色の名前 花の言葉 ―Sample―





 桜色  ―四月―


  風が吹きぬけた。微かに香しい花の香りが微かに含まれている。…春だ。
薄桃色の桜が里を鮮やかに彩っている。空は雲一つない青空で、冬が去ったばかりの肌寒い中、温かい日差しを注いでくれていた。
長い冬を越し、待ちわびた陽気が人の気持ちをも陽気にさせるのか、からからと楽しそうに笑い会う里人の様子を、里を一望できる火影の顔岩の上から一人の男が酷く冷めた目で見下ろしていた。
 シカマルはその男の様子に、苦々しい気持ちが湧くのを感じながらも、それを口に出す事なく、ゆっくりと足音を立てずにそっと近寄った。別に驚かす為でも殺す為でもない。必要ないだけだ。人の気配――ましてや自分の気配だ――に敏感な彼は、とっくの前に自分の存在に気づいているのだから。
 日差しを浴びて黄金色に輝く長い髪が首後ろで一つに結われ、さらりと背へと流れ落ちている。かつて短髪だった髪が、あの幼少の頃からの時間の経過を忍ばせた。服から覗く手足はすらりと長く、抜ける様な肌の白さが黒い服と見事に相反し、シカマルの目に眩しく映った。振り返れば、その相貌はすれ違う人誰もがハッと意識を奪われるほどに美しい事を、その瞳が澄んだ水のような冴え冴えとした蒼い色をしている事をシカマルは知っている。
 彼の真の姿を知ってから十年ほど経ち、そして、あの幼少時代の騒乱の終焉からは五年は経過した。月日はさらに彼の相貌に磨きをかけ、そして同時に、身を守るように明るく振舞っていた彼の姿を消していた。

「――ナルト」

 名を呼ばれた男、ナルトはゆっくりと振り返ると、シカマルを視界に収めてからゆっくりと笑った。その笑みは先ほどの冷めた目を忘れさせるような柔らかなもので、シカマルを少し複雑な気分にさせる。

「なんだってば?」

 そのシカマルの気持ちを知ってか知らずか、それともこの呼び出しの意味を知っていての嫌味なのか、彼は最近ではとんと聞かなくなった彼独特の口調でおどけた様に、何も知らない少年のように首を傾げて笑う。…やはり、嫌味だろう。思わず口から溜息が漏れた。

「火影様のお呼びだ」
「へぇ、ばーちゃんが?忍鳥を使えば簡単だったんじゃねぇの」
「それだと、お前が逃走するかもしれないから、俺に引きずってでも連れて来いという任務なんだよ」
「ふーん、ちなみにランクは?」
「…Sだ」
「それは、俺を甘く見ているのか、それともお前を高く評価してるのか、微妙なとこだな」
「十分高すぎると思うが? …お前、一応、火影様直属部隊の暗部隊長だろうが。呼び出しが任務になる方がおかしいんだ。…めんどくせぇ」
「そう言いながらも、他に回さずお前自身が来るところがお前らしいよな」
「……お前、ほんとに性格悪ぃよな」

 そのシカマルの様子を見て、彼は今度は鮮やかに笑った。自分の笑顔の効果を知り尽くしている彼にとって、笑顔さえも自らの武器といわんばかりに効果的に使用するのだ。本当に性質が悪い。何よりも、そんな彼に惚れた自分が少し哀れだった。

「あそこに…、あそこにいると思ってたから、思ったより時間かかっちまった…」
「…そりゃ面倒かけたな」

 思ってもいないだろうに、彼は肩を竦めておどけた様に謝罪の言葉を述べる。らしいが、らしくない彼の様子にシカマルは微かに表情を歪めた。
いつもならば大抵、姿を消した時にいるのは、禁忌の森と呼ばれる閉ざされた森だった。その彼が、今日に限ってこんな場所にいるとは思わなかった。きっと、それは…。
 しかし、思考が最後まで辿り付く前に彼が動くことで遮断される。その表情は笑みなど一切排除された厳しいもので、彼が今、《蒼輝》と呼ばれる木の葉最強の暗部へと変貌を遂げた事を告げる。鮮やかなまでの切り替え。

