変わらない君たち











ここは蓬莱島。

女カを滅ぼしてから、はや半年が経ち、落ち着きが戻ってきた。

この島の中心地から少し離れた所に広野がある。

そこに2人の男が集まっていた。

あの大戦で生き残った「太乙」と「雲中子」である。

広い高原の真ん中に大きな敷布を敷き、食べ物や飲み物を用意して、腰を下ろし、談笑していた。

話題はもっぱら「弟子」についてである。

・・・と言っても、ほぼ太乙だけが話しているのだが。




「ちょっと聞いておくれよ、雲中子!この前ナタクがあんまり私に懐いてくれないもんだから、ちょっと悪戯しただけなのにナタクったら師匠である私を攻撃してくるんだよ!?命の危険を感じたよ!」

「へー・・・。」

「でも、私は本気ではないと思うんだよ!なんたって、私はあの子の生みの親だからね!」

「おっ!よしよし。」

「きっと照れているんだね!やっぱりナタクはカワイイよ!!それでさ…」




太乙は相変わらずの親バカぶりを発揮して延延とナタクについて語っている。

雲中子は真剣に聞いていないのか、太乙への返事にはならないことを口にしている。

それもそのはず、手には怪しげな色をした液体が詰まった試験管がある。

それを、太乙が飲もうとしている飲み物の中に入れようとしていたのだ。

太乙は話すことに熱中していて気づいていない。




「喉が乾いたな!」




あわや太乙も雲中子の犠牲者になるのか!?と思われた瞬間、




「久しぶりさね!」

「やぁ!2人とも1000年ぶりだね!!」




二つの懐かしい声がした。




「天化!道徳!!久しぶりだね。」




天化と道徳には二人が封神されて以来、ろくに会えることが出来なかったが

今回は、特別に許可を貰ってこうして再会できることになったのだ。

特に道徳、太乙、雲中子の三人は誰もが認める仲良し三人組であっただけに、この久しぶりの再会には大喜びである。

わいわいと近況などを語っている三人を後目に天化はキョロキョロと辺りを見回している。




「ナタクと雷震子は何処にいるさ?」




どうやら二人の姿を探していたようだ。




「ナタクと雷震子ならもうすぐ来ると思うよ。」

「ナタクが私と来るのを嫌がってねぇ、無理やり連れてきたんだけど、逃げてしまったんだよ。」

「それで雷震子が連れ戻しに行っているというわけ。」

「お前のところも相変わらずだな…。」




道徳は呆れたように太乙を見ながら言った。

太乙はそんな道徳と以前のように口げんかをしていると、ナタクを連れた雷震子が帰ってきた。




「よう!待たせたな!!」

「……。」




ナタクはちょっと不満そうな顔で雷震子に捕まっている。




「あぁ!元気そうだな。よく、ナタクを捕まえられたな。」

「ちょうど天祥が通りかかってな。説得してもらったんだ。ナタクは天祥に甘いからな!」




そんな雷震子の言葉にみんなは笑った。




「黙れ。殺す。」




ナタクが宝貝を雷震子に向け、言葉の抑揚無く言ったので慌てた。




「な、なんだよ。俺が悪かったから。なっ、そんなに怒るなって!」




ドン




「うわぁっ!や、止めろ!!」

ドン ドン




「うぎゃぁぁ〜!!」




必死に逃げる雷震子とそれをシツコク追いかけるナタクの光景を周りは無視しつつ久しぶりの友好を深めていた。

所詮、このような光景は彼らにとって日常茶飯事なのだ。




「そこ!のほほ〜んと談笑してんじゃねーよ!助けやがれ!!」




もちろん、雷震子の言葉を周りが聞き入れるはずなく、この二人の追いかけっこはこの後10分ほど続いてやっと終わった。




「はっ、はっ、はっ…、お前ら何で助けねーんだよ!」




この追いかけっこによってかなりの体力を消耗したらしい。




「助けたらナタクに殺されかねないからね。まぁ、これでも飲んで落ち着きなさい。」




そういって、太乙はまだ口をつけていない自分のコップを差し出した。




「お、ちょうど喉が渇いてんだよ!悪いな。」




そう言ってごくごくと飲み干した。




「あっ・・・!」




丁度飲み終わった時、雲中子がそう、短く呟いた。

その短い呟きは悲しくも雷震子には聞き慣れた響きを持っていた。




「えっ…?もしかして…コレって…」




冷や汗がつーっと首筋を伝っていくと思った瞬間、

ボンッ

軽い爆発音と何色だがよく分からない(というよりも表現しにくい)凄い色をした煙がもくもくと辺りを包み込んだ。

みんなが慌ててその煙を追い払った時には既に遅かった。




「あっははははは!!!」




雷震子の姿を見た途端、みんなは腹を抱えながら大爆笑をした。

もちろん、ナタクはそんな風に笑いはしないが、微かに笑っている。




「ら、雷、雷震子がぁ〜っあっはっはっは。あ〜腹がいたいよ。」




太乙に至っては目から涙まで出ている。




「おいおい、笑っちゃまずいだろ、笑っちゃ。…っぷっ。」




