夢香 ―Sample―





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 ――あの時、初めて彼に出会った時にこれは運命なのだと、現実主義者だったのにも関わらず、シカマルはそう悟った。自分は彼に跪き、一生傍で仕えていくべきなのだと、浮かんだ想いを微塵も疑わなかった。疑いようがなかった。
彼は、まだ自分と同じ幼い身でありながらも既に王者だった。孤高で気高く、そして誰よりも強かった。だからこそ、惹かれたのだ、心から。



「―――いた」

 シカマルにとって自分の主人である、うずまきナルトはそれまで駆けていた足取りをぴたりと止めると、口の端を微かに愉快気に持ち上げた。しかし、冴えた深き泉の如き色をした美しき蒼い瞳はそれに反して少しも笑ってなどいなかった。そこに浮かぶ感情は何もない。唯、目の前を行く敵の姿を冷酷に捉え、映しているのみだった。
任務時だけ常にそうなのだが、今回も本来の姿形とは変わり、青年の姿へ変化していた。変わったと言っても、顔の造作は彼そのもので、未来のナルトそのものである。またシカマルも同じく、ナルトの変化した年齢に合わせて青年へと変化していた。
足元まである長い漆黒の外套の頭巾から覗くナルトの金色の柔らかな髪が風に弄ばれ、掻き乱された。黒衣の隙間から覗く磁器の如き肌は抜けるような白さで眩しい。静寂に満ちた真夜中に唯一存在を主張するかのようにぽっかりと浮かぶ金色の月の光に照らされたその様は、美しい、の一言だった。
それだけではなく、シカマルは仮面で隠されたその顔にふっくらと薔薇色に色づいた唇と、形よく筋がすっと通った高い鼻がある事を知っていた。変化する前の愛らしい顔はよりシャープで精悍になり、愛らしいというよりは綺麗だという表現がぴったりだった。
 ナルトから呟くように齎された言葉に、同じく暗部の衣装である黒衣を身に纏い、彼の傍で控えていたシカマルは直ぐさま彼が向けた視線を追い、同じ方向へと視線を向けて気配を探った。そこからは確かに本日の任務目標であろう人物の気配が微かに感じられた。
それは言われて初めてぼんやりと捉えられるほどでしかなく、まだ経験が浅いシカマルには自ら探り出す事は難しかった。
シカマルは主に悟られぬようにぎりりと歯を食いしばった。自分の不甲斐なさが悔しくて仕方がなかったのだ。ナルトに仕えるようになって早くも半年が経過した今も、彼の手足になるどころか引っ張る存在でしかない事を痛烈に自覚させられている。
ナルトに出会う前は同年代の者達より遥かに賢い方であると思っていた頭脳も、ナルトに掛かってはまだまだでしかない。そうであるにも関わらず、こうしてシカマルが暗部の黒衣を着ることが許されているのは、シカマルをナルトの傍にいさせる為にそれが必要であるからという理由が大きいはずだ。
しかし、とりあえずは目の前の敵がどの里の者かを暴き、殺すという、今回の任務をこなす事が重要だという事をシカマルは自分に言い聞かせ、ナルトへと顔を向けた。

「…どうしますか?」
「どうする、だってば?」

 これからの作戦を伺うシカマルに、ナルトは仮面を少しだけ上へと持ち上げて、何を可笑しな事を言っているのだと言わんばかりの呆れたような表情を少しだけ浮かべた。しかし、それは壮絶なる冷酷なる笑みへと変わる。

「そんなの、捕まえて、殺す。それだけだ」

 つまりは、あんな雑魚一人に対して作戦なんて大層なものは存在するわけない、という意味だろう。自分の主人の強さは十分に理解してはいたが、余りにもシンプルすぎるその作戦に、さすがのシカマルも唖然とするしかなかった。

「…油断大敵、という言葉を知っていますか、ナルト様」
「もちろん、知ってるってばよ?その上で言ってる言葉だ。容易く所業を悟られ、その上見つけられるアレにそれ以上の作戦なんてあるってば? …それに、作戦がシンプル故に突発的な事故には対応しやすいだろう」

その言葉は、今のお前には対応しきれないだろうから一番いい作戦に違いないだろう、と暗に告げていた。それが何よりも正しい意見であると自覚しているシカマルには反論のしようがなかった。…元より、主人に口答えなどできるはずもないのだが。

「従者の身でありながら主人の意向には背くような事を申し上げまして、誠に申し訳ありません」

 自分の不甲斐なさについては今更ここで改めて議論すべき内容でもない事を思い出し、シカマルは深々と恭しげに謝罪の意を込めて一礼した。それは一見卒のない優雅な動作であり、正しき従者の姿ではあったが、周りが抱くだろう感想に反してナルトは顔を不快気に歪めた。といっても、それは微かなものであり、この半年ほど彼の傍に仕えているシカマルだからこそわかる程度のものだ。
 ナルトは普段、と言っても気心が知れているごく僅かな相手のみだが、表情は豊かである。しかし、一旦任務に当れば二重人格じゃないのかと疑ってしまう程ガラリとその雰囲気が変わり、表情だけでなく、感情全てが抑制されるのだ。
表情など、殺る相手に対して嘲る笑みを向けたり、畏怖するような冷徹で壮絶な微笑を贈ったりする程度でしかない。そして可哀想な事に、その笑みさえも敵は仮面に阻まれ見る事が適わないのだ。主の、例えそれが死を宣告されるものだとしても、貴重な美しい微笑みを見る事が叶う珍しい機会だというのに。
だから、そのナルトが例え雑魚が相手であろうと任務中であるのにも関わらずにこのように僅かであっても喜怒哀楽を顔に映すという事は非常に珍しかった。つまり、それほどまで彼が怒っているという意味でもある。

「…そういう態度を辞めろと何度言ったらお前は学習するんだ?」









…と、まだこんな感じで始まるお話です。
ちなみに、この文は物凄く中途半端なところで止めてあります。さすがに全部出すのは、ね…。
夢シリーズの説明が多々入るのが序章です。彼等は出会ってから半年程度なので最初はこんな感じの仲です。
それがどう、未来の夢人の時のような恋人みたいな感じになったのかの、きっかけのようなお話が今回のこの本です。
ちなみに、タイトルの読み方は「むこう」です。ゆめのかおりと読んでもいいと思います。むしろ、私はそっちがよかった…!(おい)
尚、今回は任務が中心となって進められる話です。
そんなスレシカスレナルなので戦闘シーンなどの比較的グロい表現ありますのでご注意を。ちなみに、いつもよりちょっとレベルは上です。
夢シリーズですが単品でもまったく問題ありません。



↑表紙。
FCオフ。A5。36P
絵は横ですが読む時は縦です(笑)


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