それは色とりどりの、鮮やかな大輪の花のように











sqall flower














「あ、やばいってば…」


後悔先に立たずとはよく言ったものだ
自分の甘かった考えに少しだけ後悔し、ナルトはため息をひとつ零した

出かける前に怪しいと思っていた雲行きは予想から外れる事無く悪化していた
忍は忍術だけではなく天気にも精通していなければならない
もちろん、ナルトにも予想ぐらいお手の物だ
星から、雲から、風から、空気の臭いから天気を導き出せる
未だ表向きの立場である下忍であれば不安の残る予測も、本当は暗部として日々任務をこなす立場となればほぼその予測は外れない
けれど、今日は任務ではない日で、何と明日も予定はない
何の神の悪戯か、「運が良い」と評価するよりも「何が起きたんだ!?」と思わず疑問の声を上げてしまう程の奇跡のような日で
となれば注意深く予測立てるのも、シカマルではないが面倒で放棄していた

日ごろ、ごろごろと怠惰な生活を送ることはあまりないナルトだったので、休日だと喜び、勇んで満喫しようとしたものの、足りない睡眠を貪れば後はただ暇なだけだった
有効な休日の消費の仕方を思考した結果、観葉植物の手入れだろうと結論づけて色々いじったが、元々急遽長期任務に出ても問題にならない管理しきれる程度の植物しかナルトは育てていない
それも直ぐに終わってしまって暇を持て余していた
仕方がないと、ふらりと行き先も決めずに外へと飛び出した
その時、初めて見上げた空は灰色がかって、空気は水分を含んでいた
あぁ、もう少ししたら雨が降るってばねぇ…とぼんやりと思ったが、然したる目的もない外出で既に外へと飛び出していた
もう一度帰るのも面倒で、一度家へと帰れば外出する気が失せてしまうだろう
それは本末転倒な話だ
だから、「ま、いいっか」となるようになるだろうと流れに身を任せて引き返す事をしなかった

そして、今の状態である
灰色がかった、という表現から今はもはやどんよりとした錆色という表現へと変わった空の色
雨の雫が落ちてくるのは時間の問題だった
しかし、引き返そうにも里から少し離れたこの場所はナルトの俊足でもっても間に合わないだろう
濡れる事はもはや決定だ
それに、遠くの空は微かに明るい
幾ばくか待てば雨も晴れ上がるだろう
そうと分かれば家路を急ぐのもばかばかしくて、雨が降るのを、そして晴れあがるのを待とうと、最寄の手ごろな大きな木の下へと入った
その瞬間、待ってましたと言わんばかりに木々の葉を雨の雫が打つ音が響いた
ぽつぽつとしかし、それは駆け足に強くなっていった
まるでスコールのようだ
生い茂った木の葉っぱは強い雨を避けてくれるようでずぶ濡れになる事はなかったが、それでも全てを凌ぐ事は流石にできずにナルトの身体を冷たい雨雫が濡れていった
金色の髪も濡れて、オリーヴ色のような濃い色へと変わっていた
雫は次第に髪から頬へと伝っていく
こんな事ぐらいで風邪などひく軟な身体ではないのだけれど、望んで打たれるのではない雨によって濡れるのは心地よくなかった
けれど、こんなどしゃぶりの雨の中駆け出す事もしたくはない
仕方がないと、木の根元にどっかりと座り込んで足を抱くようにして雨上がりを待った


ザーザーと降りしきる雨の音
唯でさえ人気のないこの場所で雨音は全ての気配を曖昧にする
まるで世界中に独りきりのような錯覚
それはかつて感じた、懐かしいとも言えるべき感覚
一度目はあのヒトの存在で
そして二度目はシカマルやいのと出逢ってから薄れたものだ

