「そうじゃ、目覚めることを知らずに今だ眠り続けている王子の話を知っておるか?」
私の祖母にどこか似た顔立ちのこの男は楽しそうに、誰もが見惚れてしまうような微笑と共に私にそう問いかけた。




sleeping lover






何故、このような会話をしているかというと、事の始めは何の変哲もない、こんな会話からだった…。



「邪魔ですから、怠けるなら他でやってください。」

邑姜は目の前で、ただひたすら怠惰にせいをだしている太公望に向かって告げた。
この注意はこの人と出会ってから既に数え切れないほどの回数になる。

(いい加減に学習してくれないかしら…)

などと、邑姜が不満を持つのも無理はない。
だいたい、この人は才能を人より数倍持っているくせになかなかそれを発揮しようとしない。
ふと気がつくといつも怠けてばかりいる。

(私が忙しい理由などよく理解しているはずなのに…)

根が気真面目な邑姜にとってそれは許せないことだった。

(でも、何故かこの人を嫌いになれない…)

それは太公望との血の繋がりがそうさせるのだろうか?
だが、それだけでは説明できない。

(多分、この人の大空のような美しい蒼い瞳が時々どこか悲しそうだからかもしれない…)

そんなことを思いながらも、そんな感情を少しも表には見せず、太公望に再度告げた。

「いい加減にしませんと、普賢さんに言いつけますよ!」

この警告は思った通り、太公望を酷く慌てさせた。

「ゆ、邑姜!それは卑怯だというものじゃぞ!」

手玉に取られたのを悔しそうに叫ぶ。
滅多にこんな姿を見れないので不覚にも、つい少し笑ってしまった。
それを太公望は目敏く見つけ、軽く邑姜を睨んだ。

「どうしたのですか?」

分かり切ったことだったがあえてそう聞いた。
いつもならこんな事は言わないのだか、少しでもこの人の優位に立てた事がそうさせたのだろう。
太公望は不機嫌そうな表情をしたが、突然何があったのか、楽しそうな表情に変わった。

(何か嫌な予感がする…)

そう思ったが既に遅かった。


そして最初の会話に戻る事になる。




意図が掴めない話しに邑姜は眉をひそませた。

「なんの話しです?」

太公望は邑姜のその反応に思った通りの反応だというように嬉しそうに笑った。

「だから、眠りの森の王子の話じゃよ。」
「そんな話は知りませんが…。」
「お主にしては察しが悪いのう。」

愉快そうに笑う太公望を後目に真剣にこの言葉の意味を考えたが分からなかった。

はぁ。

「私の降参です。何の話なんです?」

わしを脅かそうなどと、まだ1億年早いぞ、と太公望は勝ち誇った顔をしたが、その後、何故か優しい表情をした。

「西洋の童話に『眠りの森の美女』というものがあってな、王子が魔法で眠っている美女にキスをしたら目覚めたという話じゃ。」
「それが、今の話とどういう関係なんです?」
「老子が、原因不明の眠りに陥ったらしい。」

水を頭から掛けられたような気分だった。

「…いつもの眠りと同じではないんですか?」
「それはないだろう。奴はジョカの居なくなった今、そのようになるわけがないからな。」
「……。」

養父である老子は、幼い頃から私を養ってくれた大切な人だ。
ここ最近、忙しさのあまり全然会っていなかった。
昔も、いつでも会えたわけではなかったが、優しくて、聡明で、尊敬できる私の…。

「何故、もっと早くに教えてくれなかったんです…。」

血の気が引いた様な表情をしている邑姜に太公望はゆっくりと言い聞かせるようにいった。

「お主がそのような表情をすると思ったからじゃよ…。老子は自分がお主を心配させたことを知ったら悲しむじゃろ?でも…」
「…でも?」
「でも、解決策など無いし、お主ならもしかしたら老子を眠りから目覚めさせれるかと思ったんじゃよ。お主と、老子は強い絆で結ばれているからな…。お主が呼びかければ目覚めるかもしれぬ。」

私に老子を助けることができるのだろうか?
いや、助けたい。

「私は老子を助けたい。太公望さん、今、老子は何処にいるんですか?」

「桃源郷。かつて、お主が居た場所じゃ…。」



早速、武王に休み貰い、邑姜は桃源郷に向かった。 それを見送りながら、

「お前、本当に凄い策士だよな〜。だらだらとしてたのも、初めからこういう展開に持っていく為だったんだろ?」
「なんのことじゃ?」

わしは何も画策などしておらぬぞ、と太公望は楽しそうにニッコリと笑った。

「まぁ、全部嘘ではないからいいけどな…。あいつも最近会いに行けなくて寂しがっていたから丁度いいだろうし。」

などと武王と太公望が会話していたその内容を邑姜は後で知ることとなる。





「ここに、老子がいるの…?」

かつて自分が住んでいた館を邑姜は見つめた。
長年、慣れ親しんだ館に心が少し落ち着く。

(今、助けます…。)

