煌めく星々の光は闇を照らす小さな灯りだった 闇に降る星の灯は 何かが忍び寄る気配を敏感に感じてナルトは静かに読んでいた本からそっと手を離した。 太陽は大分前に姿を隠し、闇の帳がおろされていた。 里を照らすのは仄かな街灯と家々の明かり、そして漆黒を彩るのは冴え冴えと光る三日月と数多の星々の姿だ。 冷たい空気はその淡い光を殊の外美しく見せていた。 今日は確か星が多く降る夜だと誰かが言っていた事を思い出した。 澄んだ空に輝く満天の星々、それが降ってくる様子は確かに見ものだろう。 確かいのもその言葉に酷く反応を示していたなと思ったが、ナルトは自分がそれをしようとは思わなかった。 凍えそうな寒さ。 吐く息は外気に触れて白くなって霧散していく様は余計に寒さを連想させた。 ――…冬は好きじゃない。 寒いのは嫌い。 雪は大嫌いだ。 だから、冬になるとナルトは大抵必要な外出以外は脚力控えるような生活をしている。 それは今回のような件でも例外はなかった。 そんな生活を送っているナルトだからこそ、暖かい空気で暖かい毛布にくるまってぽかぽかとしている状況から抜け出さなければいけない状況を作り出したソレに酷く腹が立った。 百歩…いや千歩…いやいや億万歩譲ってこれが春や秋ならまだ裸で簀巻きの上に森の中の蜂の巣の前に放置とか雨が降りそうな日の川原に放置とかで許してやるのだが、冬は駄目だ。ほんの少しの温情も出せる気がしない。 まぁ、そもそもの話、ナルトを狙ってくる者の種類が限られている。 普段のナルトを知るだけの者に付けねらう理由を持つのは難しい。 殆どの者にとってナルトは決して賢くはなく、元気なだけがとりえの一直線な子供でしかない。 いや、過去の因縁からよい感情を抱いていない里人がナルトを嫌う事実は多分にあるのだが、実際に行動に移す者は実は少ないのだ。 そこには色々な事情があるのだが、まぁ、今はその話は関係ない。 ここで重要なのはそんな中で襲ってくるような人間は明らかな殺意を持つものであり、その理由は大体ナルトにとって受け入れがたい理不尽なものでしかない。 ――つまりは情けなど少しも必要はないということだ。 「ったく、ここ最近は静かだったのに…」 ちっと、思わず舌打ちをしてしまう。 本当なら慌てるべきなのだろうが、幸か不幸かこういうことには慣れてしまっている自分がいてすこぶる冷静だ。 むしろ相手に警戒心を持たせぬように見かけだけは常と変わらぬ状態を保ったままに過ごす。 怪しい気配は二つ。 いつ突撃しようかとタイミングを窺っているようだった。 さて、どう調理してやろうか、と思案を巡らす。 反撃の材料には困ってはいない。 身に着けている武器もだが、体術も負けてはいないつもりだ。 それに一見そうとは見えないが、部屋の至る所に武器は隠してあった。 問題は場所が場所なだけに後始末が面倒なだけで、云わば本拠地でもあるような場所に来るなんて愚かだというしかないだろう。 あるのは武器だけではなく、罠も至る所に仕掛けてある。 手入れから返ってきたばかりの刀の調子を見ようか、それとも考案中の術の栄えある実験台一号にするべきか…とウキウキとしかけたところ、耳に届いた音に一瞬だけ動きを止め、そして大きなため息を零した。 それはとても小さな音ではあったが、耳のよいナルトにはしっかりと届いた。 何か持っていた物と物がぶつかり合ったような音だった。 肝心なところでうっかり音を立ててしまった事に慌てる気配はいつしか険呑なものになっていって…。 そこまで感じ取ると、再度ナルトは大きな大きな溜息を一つ零した。 やはりクナイが手ごろかなと手にしていた柄から手を離す。 何気なさを装って扉へと近づいていたのだが、気持ちは一転、元の場所へと戻って読書の続きをしたくなった というより、寧ろ、扉に厳重な鍵をかけたい、扉を板で塞さぎたいという誘惑にかられる。 「しかし、ご丁寧に綺麗に気配消してまで何の用だか…」 いや、何と考えるまでもない。 どうせ大したことではないだろう、過去の事例がそれを確信させた。 それに、今回は日付が何となくその理由は想像させた。 とりあえず、回数を重ねた分だけは成長しているのだろう。 なにせ、鈴の音を響かせるまでは彼らだとその正体を気づかせないぐらいには気配の消し方が上達しているようだった。 と言っても、詰めが甘いところがまだまだ修行の余地があるようだが。 無視を決め込みたいところではある。 だが、それをすれば、結局のところ、そのつけを払わされるような気がしてならない。 それも、今素直にこの状況を受け入れる以上に大変な目に合うだろう。 目をそむけたい事実ではあるが、それは経験則だ。 仕方がない、と扉へと向かう。 仕方がない、そう感じているのに、不思議と不快ではなかった。 