それはモノクロの世界のように味気ない、淡々とした、何も心に響かないセカイ

何事にも心を動かす事無く
まるで全ての感情が凍ってしまったように

綺麗なもの美しいもの

誰もが心動かすものにも己の心には届かない
何も心には響かなくて

哀しいもの醜いもの

だから、同時に何にも己自身が傷つくことはない
それはきっと喜ばしいことで
けれど、生きる事を否定するような生き方だ
ただ生きているだけ
命ある人形のようだった

あの時はそうは思わなかった事だが、今となってはそうだったのだと自分でも分かる
今は違う
生きたいと望んで、そして感情を再び手にしたのだ

それなのに、こんな天気の中独り、雨と木と己という存在だけというような全ての外界から切り離されたようにいると昏い想いがナルトの心の中に微かに、けれど着実に積もるのだ


「――…早く止めってば…」


睨むように、憎むように、空も見つめる
けれど、天はナルトを嘲笑うかのうように尚も雨を降らす
きっと、これがあの木の下だったのならばこんな気持ちにならなかっただろうか
否、きっとなっただろう
だって、白い花は変わらずそこにはあるが、あのヒトはもう居ないのだ

ただ、時の流れを祈るように、心をこれ以上乱さぬように、足に顔を埋めて瞳を閉じる
耳に届くのは雨音だけ
葉を打つその音を自然の奏でる音楽なのだと言い聞かせて




静かに、穏やかに、雨は振り続けた
外音を遮断する音に、ナルトは微かな異音を、しかし聞きなれた音を耳にして顔をはっとあげた
その音がした方へと顔を向ければ、景色に馴染まぬ鮮やかな蒼色と桃色の花が視界に映った
雨に紛れて途切れた音は、花が大輪になるにつれて言葉となった
それは紛れもない、己の名だ


「「ナルト!!」」
「シカマル、いの…」


蒼色の花はシカマルの、そして桃色の花はいのの傘の色だった
色失せた世界ではまるで花のようだった
息を切らして、満面の笑みで己の元へと駆け寄る二人にナルトは瞠目した
その表情に、二人は互いに顔を見合わせて、してやったりとした顔でナルトへと笑んだ


「ったく、探したぜ?」
「そうよ。家にもいつもの場所にもいないんだもの。どこかいくなら声かけるとか、どこいくかとか書置きしていってちょうだい!」


確かに今回の休みはシカマルやいのも被るものだが、けれどそこまで縛るものではない
どう消費しようと己の勝手のはずだ
だから、別にナルトがそんな事をする必要もないのだから、一方的に怒られるのは酷く理不尽だ


「なに」
「何、ってお前を迎えに来たんだよ」
「そうそう」


何か頼んだわけでもない
それなのに何言ってるんだというその口調に些かむっするも、けれど、さっきまでの独りの世界が今は三人というだけで鮮やかに感じられて、楽しいと、嬉しいと感じてしまう自分がいて、その感情は直ぐに霧散してしまった


「で、何の用があって?緊急の呼び出しとか?」
「任務じゃないわよ。やめてよ。そんな冗談でも口にしたら本当になりそうで嫌」
「同感。せっかくの休みが半日で潰れたら俺は年甲斐もなく泣くぞ。いつぶりの休みだと思ってんだ」
「そうよそうよ。……でも、そうね、シカマルが泣いてくれるっていうんだったらちょっとあってもいいかなとか思うわね」
「なんか言ったか、いの?」
「気のせいじゃない?いやねぇ、シカマル。もう耄碌しちゃったの?やめてよ、その歳でだなんて」
「聞き捨てならねぇなぁ。まぁ?俺がちょっと耄碌したってお前よりは上だけどな。色々と」
「なんですって〜!!」


他っておけばいつまでも続くであろう言い争いに、毎度のことながらよくも飽きないものだと、ため息を一つ吐く
感傷的な気分は既に少しも残っていない
こんな取り除き方もあるのかと、思わず笑ってしまいたくなるような方法だ


