「テマリ、花火を見に行こうってば!」


彼はそれこそ、彼自身のそれが大輪の花のように笑った








宵闇時を越えて













道を仄かな灯が照らしていた
一歩前を行く彼が自分の手を取って、早く、と先へ先へと自分を誘う
いくら周囲が暗くなってきたからといって、まだ至近距離顔が判別できるほどには明るかった
別の里の忍である自分がそうであると見破られないとは限らないのに、まったくといって頓着してない様子で
いつもはもっと冷静な奴なのに、と思わずにはいられない
突然自分の所に表れたと思ったら、あれよあれよという間にココに連れてこられていた


「分かってるから、ひっぱるんじゃない!転ぶだろう?」


離してくれと、そう後ろから非難すれば
それまで止まる事のなかった足取りがぴたりと止まって、手が離され、あわやテマリは彼の衝突しそうになった
躓きそうになりながらも、なんとかバランスを取って自分も止まり、再度非難しようとテマリは顔を上げた


「ナルト…?」


しかし、口から出てきたのは彼の名前だった
見た事ない表情で彼はこちらを見ていたから、他の言葉が出てこなかったのだ
そう、…例えるならば、ドベの時の表情に近いかもしれない


「ごめんってば…」
「…何がだ?」


しゅんとした表情で急に謝るナルトに意味が分からなくて、軽く首を傾げながら見上げれば
自分よりも濃い蜂蜜色の彼の髪が月灯に照らされて、淡く光って見えた
綺麗だな、とぼんやりそんな事を思っていると、それを咎めるように与えられる温もりに意識は帰る

指を絡め取られてた


「ナルト…?」
「急がせてごめんってば。気が逸りすぎた」


たったそれだけの事であんな表情をするのかと、テマリは可笑しさを隠せない
…そして、なんだか嬉しくもあって
だって、彼が、蒼輝がこんな表情をするなんて、きっと普通じゃありえなくて
それが見れるというだけで特別で


「間に合わなくてもいいや。…テマリといれるでだけで俺は満足だから」


ゆっくり行こう?
艶やかに笑って
ぎゅっと手を繋いで

歩き出す


「…うん」


お互いに普段とは違う浴衣に袖を通し
普段は履かぬ下駄をからんころんと軽やかな音を立てながらゆっくりと歩き出す
道の先では、お囃子と人々の笑い声が聞こえた

そして、


「「あ」」


綺麗に夜空を彩る極彩色の大輪の華が咲く

まだ森を抜け切っていないために、空全てを見る事は叶わないが十分にその美しさと迫力が伝わった
全ての人の視線を浚っていって
周りを一瞬だけ照らす


「綺麗だ…」


思わず零れた感嘆の言葉
だからこそそれは、テマリの本音そのものだという事がわかる
ナルトはその様子を見て微笑した


「よかった」
「何が?」
「テマリが笑ってくれてるから。それが見たかったんだ」


最初の一発を皮切りに、続けざまに数発、花火が空を色とりどりの華で埋め尽くす
ナルトのその言葉に思わず、テマリはその頬を赤く染めた
花火がその表情をより鮮明に見せる


「…馬鹿。ナルトはそういう事を気安く言いすぎだ」


恨みがましい目をナルトへと向けたが、余計にナルトはそんなテマリを見て笑みを深めた
そんな様子ではちっとも怖くない
むしろ、ナルトのテマリを可愛いという気持ちをより強めるだけだった

ナルトは絡み合った手を持ち上げ、自分の方へと引き寄せる
胸の中へと倒れ込むテマリを難なく受け止める


「心配しなくても、テマリしか言わないから」


耳元でそっと囁いて
ぎゅっと抱き締めて


「…うぅ。花火か見れないだろ。離せ!」
「ヤダ。もう見たし」


我侭、という言葉をテマリは言おうとしたが、それがさらに恥ずかしい言葉を引き出しそうで、留まった
しかし、ナルトはそれで留まる器ではない
特別サービスだと言わんばかりに、その美しい相貌に極上の笑みを浮かべた


「テマリの浴衣姿を他の野郎に見せたくないない。綺麗だ」
「…あぁ、もう、お前は黙れ!」


強引にテマリはナルトの口を自らの口で塞いだ
さらに紡ごうとしていたナルトの言葉をそうする事によって全てを飲み込んで
しばし、言葉以上の気持ちを伝え合う

その沈黙の間に大きく響く花火を打ち上げる音を聞きながら
愛しい人の温もりを感じて
笑いあう

宵闇の先 漆黒の夜
鮮やかな華が咲く
それは一瞬限り咲きほこる儚い華
だからこそ美しく、愛しい…


「連れてきてくれてありがとう…」









でも、何よりも君と見る事が出来た、この一瞬が何よりも愛しいのだ









fin








*****あとがき。*****
こんにちは。
今回はテマナルです。どうやら当サイトへと通ってくださる方にテマナルがお好きな方が結構いらっしゃるようなので、思わず息抜きで書いてみた作品です。一部のお待たせしましたな熱狂的な(?)テマナル好き様方、どうでしたでしょうか?
これを書いたのは暑い夏でした。そんな中にさらに暑くなる話でした(笑)夏なので夏の定番の花火です。…でも、彼等は目的地にまで行けてませんね?(笑)いいのよ、花火は見れる範囲広いから!ワザワザ近くに行くより危険は少ないし、いちゃつけるしさ…!(え)
なんというか、本当に、彼等が当サイトで一番ラブい空気を醸し出します。だから、ラブい場面を書いてると楽しいのですが、辛いですι砂糖吐く〜!!
WEB拍手公開用だったため、普段より短いですιごめんなさい。

少しでも皆様のお心に留まりましたら幸い…

06.07.28「月華の庭」みなみ朱木





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