だけでコロネロの事を時折子ども扱いするのだ
それが酷く気に入らなかった

ようやく手に入れた愛しい存在
コロネロにとって誰よりも特別な存在だ
だからこそ、ツナにも特別に見て欲しかった

窓から差し込む月光を背後に浴びながらツナはコロネロの頭を撫でる
その心地よさに擦り寄るようにすれば、「コロネロったら猫みたいだね」とくすりと笑った
それは恋人にだけ見せる笑顔だと分かってはいるが、けれど先ほど不本意ながらも考えてしまった思考のせいで一方的にむしゃくしゃして(きっと、彼がその理由に気づいたら、だからなんだよと指摘しただろう)その気持ちをかき消そうと指し伸ばされたツナの腕を掴むと、力任せで己の方へと引き寄せた
わぁっと、いうツナの些か間抜けな声が室内に響く
危なげなく抱きとめながら、お前は幾つの大人だコラと突っ込みたいが、とりあえずそんな無粋な言葉で怒らせてこの雰囲気を壊したくはなかった
短気だとよく言われるが、恋人との時間の為だったら気は長くなるようだった
普段だったならば何事ですがとツナの身を気遣う護衛が飛んできただろうが、コロネロの訪問の為に人払いがされていて、誰も駆けつけてはこない
その事に少しだけ優越感に荒れた心は癒されるようだった
――なんて単純なんだろうか


「危ないだろ、急に」
「心配ないぜコラ。俺がお前を落とすわけないだろうが」
「そういう問題じゃないんだけどね…。ま、いいか」


ツナは仕方がないなぁという表情を浮かべて、コロネロに抱き寄せられたまま、素直に擦り寄った
大きなソファなので小柄なツナ一人増えても確かに支障はない
横になった途端まどろむ様な表情を見せるのは、きっとこの時間を作るために無理をしたからだろう
それぐらいにいつも彼は多忙だ
愛しさに胸がいっぱいになって、一緒にこのまま眠ろうかと思うが、しかし先ほどの言葉が気になってしかたがなかった
当人が隠したがっているのならば尚更だ

「何がだ」
「ええっと、何のこと…?」


突然の追求であったにも関わらず、すぐさま何の事かわかったのだろう
白々しく惚けるツナにコロネロは眉間に皺を寄せた


「惚けたって無駄だぜコラ。吐け」


にっこりと、しかし、その目から視線を放すことなく力を込めて問う
これが部下ならば首をくいっと捻るだけなので簡単だが、流石にツナにそれはできない
が、意外とコレに効果があるのは知っている


「あぁ…えっと…」
「早く吐けコラ」


それでも渋るツナに、仕方がないと、暴力とは正反対に額に、瞼に、目尻に、髪先に、頬に、耳にと軽い口づけを落とす
けれど、肝心なところには触れない


「コロ、ネロ…?」
「で、何が譲れないんだコラ?」


耳元で蜜言を囁くように問う
卑怯だと少し潤んだ目で非難されるが、少しも効果はない
むしろ、愛しい人からのソレは煽られる


「…――だけだよ!」


今ばかりはきっと彼の方が年下に見えるに違いない
ツナの不貞腐れたように、けれど顔は赤いままに呟くように、けれど言い捨てるように聞こえた言葉の内容にコロネロは固まった


寝顔見ていたら、ずっとコロネロとこうしていられたらと
この先、何があっても
コロネロという存在を手放したくないと
そう望んだのだ


そう恥ずかしそうに言い放つ恋人が愛しすぎて


「そんなの、俺だって同じだぜ。――俺が叶えてやるぜコラ」


結局言わされて不貞腐れたツナの顔を自分の方へと向けると、先ほどは避けたツナの唇へと深く甘い口付けを落とした








寝ても覚めても
その存在が近くにいて当たり前のように君の傍にいたい















fin






*****あとがき。*****
こんにちは。復活ではオフ本及び長編を除いて初めての作品になります。どきどき。
コロネロとツナさんです。多分、10年後以上先の未来?
個人的にコロはテレ屋のヘタレボーイですが、今回はちょっと余裕の出てきた感じの彼です。
ツナさんは30超えても童顔の可愛いボスでお願いします(笑)
落とされた後のツナさんはコロが心配しなくてもコロにメロメロ(死語)だというお話でした!

では、このお話が少しでも皆様に気にいってもらえたなら幸い…。拍手ででもコメントいただけると嬉しいです。

08.04.30「月華の庭」みなみ朱木




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