先ほどまで心を充満していた漆黒の闇色の気持ちはいつか霧散していた。 ――あるのは呆れと苦笑にも似た気持ち。 それも、冷めたものではなく、温かみを持っていて。 恐らく、この気持ちにつけられる名をナルトは知っている。 けれども、まだ名前をつけたくはなかった。 僅かに残る恐れ。 それがそう思わせているわけではない。 認めたくないわけではない。 ――だって、もう、認めている。 でなければ、きっと、こんなにも頬は緩まない。 きっと、こんなにも心が暖かくなどならない。 自分がそれを素直に態度に表せないだけだ。 自分の事ながら素直ではないな、と自己評価を下すが、けれども改める気にはならない。 彼らには諦めてもらうしかないのだ。 それが、己なのだと。 先ほどとは別の意味での苦笑を浮かべながら扉へと向かうが、その気配を彼らのように悟らせるようなヘマはしなかった。 そっと扉のノブに触れて気配を伺って、タイミングを計る。 ・ ・ ・ 3、 2、 1 もう開ける、と思った彼らよりほんの少しだけタイミング早くノブに力を込めて 「A HAPPY NEW YEAR!!」 素早く開けた扉越しに叫べば、驚いた顔をする二人のまんまるになった暖かな闇色と新緑の色の瞳に更にしたり顔で笑みを深めると、やられたという顔に変わる。 けれど、それはほんの少しの間の事で、すぐに笑顔に変わった。 「「A HAPPY NEW YEAR!!!」」 その言葉と共に襲いかかったのは毛並みの長い布。 二人ぐるみの息の合った作業にあっという間にナルトはぐるぐると首に巻かれ、頭にもすっぽりと被され、身体ももこもこに包まれて。 「さて、準備は万全だな」 「完璧ね」 「…ええっと、お二人さん、説明はないってば?」 とりあえず、じと目で説明と釈明を求めるが、返ってくるのは二人の満面の笑み。 ナルトの視線にびくともせずに、にこにこと鉄壁の笑みを崩すことないままナルトの両脇を二人が抱える。 まるで連行される犯人のような光景だ。 そして、部屋の中から寒い外へ。 十分に想定内の出来事ではあるが、予想はしていても受け入れがたいものであることには変わりはない。 けれど、二人の腕を、温もりを振りきれない自分がいて…。 「星を見に行こうぜ」 「それと、朝日もよ。新年だしね!二人で一緒に迎えましょうよ」 「――おい、いの。お前、今年の初っ端から…本当にいい根性してるよな、お前」 「褒めくれてありがとう」 「褒めてねぇよ!」 両腕を掴まれたまま、連行されたままの状態での言い争い。 新年の清らかですがすがしい感じはそこにはなく、あるのは賑やかさと今年もか…という諦観の気持ちだ。 初めがこれなら今年も思いやられるってばよ、フフフと思わず怪しい笑みが漏れ出てしまう。 「…お前ら、いい加減にしねぇと気絶させて二人一緒に紐で括って、神社に放置するぞ」 ひぃと恐怖に顔を引き攣らせ、大人しく黙った二人の様子に満足気に頷くと固まった彼らの腕を引きずられる形から一転、引っ張るように動く。 「ナルト?」 「星、見たいんだろ?」 「いいの?」 「いいもなにも、だからこんな格好させたんじゃないってばよ?」 もこもこで気太り状態だ。 お陰で寒いのは顔の一部分だけという状態で。 こうまでして行きたいというのならば、叶えてやりたいと思わなくもない。 けれど、決して進んで外へと行きたいと思わないのは変わらぬ事実で、だからこそ時間がかかればその気力が削がれてしまう。 「早くしねぇと気が変わるってばよ?」 行かないってば?と問えば、またしても腕を引っ張る主導権は二人に戻って、その必死な様子に堪え切れぬ笑みを零しながら、思ったよりも気分は悪くない、むしろ高揚しているなと思いながら、数多の星が美しく煌めく夜空の下へと三人で駆けていった。 きっと、今宵の星も降るように美しいのだろう。 fin. *****あとがき。***** いつも当サイトをご覧くださってありがとうございます。 冬、新年もののシカナルいのです。 何年だっても、結局は変わらぬ三人の賑やかな感じのお話です。 どうやらこの三人は一緒に星を見に行くのが好きなようですね。冬の方が天体観測に適しているので冬嫌いなうちのナルトさんは大変です。連れて行く周囲も大変そうですが(笑) ちなみに、後日談としてはうっかり詰めで気を抜いたいのちゃんはビシバシと蒼輝さんにしごかれたのではないかと(笑)そのとばっちりを黒月さんもうけたのではないかと(笑) では、このお話が少しでも皆様に気にいってもらえたなら幸い…。拍手ででもコメントいただけると嬉しいです。 今後ともよろしくお願いいたします。 10.01.01 「月華の庭」みなみ朱木 |
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