風邪をひく、なんてことは誰にだってあることで。
それは普段馬鹿騒ぎをしてばかりいる天国にも同じこと。
天国のマンションでは、その広いベッドで一人横たわる少年がいた。
琥珀色の髪と瞳、いつもは快活に笑うキレイな美貌を持つ少年。
言わずもがな、猿野天国その人である。
だが、今の彼はおそらく普段の彼を知っている者が見たら驚きで目を見張ることだろう。
なにしろ、退屈だなんだと言いながらも、きちんと行っている学校も休んで一日中ベッドに臥せっているのだから。
「……沢松〜」
天国はガラガラの声でたった一人の保護者兼、幼馴染み兼、鬼ダチの少年を呼んだ。
頭をそちらへ向けるのもしんどいらしく、ぐったりとベッドに沈んでいる。
呼ばれた沢松は苦笑して、できたばかりのお粥を持ってその側へと向かった。
「何だ? なんか欲しいもんでもあるのか?」
「う゛〜…欲しいもんは、薬……とあったかいもん……」
「……寒いのか?」
「うん……かなり。やば……熱出てきたぁ……」
「とっくに熱なんか出てんだっての。……ほれ、お粥作ってきてやったからちょっとでいいから背中上げろ」
沢松があきれたようにため息をついて、それでも仕方なさそうに苦笑する。
普段ならその暖かみのある笑みに頬を染める天国も、今日はそんな元気もない。
天国は血の気の引いた青い顔にくっきりと苦悶の色を浮かべながら、ほんの一瞬だけ背中を浮かした。
と、同時にその一瞬を見計らい、沢松が天国の背中とベッドの間に手を入れて軽々とその体を支えてやると、天国はほっとしたように微かな笑みを浮かべた。
「……天国、背中支えてやるから、はよ食え。そしたら薬が飲めるぞ」
「…沢松〜、寒い……」
「いや、さっきも聞いたって」
「寒いったら寒い〜っ!!」
「……どうして熱が出ると幼児返りするんかな、お前は……」
ぶつぶつと文句を言いながらも、そのベッドに入って天国の背中を包むように抱き込んだ。
ようやく自分の思うとおりになり、天国は満足したように背中を沢松の胸に預ける。
ぐったりと力をなくした体は少し汗ばみ、その無防備なまでの体の弛緩は、普段よりも体重を感じられて、そんな場合ではないと言うのに沢松は愉悦の笑みを浮かべた。
「……沢松? 怒った……?」
けれどその笑みも、不安そうに自分を見上げてくる天国の声にはっと我に返り、振り払うように首を振った。
「……いや? 怒るわけねーだろ? ほれそんなことより早く食わねーと冷めちまうぞ」
「うん……。……ねえ、健ちゃん」
天国は返事をしてから、今はほとんどしなくなった呼び方で沢松の名を呼んだ。
「……」
沢松は、思わず片眉を上げる。
そういう呼び方をするとき、天国は彼にしては珍しくも、わがままを言う。
決して叶えられない願い事ではなく、ささい過ぎて苦笑してしまうような、そんなわがままを。
「健ちゃん?」
天国は返事のない沢松をやや不安げに見上げる。
……あどけない、子供の顔で。
「……なんだ?」
その顔があまりにもあどけなくて。
不安げで。
だからこそ、この腕で抱くにはあまりにも白く思えて。
……どうしようもない支配欲に包まれる自分が、とても薄汚く思えて……
それなのに、そのいつもより熱い唇にキスを落とす自分がいた。
「……健ちゃん……?」
どうしたの、と幼い口調で自分を見上げる天国に、沢松は罰の悪い顔をする。
「……なんでもない。それより、何か用があったんじゃないのか?」
白い存在を自分の傍まで陥れたくてキスをした、などと、そんなことを言える訳がない。
たとえ、それを天国が受け入れるだろうことがわかりきっていたとしても。
沢松は何事もなかったかのように苦笑して天国の言葉を待った。
「……あの、ね、お粥……食べさせて?」
幼い子供の要求。
その幼い子供は沢松がもっとも大切にしている存在で。
