相合傘のところ 右傘に誰が宿る?

貴方であるように 望み託して…





 相合傘





「…何か…お天気が崩れそう…かも…」
学校へ行く出掛け、ふと見上げた空が気になった。
ここのところ雲行きも良くなく、空も濁っているような気がする。
しかし天気予報は曇りを予告し、雨は明日からだと告げていた。
ただ、自分の勘が少し気になる。
「…ちょっと…占ってみる…の…」


「押忍、檜!ってあれ…傘なんて持ってどうしたんだ?」
「…もみじ…おはよ…う……今日は…雨が降る気がした…の…」
「檜がそう言うならそうだろうな…げっ、俺傘学校に置いてねぇや…」
校門で清熊に会い、挨拶を交わす。
猫湖の言葉を聞いて苦笑いを零す清熊。
雨が降ったらきっと部活はどこかで基礎体力作りになるだろう。
場所の確保もマネージャーの仕事のうちだ。
「…早めに体育館の…使用届…出した方が良い…かも…」
「そうだな。昼休みに出しておくか」

昼休みになっても天気は全く変わらなかった。
「もみじ…もう届出した…かな……訊いてみる…かも…」
確認をしに清熊のクラスへ向かって廊下を歩いていると、大きな笑い声と足音が聞こえてきた。
何かが後ろから凄い勢いで猫湖を抜き去り、1−Bの教室の前で急に止まり振り返る。
そして勝ち誇ったように大声で叫んだ。
「わーっははは!俺様の勝ちだー!!見たか沢松ー!!」
部内のムードメーカーでありトラブルメーカー…猿野天国だった。
手には昼食と思われる沢山のパンと飲み物を抱えている。
「……廊下は…走っちゃダメ…かも…」
「お、不思議少女じゃねーか。これは男の勝負だから良いんだ!!」
そう言って太陽のように眩しく笑う。目が惹きつけられる笑顔。
少し理屈が欠けている所もまた憎めない。
「…そう………あの…ね…」
「あ?」
猿野の鳶色の目が自分を映す。少し鼓動が早くなった。
(…猫神様…ちょっとだけ…力貸して…ね…?)
「…今日の部活……体育館集合…かも…」
猿野は一瞬きょとんとした後に訊きかえす。
「は?グラウンドじゃねーの?」
「…多分…雨が降る…かも……」
「なーに言ってんだよ、雨降らねーって天気予報も言ってたんだぞー?」
そう言って猿野は猫湖の頭をぽんぽんと叩いて教室へ入っていった。
彼の手が触れた場所が、ほんのり暖かく感じる。
「…でも……雨になる…の…」

そして放課後。天気は…見事に雨。
「先程も言ったけれど今日は皆、体育館で各自基礎練習をしてくれたまえ」
ざわざわと体育館内に散っていく部員達。
猫湖と清熊は筋トレ用のダンベル等を取りに用具庫へと向かった。
「当たったなー、檜の占い。この天気で体育館とれるなんて滅多にねーのによ」
「…みんな…帰り、大変…かも……」
ザアザアと音を立てて降る大粒の雨。
バス停まで走るだけでもかなり濡れてしまうだろう。
「もみじ、帰り…大丈夫……かも…?」
「いいさ、濡れて帰るよ。檜とは家の方向真逆だしな…あ、こっち持てよ。それ重いから」
清熊はピッチャー用のチューブを猫湖に渡し、猫湖が下ろそうとしていたダンベルの入った箱を持ち上げた。
非力な猫湖では、ダンベルの重みで押しつぶされてしまうことが目に見えているからだ。
「で、でも…もみじが重いかも…;;」
「いーって、平気平気」
「もみじちゃん、檜ちゃん、まだ持っていくものありますか?」
やりとりの間にゴゴっと重い音がして扉が動き、鳥居が顔を覗かせた。
思わぬ応援に、清熊は壁際を指差す。
「そこの箱で終わり。檜の持ってるチューブ上に乗せて二人で持つといい。少し重いから気をつけろよ」
そう言うと、清熊はひとりでダンベルの箱を持って先に歩いていった。
「はい。じゃあ行きましょうか、檜ちゃん」
「うん……かも」
箱を壁際から少し離し、持ち上げようと両端に手を掛ける。
すると突如、上から騒々しい声が降ってきた。
「な、凪さん!そんな重いモンは野郎どもに運ばせときゃいーんすよ!」
その声の主は猿野だった。
まだ筋トレを始めていなかったのか抜け出してきたのか、何故か部員達から離れた用具庫まで来ている。
「でも皆さん、練習がありますし…」
「運ぶのも筋トレのうち…あ、そうだ俺持って行きますから!」
返事も聞かずに軽々と箱を持ち上げ、にっと笑ってみせる。
「軽いモンっすよ」
そのままずんずんと歩いて行ってしまった。
さすが男性と言うべきか、重そうな様子は微塵も感じられない。
手伝ってもらったというのに、猫湖は複雑な思いだった。
「猿野さん、お優しいですね」
嬉しそうな鳥居の声。
そう、そうなのだ。猿野は優しい。
こと鳥居の事となると各段に。
何処からどう見ても、他の人間の前と鳥居の前とは態度が違う。
今だってそう。
猿野にとって猫湖は、鳥居と一緒にいただけ…言うなれば「おまけ」のようなものだったろう。
あの優しさは、自分に向けられたものではなかったのだ。
もし、そこにいたのが自分ひとりだったなら。
手伝ってくれただろうか…
「Yes」と自信を持って答えられないことに、少し切なくなった。

