「銀色というよりは白銀色というのが正しいのかもしれない 月の光を浴びて、更に白くほんやりと輝く それは彼が愛する剣と同じ色でもある 腰まで伸びた、指にひっかかりを覚えないさらさらの髪をツナは愛しげに梳いた 女性の己よりも長く美しい髪はもう嫉妬を超えて賞賛の域に達している 端までくると、さらりと零れていこうとする髪をなんとか指に絡ませ、口付けを一つ贈った 銀月の紐と塔の魔女 「どうしたぁぁ?」 突然、くすりと笑ったツナの気配を感じて、ソファに深々と座り、ツナからの丁寧なブラッシングを甘受していたスクアーロは後ろを振り向いた 案の定、そこには満面の笑みのツナがいた 出逢った時は中学生だったが、その頃から少し大人びた顔つきにはなったが結局のところ、母親の遺伝子を強く引き継いだのか恐ろしく童顔でどう贔屓目に高く見積もってもハイティーンの若い女性にしか見えない 実際の年齢である25歳と聞けば誰しもが驚くだろう けれど、その印象は仕草一つ、表情一つで直ぐに変わるのだ 若くして、彼女的には不本意ながらも付いたボンゴレ十世という地位 それは50代に入ってようやく見られる威厳ある地位だ 歳若い者が付けば甞められるのは当たり前、それがどう見ても未成年にしか見えない女性ならば尚更だ しかし、彼女は一度ボスモードにスイッチを切り替えれば見事にその不躾な視線を断ち切るのだ すっと細められた琥珀色の瞳は全てを見通すように 柔らかな孤を描くふっくらとした桜桃色の唇は緩やかに端だけ持ち上げて、笑みの形を 自信に満ちた、威厳のある、揺ぎ無い意思を持っているように そんなツナを一度目の前にし対時すれば、彼女を甘く見ていたと自覚するしかないのだ 全てを包みこむ大空のように、そして全ての意識を根こそぎ奪い、支配する彼女を崇拝にも似た気持ちで けれど、一度スイッチが切れてしまえば、どこにでもいる(否、むしろそれ以下にダメライフを心から愛する)女性だ 仲間の(ファミリーというカテゴリーではなくそれこそ幹部クラスの信頼を置ける者の事だ)前では時にへらりとそしてくすくすと笑い、うるうると泣く そのギャップは目を見張る程違う どれだけ彼女が普段、ボンゴレのボスであろうと必死に気を張っているか分かる瞬間だった それが、とても痛々しくて 守ってあげたくて そして愛しいと思うのだ 己だけでなく、守護者だけでなく、その枠さえを超えて正に大空の名に相応しいその空の下に存在する全ての存在に だから、ボスの時のツナもプライベートの時のツナも決してスクアーロのものだけにはならない 浮かべる笑顔も哀しみも怒りも全て平等に注がれるものなのだ ――けれど、唯一つの例外は存在して プライベートの時間、誰も居ない、二人っきりの時 スクアーロにみせるその顔だけはそのどれとも違う "特別"なものだ こうして、柔らかに、愛しげに、どこか幼く、どこか妖艶に 恋人の顔を見せる 「相変わらずオレの髪より綺麗だなって思っただけだよ」 「本当かぁ?」 「…ちょっと嘘。ラプンツェルの話を思い出してた。きっと彼女の髪はこんな風に綺麗で、もっと長かったんだろうなって。で、スクで想像したら思わず笑ってた。…伸ばしてみる?」 「冗談だぜぇ。闘うのに邪魔だろうがぁ」 「言うと思った」 でも、本当にうらやましいなぁと彼女の指は尚も止まることなくスクアーロの髪を手櫛で梳いていく ツナの鳶色をした柔らかな髪をスクアーロは気に入っているのだが、どうやら彼女はそれが不本意らしいのだ だからか、こうしてスクアーロの髪を梳くのが殊の外好きなようだった どこかへ出かけられる程時間が取れないような時には大抵、こうしてじゃれ合うようにして過ごしていた 微かに撫で去っていく指の感触がくすぐったく、そして優しく、心地よい 誰かに障られるのは職種上好きではないのだが、彼女ならいい むしろ、触れた先から熱が生まれ、愛しさがさらに積もっていく 拳で闘う彼女のファイティングスタイルには似合わない繊細で白く細い指は美しかった 時折、うっすらと目を開け、毛先へと移動していくその指先を眺めるのが好きだった 甘やかなこの場に満ちる空気に流されるままに、されるがままに心地よさに身を預けた 言葉もなく、ただただゆったりと日ごろの喧騒を忘れるかのように流れる時間に身を任せていた 未だにツナの指はスクアーロの髪上にあって、緩やかなみつあみを編んでは程したり、絡めては放したりと弄んでいたが、突然ぴたりとその手を止めた なんだ?と手にしていた本を閉じ、ツナの方へと見上げれば、彼女は微かに苦い笑みを浮かべていた 「どうしたぁ?」 先ほどと同じ質問を口にする けれど、その声音に含まれる感情はまったく違う ツナは一度なんでもないよと微笑んだが、それが嘘だとまる分かりで(ボスでない時の彼女の表情はとても豊かだ)、ぎろりと睨みつければううっという唸り声のような困り声を口にし、はぁっと最後にため息を零した ツマラナイ考えだよ?と言うが構いやしない 基本的にこういう情況に陥った彼女の考えは彼女の心が縮小されたもので、そこに彼女が今抱える不安などが存在しているのだ 見逃して、あとの祭りという方が大変で、そして辛いのだ 「――スクがラプンツェルなら、オレは塔に住む魔女かなってちょっと思ったの」 「魔女?