……その要求に応えない筈はなかった。
「……ったくしょうがないやつ……。ほら、口開けろ」
沢松は天国を腕に抱きこんだまま、スプーンにお粥をのせ冷ましてからその口元へと近づける。
天国はそれをおいしそうに口に含んでは次を催促する。
ほんとに、子供みてーだな……
自分が親鳥にでもなったような気がして、苦笑いをこぼした。
「……ん、もういいや……」
冷ましてから口元へ運ぶ作業を何回か繰り返すと、天国は首を振ってもういいと意思表示した。
沢松はスプーンをおわんの中に戻すと、サイドテーブルの上に置いた。
「もういいのか? んじゃ薬飲んでさっさと寝ろよ?」
「……どっか、行くの?」
「片付けなきゃいけねーだろーが。……んなに心配すんなよ。お前が熱出してんのに、俺がどっか行くわけねーだろ?」
「……じゃあ、早く片付けてきてね……」
ものすごく不本意そうに口を尖らせてそこまで言うと、沢松が渡した薬を慣れたように飲んでみせる。
「……早く片付けてくるさ。お前はおとなしく寝てろよ?」
「……その後一緒に寝てくれるんなら」
おとなしく寝てる、と実に心揺さぶられる罪な言葉を吐く。
……例え、その言葉に妖しい意味はまったくこもっていないのだと、知っていても。
「……わかった。お前がもしもおとなしく寝てたら、一緒に寝てやるよ」
「約束、だよ?」
「わかってる。朝までずっと抱いててやるから」
「ほんと!? じゃあ、寝てる!」
嬉しそうにはしゃいでいる天国に、沢松はほんの少し罪悪感を覚える。
……寝てから朝まで起きやしねーだろうから、一緒に寝てたなんて覚えてねーんだろうけどな……
そう。もしも、天国が言葉通りおとなしく寝ていたのならば、風邪薬の中の睡眠薬も手伝って、朝まで起きることはないだろう。
その間一緒に寝ていたとしても、天国がそれを覚えているはずはない。
「……まあ、いいか」
よくない、と誰かが言ったとして、彼は考えを改めただろうか?
改めるはずはない。
沢松が従うのは、常にただ一人だ。
「……天国、よく眠れ」
祈りを込めて、その頬に口付ける。
例え、この腕の中でしか、天国が安眠できないことを知っていたとしても。
それに限りなく近づけることはできる。
言葉で天国の心を静めてやればいい。
俺の腕でなくとも、眠ることができるように。
この腕がお前を徹底的に縛りつけてしまう前に。
俺が、お前の糧だけで……それ以上を望んでしまう前に。
その前で、踏みとどめられるように。
……天国には、たぶん、この行為が裏切りに見えるのだろうが。
それでもかまわない。
裏切りだと断罪したときに、俺が傍にいなくてもお前が眠れるようになるのであれば。
どんな嘘だって、ついてみせる。
天国、お前のためだけに……
後日。
沢松が天国の風邪をそのまま貰い受けてひどい風邪を引き、天国からこれ以上ないほどの甘い看護を受けたのは、また別のお話。
……あれ?
これは……眼鏡、なのか?
いや、絶対に違うよな……?
はぅああああっ!!
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!!!
ああ、もうなんと言ったらいいのか……
たたでさえ差し上げるのずいぶん遅くなったのに……
なんか暗いし、よくわかんないし、
ああ…もう、どうしたらいいのか……
ごめんなさい、リク内容さっぱりきっぱり
清清しいほど違っていて……(涙)
こんなもんでいいのでしたら、どうぞお納めくださいませ……
***お礼の言葉***
ありがとぉです!!
あまあまな沢猿に悦ですvvえへへvvv
「健ちゃん」呼びはやっぱりいいです。萌えポイントですよね!(笑)
今後もよろしくおねがいいたしますー
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