「行くぞ、黒月」
「――はい」

 その様子を認めるとシカマルは、素早く自分も彼の片腕と呼ばれるに相応しい暗部《黒月》へと意識を切り替えた。これから待つのは何の任務か。少なくとも、彼や五代目の様子からするに、楽ではない事だけは分かった。

「さぁ、どう出てくるかな…」

 ナルトはシカマルにも聞こえぬような小さな声で呟きながら最後にちらりと足元に広がる里の様子を感情の無い冷たい表情で一瞥し、踵を反した。



+ + +



「遅い!」

 部屋に入ると直ぐに怒りの声と共に物がびゅんと音を立てて飛んできた。それをひょいっと事も無げにナルトは避けた。それにいらだったのだろう、その部屋の主は次々に物を投げてくるが、それら全てを同じように避ける。これぐらい避けられねば忍には向かないだろう。

「避けるな!」
「ご冗談を、五代目。避けられねば火影様直属の暗部総隊長の名が泣きます」
「っ!まったく、蒼輝はそういうところに可愛げがないぞ!」

 無表情で言葉を投げかければ綱手はむぅっと拗ねた態度を取った。相変わらず、いくつ歳を重ねても変わらぬ美貌を保つ力も、権力も持ち合わせた者なのに、時折態度が幼稚だ。それでも、自分を忌み嫌わず、寧ろ弟のように(むしろ自分は孫の方の年齢であるが)接してくれる女性は嫌いではなかった。それに、伝説の三忍と呼ばれたほどの高名であった者であっただけあって、馬鹿ではない。でなければとっくの前に自分はこの里を抜け出ていたであろう。

「黒月、ご苦労だったな。…お前にしては時間が掛かったようだが?」
「申し訳ございません。事が事だけに、いつもと勝手が違ったようで、手間取りました」
「…ふむ。で、どこで?」
「――…顔岩の上です」

 どうやら、彼女にとってもその場所は予想外であったのか、シカマルの言葉に綱手は軽く目を見開いた。しかし、それは一瞬の事で、直ぐに真面目な表情へと変わった。

「蒼輝、それで、どうお前は思ったんだ?」
「…桜が、綺麗でしたよ。今が盛りですね」
「…そんなこと私は聞いてないよ」
「では、何の事を?心当たりなど俺にはありませんが。…それより、黒月を使ってまでの呼び出しとは、何の御用でしょうか。…しかも、お歴々の方まで揃って…」

 そこで一旦会話を切ると、ナルトは綱手の後ろに控えた人々へと初めて目をやった。ご意見番を始めとするこの里の重鎮達がこの執務室に立ち並ぶその様は異様としか言いようがなかった。有事などの大事以外で彼等を揃って目にすることなど滅多に無い。そう、暗部総隊長の位に就く蒼輝であっても、このような光景は五代目の就任式以来であった。なんと嫌な光景だろうか。
 事前に放っていた部下からの情報が当たっていたな、と忌々しげに気づかれぬようこっそりと舌打ちしながらも、一応は目上の立場である彼等に恭しく一礼をした。シカマルもすかさずそれに続く。
 ほとんどの者は、友好的な、まるで孫を見るような温かい表情でナルトを見つめているが、その他一部の者はあからさまに侮蔑した表情を隠そうともしなかった。…未だに彼を危険視する者がこの里には絶えないのだ。
 流石にこの場で、一番のナルトの庇護者である五代目を前にして不穏な動きは見せないであろうが、有り得ない事ではない。シカマルは彼等を警戒しないではいられないようで、彼等の一挙一同を鋭く見定めている。

「蒼輝…否、うずまきナルト」

 綱手の玲瓏とした声が厳かに室内に響く。五代目に相応しいその態度、しかも、彼の真の名を紡いだ事に、これから告げるだろう事が重要である事を示していた。が、ナルトは寧ろ、この場で本名を口にされた事が不快であると言わんばかりに微かに眉を顰めるだけだった。