お前がかぁ?」 予想外の発言にスクアーロは目を丸くした 随分とまぁ、可愛らしい魔女がいたものだ 思わず身体を引けば、しゅるりと髪は彼女の指の隙間をすり抜けていく 僅かに浮かんだ名残惜しそうな表情に苦笑に似た気持ちを抱く 髪は髪であって、スクアーロ自身そのものではない そんな表情を浮かべるのはスクアーロ自身にだけでいいのだ 要は嫉妬したのだ 己の髪に対して もしも、この発言も存在意義を髪だとかみなされている為だったらどうしようかとか、そんな事さえも考えてしまう そんな人間ではないと知っているのに、だ 馬鹿だな、という気持ちを覆い隠すように、スクアーロは発言の続きを促した 「だって、スクを閉じ込めてるのはオレでしょ?」 「あぁん?別に監禁なんてされた覚えねぇぞぉぉ?」 「うん。でもね、できるならしてるよ」 「…そりゃ物騒だぜぇ」 「だって、スクはいつも忙しそうで…なかなか逢えないし。それに、危険な仕事で、心配なんてどれだけしても足りないくらいだもん」 「俺だって、あ、逢いたいぞぉ。ただ、アイツが…。それに、危ないのはお前もだろぉ?」 「うん、だから、軟禁は無茶だからしないけど、こうして護衛として呼び寄せてるんだよ。スクの仕事はいつも邪魔してくれるザンザスに勅命で押し付けてね」 「…頼むからボスを煽ってくれるなぁ。俺の命が危ねぇぞぉ…」 「その点は御心配なく。スクにあたったら二度と口利かないって言い含めておいたからね!」 …余計に命が危ないと思うのはスクアーロの気のせいだろうか? まぁ、しばらく刑に処せられるまで若干の猶予があるので、とりあえず遠くない現実には目を逸らす事に決めた 「で?」 「本当はね、いつも傍にいて欲しい。スクには危なく目にあわないで欲しいの。――この職業柄、無理だって分かってるけど。でも、諦められなくて。こうして、護衛としてなら、完全に安全…とは言えないけど、少なくとも、目に見えないところで怪我されるよりは安心だから。だから」 「だから、ここにいるってわけだなぁ?」 「うん。でも、スクが退屈なのがキライで、任務…というより、闘うのが好きって知ってる。でも、それを知ってて尚、こうしてここに居てって命令で一方的に我侭を押し付ける俺はやっぱり、塔に住む魔女でしょう?」 ごめんね、と顔を歪ませるツナが無性に愛しくてたまらなかった 僅かではあるが離れていた距離を一気に縮め、顎を取ると、桜桃色のふっくらと艶やかで甘やかな美味しそうな唇を貪るように食む まるで餓えを満たそうとするかのように、貪欲に 時折、漏れ出る声は濡れていて、愛らしい 本当はこのまま流れのままに、彼女自身をいただきたいところだったが、しかし、それはできないのが酷く残念だった 「…スクアーロ…?」 ゆっくりとツナの唇を解放すれば、己の胸の中でぐったりとしつつも不思議そうにことんと首を傾げて問うツナに、やはりこのまま…という甘い誘惑に捕らわれそうになりつつも、それを振り切ってスクアーロは笑った キスだけが原因ではないだろう、ツナの表情が更に紅くなったのに気づいて、更にその笑みを深くする 「俺にラプンツェルなんて役は似合わねぇ。俺は俺がそうしたいと思った時に自ら外へ出て行く。囚われの姫なんてゴメンだぜぇ!」 「…うん、知ってる」 「だから、こうしてお前の傍にいるのは俺の意思だぁ。お前が命令しなくったって、お前が望めばいつだってこうしていてやるぜぇ。俺の腕が鈍くなるのは困るから偶には任務行きたいけどなぁ!」 「スク…」 嬉しそうに頬を染めるツナに若干、らしくない事を口にしてしまったと恥ずかしくなり、思わず顔を逸らした 胸元でくすくすと笑う姿が非常に可憐だが、面白くない けれど、彼女が笑ってくれるのならそれでいいと結論は行き着いた 「それに…」 「それに?」 「ラプンツェルが髪を落とすのは魔女だけじゃなくて王子にもだぜぇ?――俺はお前だけだぁ」 何かに似ているなんて、当てはめる必要はない この関係も想いもオリジナルで似せたものじゃない だから、何かの形に囚われる必要なんてない 耳元にそう囁いて、そして銀と鳶色が混ざり合った髪を一房指に絡ませ、スクアーロは唇を一つ落とした fin *****あとがき。***** 復活では初めて書くスクツナ子です!ものすごく好きなCPの癖に時間かかってしまいました。ヒバさんとかコロとかが俺を先にしろって煩くてさ…! 本当はツナでもツナ子でもどっちでもよかったんですが、にょた書きたくておなごにしてみました。 …どうやら、おなごだと甘さ増量にもさほど抵抗がないようで、す…?(何故か疑問系) ちなみに10年後ぐらいを想定。あの美スクにやられました。うっとりv(あ、好きなのはもっと前からですが) この後は…うん、きっと暗転な内容になるかと。皆様の想像という翼でおぎなってくださいv(笑) そして、次の日大変でスクは周囲にぼこられるに一票投票したいと…!かわいそうな彼も愛しいです(歪んだ愛/笑) では、このお話が少しでも皆様に気にいってもらえたなら幸い…。拍手ででもコメントいただけると嬉しいです。 08.05.10「月華の庭」みなみ朱木 |
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