部活も終わり、皆が帰りはじめる頃…まだ雨は止まない。
覚悟を決めて雨の中にとび出していく者、電話で迎えを頼む者、運良く傘を持っていた誰かと帰る者。
そんな中を、猫湖はひとりトコトコと歩いていた。
いついなくなったのか、靴が無い事からして清熊はもう雨の中を走っているようである。
「風邪…引かないといい…かも…」
白地に青い小さな花柄のちりばめられた傘をくるくると回す。
傘の端にとりつけた小さなてるてる坊主も、踊っているかのようにふわふわと揺れた。
「これ、良かったら使ってくださいよ」
大きな声に影が二つ。
この耳に心地良い声は…
「でも、それでは猿野さんが…」
「いいっすよ、俺濡れるのには慣れてますし。それに万が一凪さんがお風邪でも召されたら大変っすから!」
やはり、猿野だ。手には大きな紺色の傘。
「そ…それじゃあ、お借りしますね。ありがとうございます」
「はい、また明日部活で!」
帰っていく鳥居に嬉しそうに手を振る猿野。
どうやら傘を貸していたらしい。
この雨の中、傘を人に貸してしまうなんて。
(凪ちゃん…だから……?)

暫くして、猿野が猫湖に気がついた。
「お、不思議少女いいトコロに!お前の家ってあっちか?」
ぴっと東側を指差して尋ねる。
「…うん……かも…」
こくんと頷くと、猿野はてくてくと猫湖に近づき、ぱん、と顔の前で手を合わせた。
「頼む、傘入れてくれ!俺と家の方角が同じよしみで!」
さっきまで濡れて帰る、と言っていたのに。
やはり濡れるのは気が引けるようだ。
(だったら…貸さなきゃよかった…のに……)
かといって断ることなんてできやしない。
いくら丈夫な猿野とはいえ、風邪くらいは引いてしまうだろう。
「…いい…よ…」
「やりっ!サンキュなー。じゃあこの天国様が鞄を持ってやろう」
ひょいっと傘と鞄を持ち、こいこいと手招きをする。
猫湖はぎゅっと猫神様をかかえて後をついていった。


いつもよりもぐんと高い位置にあるてるてる坊主。
すぐ隣を歩く、いつも目で追っているあの人。
その右肩が濡れているのは、私が濡れないように気を使ってくれているから。
でも…あの人の特別にはなることはできないのね。
少なくとも、その眼差しが他のあの子を映している今は。

雨粒に濡れた、傘に咲く青い花。
まるで涙で濡れているようで、酷く哀しかった。
ゆらゆらと揺れるてるてる坊主。
傘を伝って雨が流れ、泣いているようなそれは、あなたへ届く事の無い想い。

愛の抜け落ちた『相合傘』
あなたの気持ちがここに無いのはわかっているけど

この時間がずっと続きますように、と願ってしまう


私とあなたの『愛合傘』
願わくば、いつかあなたの心がこの右傘に宿りますよう……









+++あとがき+++

ぎゃー寒ッ!寒すぎるよ俺!
梅雨どきという事で猿猫で『相合傘』です(タイトルもっと捻れ/笑)。

冒頭の歌詞はaikoの「相合傘」です。
あの可愛い感じが猫湖かなぁ…って思いまして。
aikoの歌は可愛い感じが多いですね。
大人しい可愛い歌が猫湖っぽいので猫湖好きさんは是非v

これは猿猫好きのお友達・みなみたんへ。
へちょですがお納め下さい;(ヘコヘコ)



****お礼の言葉****
きゃーvvめっちゃ檜ちゃんがかわいいよーvv愛でたいvv
ぎゅっと猫神さまを抱えてる辺りにずきゅんと!(笑)
天よ、ここに優良物件が!!と叫んじゃいましたヨ(爆)
さりげにジェントルな天国にトキメキ!!はう。素敵だ…vv
こんな素敵文章をありがとーvv君の守備範囲でもないのに!いつか、私が出来る範囲でのお礼をv
いつも、こんな視野の狭い私に愛をありがとーでした!愛してますヨv


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