「おい、いい加減にしねぇと…わかってるってばね?」


にっこりと、けれどその声音は冷ややかに、口調はドベのもので言葉を発すればぴたりと泊まって、にへらっと二人は笑ってその争いは収束した
はじまるきっかけも簡単だが終わるのも簡単だ
ともかく静かになってよかったと、やれやれと思いながら腰をあげる
雨に濡れそうな己を、雨から庇うように頭上へと傘をさされ、思わず感謝の意を込めて笑んだが、顔を上げた瞬間その笑みは固まった

差し出されたのは二つの傘だった

ちなみに、親切に詳しく表現するならば、「新たに」ではなく「元よりある」二つだ


「もちろん、こっちだよな?」
「あれ、こっちよね?」


にこやかに、けれど、それこそさっきのナルトのように瞳は笑っていない迫力ある表情で二人に迫られて、ナルトは思わず後ずさった
雨が降ってるのが分かっていて、その上で迎えに来ているのならば、そこにはナルト用の傘があってもいいはずだ
けれど、あるのは計二本の彼らの傘だけ
つまり、どちらかの傘に一緒に入れということで

…絶対に確信犯だ、これは

少なくとも、シカマルは確実に、だ
いつも彼が個人的に利用する傘よりも大きいのがその証拠だ
さてどうするか(否、どうしてやるかが正しいのかもしれない)と沈黙していれば、再度、ナルトの目前で先ほど諌めたばかりなのにぎゃーぎゃーと言い争いが初まっていた
なんていう学習能力のなさか
大体、シカマルは普段はこういった騒動をさけて傍観しているようなタイプな癖に、いのと一緒になると低レベルな争いばかりする
思わずいらっとしたが、これをいつも二人の騒動の中心にされ、振り回され、諌める役に回される己なら、そういう感情を抱いても許されるはずだ(というか、ダメだといっても絶対に許させてやると強く誓う)

一喝することもなく、無言で、言い争っているシカマルの手から傘を奪い取り、呆気に取られているシカマルといのに壮絶な笑顔を一つ贈る
そして、シカマルの身体を強くいのの方へと押し渡した


「ありがたく、傘使わせてもらうってばね」


後は二人で仲良くするってば
と付け加えて、後ろ手でひらひらと別れの挨拶を一つ
反論は受け付けませんとばかりにナルトは颯爽と家路へと向かった

後ろではお前のせいだとかあんたが邪魔するからとか、喧嘩が激化している声
本当にあいつらは…と思わずにはいられない
――でも、まぁ、そのうち飽きて追いかけてくるだろう
桃色のいかにも女性らしい可愛らしい花のような傘にシカマルが入るかどうかは別として
不機嫌そうな表情をした二人が同じ傘に納まって追いかけてくる図を想像したら、思わずおかしくて、ぷっとナルトは吹き出していた



なんと、彼らと生きるこの世界の愉快な事か















それは、まもなく見れるだろう雨上がりの空にかかる虹にも似た、美しい世界に感じられた








fin






*****あとがき。*****
こんにちは。ナルトの通常更新では申し訳ない感じなぐらい間が空いてしまって平謝りな気分な新作です。シカナルいのシリーズより、三人仲良く(?)してもらいました。ほぼ無糖ですが(涙)
あれ、もっとほのぼのとしてたはずなんだけどなー?と書く前の予想とは違ってます。仕方がない、なにせシカナルいのだから!ナルトを目の前にした二人の暴走は私には止めようがありませんので(笑)
フェミニストなナルトさんはどちらかというとこのシリーズではいのちゃんに甘いので、久しぶりの更新→平等平等!と唱え続けた結果です。あははー。あ、まったく私にはナルト受け以外の要素はないのですので!
ちなみに、何故迎えに来たか→「そんなの、逢いたいからに決まってるだろ?」はっ!ここ書いてたら甘かった…!(笑)

では、このお話が少しでも皆様に気にいってもらえたなら幸い…。拍手ででもコメントいただけると嬉しいです。

08.05.20 「月華の庭」みなみ朱木







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