太乙を諫めようとした道徳までが耐えきれずに雷震子の姿に吹き出していた。

雷震子は自分の見に何が起こったのかまだ理解しておらず、みんなのその反応に戸惑うばかりである。




「あなた達!笑うんじゃありませんわ。雲中子!!あなた、何のクスリを飲ませたんですの!…ん?!」




自分の口からでた言葉を信じられなかった、いや信じたくなかった。




「ねぇ、私、っじゃなくて俺、って今……。」




恐る恐るみんなの方を見たら、太乙が手鏡を笑いながら差し出した。




「はっ、はい。これ…。」




笑っているために手まで震えている。

恐る恐る鏡を覗いてみると…。




「うわぁぁぁ―――っっ!!何だよこれ!!」




鏡の中に映っていたのは女の子になった自分の姿だった。

至って普通の女の子に見えるよな人物(例 普賢真人)が変化するならともかく、筋肉もあり、色黒、言葉遣いも男らしい雷震子が女の子に変化したのだ、みんなが笑わずにいられるはずがない。




「これはどういうことですの?…じゃなくて…どういうことだよ!説明しやがれ!!」




雷震子は雲中子の首根っこを捕まえて上下に揺さぶった。




「いや〜それ、本当は太乙に飲ませるつもりだったんだけどね。」




その言葉を聞いてもしかしたら自分がこうなっていたのかもしれない…と太乙は青ざめた。

尚も自分を揺さぶり続ける雷震子に向かって、




「まぁ、どっちにしろ成功でよかったよ!」




頭を何度も上下に振られつつも、何の罪も感じてないようににこやかに雲中子が言うものだから。

プチッ




「ふ〜ざ〜け〜ん〜な〜〜〜っっ!!」




とうとうキレた雷震子が雲中子を突き飛ばした。




「いや、別にふざけてなんかないけど…いや、なんでもないです…。」




雷震子の顔がにこやかに、しかし、どこか冷や汗をかくような怖さを感じる笑顔になったのを見て、雲中子はさりげなく逃げだそうとした。




「何処に行こうとしていますの…じゃなくて何処に行こうとしてんだ?あぁ!?」




ドスが利いていて恐ろしい。




「……(汗)」




ダッッ!!

これは当分怒りが収まらないだろうと感じた雲中子は逃げた。

この師弟の中ではこんな事になるのは日常茶飯事なのか、なかなか逃げ足が速い。




「あっ、逃げるな!!元に戻しなさい…じゃなくて戻しやがれ!!」




段々離れていく雲中子を急いで追いかけた。




「待ちやがれぇぇぇぇ〜〜!!」




周りはもう、触らぬ神に祟りなしという感じで少し離れてお茶会をしていた。

どんどん小さくなっていく二人の姿を眺めつつ、のんびりと久しぶりの再会を満喫しているようだ。




「向こうは賑やかだねぇ〜。」

「あそこもなかなか大変だな。特に雷震子がな。油断してると何を食べさせられるかわかったもんじゃないからな。」

「師匠もなんか被害にあったことあるさ?」

「いや…ね。そりゃぁ…。」




道徳は何か思い出したくないことでもあったのか目をそらしている。

天化は聞いてみたかったが、これ以上話を聞かれるのが嫌そうだったのでやめておいた。

人間そっとしておいて欲しいことの1つや2つあるものだ・・・。

遠くからはまだ雷震子と雲中子の派手な師弟喧嘩の音が聞こえる。

隣ではいつも通りの親バカぶりを発揮してナタクにべたべたしている太乙がいた。

多分、いや絶対、そろそろナタクはキレて、こちらも派手な喧嘩になるだろう。

『みんな相変わらずさね…』と天化はしみじみと感じた。

この人たちはいつまでたっても変わらないと。

なかなか会えない存在なだけに安心と嬉しさを感じた。

『天祥も変わってないといいさねー…』とこの後会う約束をしている幼い弟のことを思った。

なにせ、久しぶりの楽しみにしていた再会である。




「結局、のんびりというかドタバタした再会になったな。」




いつのまにか始まっているナタクと太乙の喧嘩を楽しそうに眺めていた道徳はそっとそばに来て天化にだけ聞こえるような小さな声で苦笑いしながら言った。

でも、その苦笑いもどこか楽しそうだった。




「そうさね。」




自分も同じように笑って返した。

きっと、この後で会うみんなも同じようなものだろう。

想像がつくだけに、自然と笑みがこぼれてくる。




「そろそろみんなのトコに行くさね!きっと待ちくたびれてるさ!」




大声を出して遠くに行ってしまった雷震子や雲中子にも聞こえるように叫んだ。

きっと、変わらないみんなで迎えてくれるだろう。




「退屈しようのない再会になりそうさね。」




誰にも聞こえないような小さな声で呟いた天化。

その顔には満面の笑みが浮かんでいた――。

変わってなどいないだろうから。

この先に待つのは変わらない君たち。

そして、変わらない俺たちとの再会――。















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