古今未来




もう、季節はすっかり秋である。
木々の青々とした葉っぱは美しい橙色に染まっている。

この移ろいゆく季節のようにヒカルは変わった。
いや、成長したと言った方が正しいのだろう。
身長もそうであるけれど、精神的に成長したと思う。
前よりも騒がしいという感じが減り、静寂さを時折感じる。
顔つきも精悍になり、可愛いという顔だったのに今はかっこよくなったと思う。
大して、代わり映えしていない自分と比べると、なんだかヒカルに遠くに置いて行かれたようで寂しさを感じた。


「なんだよ?」


ヒカルが私の視線に気づいて訝しげな表情をした。


「ううん。なんでもない。」

「…変なの。」


あかりがそう答えるとヒカルは前に向き直り、どんどん先に歩いていく。


「ヒカル、待ってよ!」

「早くしろって。」


ヒカルに置いて行かれないように急いで後を追いかける。

私はこの季節は好きだ。
春の桜も好きだけれど、桜はすぐ散ってしまうのからそこまで好きじゃない。
やっと咲いたと思った数日後にはもう、儚く散ってしまうから。
けれど、秋の紅葉は長い間私を楽しませてくれるから好きだ。
なによりも、貴方が生まれた季節でもあるから…。

季節感が感じられて、1人でゆっくりと季節を感じながら歩く事が好き。
でも、やっぱり貴方と歩いているこの時間が一番好きで。

高校に進学してからは離ればなれになったから、最近はなかなか会う機会がなくなってしまった。
私は高校生で、ヒカルは棋士。
生活が全然違う。
今日は偶然に出会えたからこうして一緒に帰れているだけだ。
こんなことは珍しい。
昔はよく一緒に登下校していたのだが、今はそんな事はなくなり、もう遠い日の思い出と化している。


「…久しぶりだよね。こうやって二人で歩くのも。」

「昔はよくこうして帰ってたよな。」

「うん。ヒカルは最近、ますます碁が忙しそうだね。」

「あぁ。でも、楽しいから。強い奴とやれるのが嬉しい。」


そう、楽しそうに笑った顔にドキリとする。
彼のこの笑顔が好きなのだ。
それに、昔から変わらないこの笑顔を向けてくれるのが嬉しい。
ヒカルは社交的に見えるが実は人見知りするのだ。
心からの笑顔を向けてくれるのは心を許してくれいる証で、少なくとも自分が他の人よりも心を開いてくれているということが嬉しい。

でも、ちょっぴり、碁のことに没頭しているのを見ると妬けてくる。
もっと自分にも目を向けて欲しくて…。
でも、そんなヒカルも好きだから仕方がない。

でも、まぁ、唯一の救いは、ヒカルの興味が女の子に行かないことだろう。
最近かっこよくなったヒカルに気づきはじめたのか、雑誌などに載るようになったせいもあって、ファンなんてものもつき始めた。
だから、ヒカルにアタックしている女の子たちは多いけれど、貴方はずっと一つのことを見つめ続けているから少し安心する。


「…鈍いってのもあるけど。」


複雑な気分で。
鈍感ということで苦労させられ、そして救われもしている。


「ん?なんか言ったか?」

「別になにも。紅葉が綺麗だなって言っただけ!」


慌てて近くに立っていた紅葉を指さす。
実際に葉が美しく真っ赤に染まっていて綺麗だ。


「あぁ。…うん。綺麗だよな。」


なにか、感慨深そうに答えるヒカルに目をやると、懐かしそうに、そして寂しそうに紅葉を見つめていた。
なんだか遠い人のようで不安になる。
そう。
一時期、自我放棄になっていたヒカルを見ているようで辛くって。
近くにいるのにどこか遠い。

思わず、ヒカルがどこかへ行ってしまいそうで、怖くなって服の裾を掴んだ。
その行動で急に現実に戻されたかのように私を見た。
よっぽど私が心配そうな表情をしていたのか、私を見て苦笑いをした。


「…ごめん。紅葉ってさ、俺の…大切だった人のイメージなんだ。」

「大切、だった…?」

「うん。もちろん、今も大切だけど、…もう、会えることが出来ないから…。」


どうして?とは聞けなかった。
紅葉を再び見つめるヒカルの表情はひどく悲しそうだったから。
とても聞ける勇気がなかった。
聞いてはいけない気もした。

あぁ。きっと、貴方をここまで変えたのはその人なんだね…。

顔も知らないその人にひどく妬けた。
そして、羨ましかった。

いまでもヒカルの心の中にその人がいるってことが分かったから。
きっと、彼の心から消えることはないだろう…。


私たちは再び歩き始めた。
さっきよりもゆっくりと…。
あまり今の顔を見られたくないと思ったから、少し、彼の前を歩いた。


「…あかりまで、あかりまで急に俺の前からいなくなるなよ…。」


微かに後ろを歩くヒカルからそんな声が聞こえた。
それは、日頃の彼からは想像もつかないような、懇願するかのようなか細い声で。
そんな声を初めて聞いた。

どうして私がヒカルの前から消えるようとするのだろう。
それは私の心配することだ。
あまり遠い人にならないで…。
私の側にいて欲しい。


「ヒカルの望む限り、私はずっと側にいるよ…。」


ヒカルのことが大好きだから。
ずっと側にいたいと願う。

そう、私は後ろを歩くヒカルにそっと呟いた…。






***ひとこと。***
更新遅れてごめんなさいSS正式文章です。もう、このシリーズも3作目ですな。つまり、それだけ更新が遅いってことで…(^^;)アハハ(死)
今回は初めてヒカ碁を書きました!しかもあかヒカ(ヒカあか?)ですよ!!この二人はとても好きなのです。カワイイですよね。
特に、あかりちゃんのヒカルへの態度を見ていると二人の中を応援したくなりますv
ちなみに、今回の時代設定は卒業後の初めての秋。もう、ヒカルはプロの道一直線。最近カッコイイ彼なら絶対人気ですよ!と思い込んで書きました。いや、マジそうでしょ!
ほんとは、これ、誕生日の話だったのです。プレゼントを渡すために待ち伏せして、て感じだったのに…。
どこでどうまちがえたのかね…。ほんと。しかも、サイさん出張ってるしねぇ(笑)
ちなみに、タイトルの意味は、「昔も、今も未来もずっと貴方の隣にいたい」という意味でした。




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