自分に気合いをいれ、老子が居るだろうと思われる部屋まで進んだ。

かつて、老子が使用していた部屋に老子は眠っていた。

「老子…?」

老子の寝顔があまりにも普通で、懐かしくて、話しかければ起きるような気がした。
そっと、老子の顔に触れてみた。

(暖かい…。)

全然動いてくれないから、死んでしまったのではないのかと心配だったのだ。

「老子?起きてください…。」

昔、老子にそうしたように軽く揺さぶりながら声を掛けた。
でも、起きない…。

「老子、起きてください!」

さっきよりも強く揺さぶってみるが起きる気配もない。

「起きて!!」

涙が頬を伝う。
この人の笑顔が見たい…。

その時、脳裏に太公望との会話が脳裏に浮かんだ。

(眠りの森の美女…?)

太公望が老子この様子をそう例えていたではないか。
姫の眠りつづけるという呪いは王子のキスによって解けた。

(もしかしたら…。)

少しでも可能性があるのならばと思い、老子にそっとキスをした。
一瞬だけ唇に触れるようなキス。
祈るような気持ちで…。

(目覚めて…)

恐る恐る目を開け、老子に声を掛けた。

「…老子?」

老子の体がビクッと小さく震え、うっすらと目を開けた。

「邑、姜かい…?」
「老子!目が覚めたんですか?!」

嬉しくて、思わず老子に抱きついてしまった。
昔、よくこの人にしたように…。

「あぁ、どうやら長い間寝てしまっていたようだね…。君に大夫、心配掛けたようだ。」

老子も懐かしそうに邑姜の頭を撫でた。
心配掛けてすまないね…、と謝るように、何度も何度も優しく…。



「何故、眠り続けていたんですか?」

高ぶっていた気持ちも収まり、いつもの調子に戻ってから、老子にずっと不思議に思っていた事を聞いてみた。
この人は見た目と違って強い人なのだ。
そんな人が原因不明の眠り病になるなんて、何があったのだろうか…。

「え?」
「太公望さんに、貴方が原因不明の眠り病だって聞かされて、慌てて来たんです。」
「原因不明?太公望が?」
「えぇ。」

そんな老子の不思議がる様子に邑姜は問いかけるが、老子が理由を話そうとしないので止めた。

「sleeping beautyか…。」
「え?」
「『眠りの森の美女』と言ったんだよ。」

不思議がる邑姜に老子は楽しそうに笑った。

「原因は、なかなか邑姜に会えなくて恋煩いになってしまった為、ではいけない?」
「えっ?」
「だって、お姫様を目覚めさせたのは王子様のキス。なら、私を目覚めさせたのは…。」

そう言って、老子は邑姜の唇に、キスをした。

「愛しい人のキスだと思うんだけど。」

急な老子の告白に驚いたが、老子の事が前から好きだったから嬉しかった。

「そういうことにしておいてあげます。でも、もう2度と心配を掛けさせないでくださいね。心配で死ぬかと思ったんですから…。」
「面倒だけど、邑姜がそういうなら努力はするよ。」
「お願いします。」

そう言ってまたキスをした。



sleeping lover

お姫様を目覚めさせたのは王子様のキス。

なら、
恋人を目覚めさせたのは…?


貴方を愛する私のkissの魔法











*おまけ*

その後

「で、本当の理由はなんなんです?」
「えっと…(目を反らす)」
「教えてくれないのなら、もう2度と会いに来ませんよ?」
「ゆ、邑姜!(汗)」
「で?理由は?(ニッコリ)」
「えっと…」

(省略/笑)

「太公望さん!騙しましたね!!」
「邑姜か。意外と早かったな。」
「あの、武王。太公望さんは?!」
「帰ったぜ。」
「あの人は〜(怒)」
「そんなに怒るなよ。せっかくのプリンちゃんが台無しだぜ?」
「武王!太公望さんの庇うのですか?こんな忙しい時に出掛けなくてはいけない原因を作った張本人ですよ!お陰で業務が滞ってしまったんですよ?」
「あんまり太公望を攻めるな。あいつは、最近お前が忙しすぎて疲れているのを気にしていたんだよ。それに、老子とかいうお前の養父がお前に会いたがっていたって聞いたらしくてな。休みがてら会い行かせたかったんだってよ。」
「……。」
「で、再会はどうだったんだ?」
「ヒミツです。(〃_ 〃)」
「おい!なんで顔が赤くなるんだ!!」
「なんでもありません!!!(逃走)」
「邑姜〜(泣)」

なんていう騒動が起きたらしい(笑)








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