「――お前に、火影を、私の次代を譲ろうと思う」

 その言葉にシカマルは驚いたように微かに動揺を見せた。無理も無い。以前ほどナルトに嫌悪感を向き出しにする者は減ったが、いなくなったわけではなかった。それに、一番重要なポイントは、何よりも、ナルトはこの里を…好いていない。そんな中でナルトを火影にするというのは無茶な気がした。
 動揺を見せたシカマルとは反対に、ナルトは少しも驚いた反応を見せなかった。寧ろ、その表情は硬く、冷ややかなものへと変わっていた。

「五代目、何の世迷言を。冗談が過ぎます。まだ、そのような事を考えるお歳でもないでしょうに。それに、他に適任がおりましょう」

 ナルトはさらりと、この重大な発言を冗談だとまとめ、拒否した。一瞬にして空気が凍る。特に頭が固くて古い長老達にとって、忍の最大の誉れである火影襲名を拒否するなど考えもつかぬことなのだろう、ナルトに対して比較的好意的な者達までもが青い表情で固まり、嫌っている者達は一様に顔を真っ赤に憤怒している。

「き、貴様っ…!」

 今にも飛び掛らんばかりの彼等のその様子にシカマルはなんとか平静を取り戻したようで、いつでも対戦できるよう戦闘体制を取った。いくら目の前の彼らがこの里において立場が高かろうと、ナルトを一筋の傷であろうと、怪我をさせる事を許すわけにはいかなかった。彼を守る為なら同族殺しも厭わない。覚悟など、彼は当の昔に決めていた。が。

「「止めろっ!」」

 シカマルにはナルトが、彼等には綱手が止めるよう静止させた。いっそこの場を借りてこの里の腐敗の一要因である彼等を一掃してしまおうかと不穏な事を考えていたシカマルだったが、上司でもあり、何より彼にとっての唯一無二の絶対の存在であるナルトの命令に逆らう事が出来ず、渋々と引き下がった。向こうも同じような事を考えていたのだろう。納得できないと言わんばかりの表情を隠せずにいた。老いても忍ならば『常に冷静たれ』という言葉を忘れるんじゃねぇよ、と内心毒づく。

「お前達、ここを何処だと思ってるんだい!私の、火影の執務室だよ。その部屋で、しかも火影たる私の前で身内を殺りあうなんていい度胸してるねぇ。しかも、誰を殺そうとした…?今更決定に反論するんじゃないよっ!」




…と、まぁ、こんな感じで始まるお話です。
ちなみに、この文は物凄く中途半端なところでぶちぎってあります。
この場面だけでは分かりませんが、章ごとにCPが変わります。(根底にシカナルいのはありますが)女の子が出る章は完璧ノーマルです。
半分ぐらいがそうなので、ノーマル好きにオススメです。BL苦手でも、あまり酷くないので読めると思います。(ムリかどうか判断するのにはWEB掲載のシカナルいの設定のお話を読まれるのをオススメします)
尚、スレナルなので戦闘シーンなどの比較的グロい表現ありますので、苦手な方はご注意を。






↑表紙。
FCオフ。A5。76P
裏表紙はまでの続き絵。半分の掲載ですみません。
ちなみに、花びらの色が各章の月の題材色でした。

オトナル未来もの。 1年間を月1話の全12話で綴る、未来を舞台としたシリアス長編。
総受けですが、根底は当サイト特有のシカナルいの設定で、この設定の過去の設定等に関する事の完結編という感じの本。
ある日、綱手がナルトに次代の火影になれと告げた。しかしナルトは、ある過去を理由に冗談ではないと怒った…。
皆のナルトへの愛情に満ち溢れた切なく哀しくも優しい話。
メイン他は綱手、アスマ、いのいち、イルカ、サクラ、カカシ、テマリ、我愛羅、碧夜(オリキャラ)等のCPがありました。
まぁ、CPというか、○○→ナルトみたいな。



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