月狂いの夜の果てに   ―Sample―





02;朔のソラ より一部抜粋

  今宵の任務は、比較的難易度の高いものであったものの、蒼輝の手に掛かれば厄介なものではなく早くに片付いた。いつもと違って手が空いている忍の手が足りず、黒月をそちらにやった為に後始末を全て自分の手でしなければいけないのは、彼の口癖である言葉を借りさせてもらえば面倒の一言だった。
 しかし、いつも二人組で行うほどでもない任務にも何が心配なのだか無理やり(時には綱手の許可を得てまで)同行してくる黒月がいないのは少し気楽でもあった。
 ほら、心配することないってば? そう、近くには居ぬ相棒に心で答えながら、早々と報告まで終えたナルトは任務をまだ終えておらぬらしいシカマルの帰りを火影の執務室で自室の如く寛ぎながら待っていた。
 その時点で少しおかしいとは思っていたのだ。確かに蒼輝の方が黒月よりは実力がある。しかし、距離と難易度を考えれば双方の任務を終える時間にそれほど差はないように思えた。むしろ、シカマルの方が早く終るだろうというのが出掛ける前に二人が下した予想だった。
 無論、物事は全て机上の計算通りにいくわけではない。予測不可能な事態に陥り、時間がかかる事もありえないことではない。けれど、相手は黒月だ。しかも、蒼輝とは別行動中。傍にいないと不安だとかナルトが今一理解できない事を言い張るそんな彼が無駄に帰宅の長引かせることはないだろうと思っていた。
 けれど、帰りは酷く遅かった。予定時間を二刻も越える頃になると流石に不安を覚えずにはいられない。湧き上がる不安は胸の鼓動を早くする。嫌な予感がした。まるで、あの時のような…。胸が苦しさを覚え、思わず胸元の服を握り締めた。
 その時、窓辺に感じた気配にふと視線をやれば、一羽の漆黒の鴉が泊まっていて、口に銜えていた何かをぼとりと落としたかと思うとカァと啼いた。普通の鴉ではない事は直ぐに分かった。忍鳥だ。それも、暗部が使用する特級クラスのこの鴉は特に賢く、また蒼輝や黒月に懐いており、好んで連絡用に使う奴だった。
 もしかしたら黒月が遅くなる事を告げる為に彼を呼び寄せ、飛ばしたのだろうか? 普通ならばそんな事に忍鳥を使いはしないが彼ならばありえなくはないと窓に近づく。しかし、直ぐに異様な事に気づいた。
 微かに香る血の匂い。何事かと思えば鴉は再び鳴いたかと思うと、見ろというように足元を嘴で指した。そこには先ほどまで彼が加えていたらしい物が落ちていて、それが何かを認識した瞬間、ナルトは身体を強張らせた。
 それはとても見覚えのある一本の白い紐だった。端に小さな碧玉が飾りに付いているその紐は他でもない黒月がいつも暗部の任務時に髪を括るのに愛用しているやつだ。どこがそんなに気に入っているのかと以前質問した時に、己の瞳の色をしているからだと聞いたのを少し後悔してしまうぐらい堂々と恥ずかしい事を口にしたものだからよく覚えている。


「何、が…」


 呆然とした声が漏れ出た。元は白かった紐は今は無残にも所々血色に染まっていた。らしくもなく、冷静になどいられなくて頭が一瞬真っ白になる。その様子を伺っていた綱手も血染めの紐に深刻な事態を悟ったのか同じように動揺を隠せないようだった。その声にナルトは直ぐに我を取り戻すと居ても立ってもいられず窓から飛び降りた。
 背後から己の名を呼ぶ声がしたが構ってはいられなかった。ナルトの意を酌んだのだろう鴉が先導するように空を駆けるのを出来る限りの速度で追った。
 いつもならなんて事のない運動量なのに、動転しているからか少し上がる息に目まぐるしく変わる風景。そして、漆黒色の夜空が目に入った。思わず泣きそうにナルトの顔が歪む。
 夜空に月は浮かんでいない。そして、今は冬ではない。だから雪もない。世界は白色に染まってはいない。――けれど、まるであの日の再現を体験しているようだと思った。
 そして、しばらくして里の外れの人気のない場所まで辿り着く。里を越えるのかと思ったが、そこで失速した鴉が止まった先、そこで見つけたのは血に染まった大地に伏し、真っ青な顔でぐったりと死に掛けたシカマルだった。
 その様子を見てナルトの顔も真っ青になる。横たわる彼の傍には多数の忍の死体が転がっていた。荒れた地面。傷ついた木々。死体にある致命傷となった見覚えのある、けれどいつもより綺麗とは言い難い刀傷。その全てがどうしてこのような状況になっているのかを的確にナルトに教えてくれる。

――襲われたのだ、彼らに。







…と、こんな感じのお話です。2章の最初の方を抜粋して掲載させていただきました。
全体的にこういう雰囲気に溢れたシリアスはお話です。しっとり切ない感じ使用。若干いつもより流血大目。

年齢は原作時より上の近未来ぐらい。
もちろん、スレナル。
シカナルは恋人設定。
基本設定はシカナルいのシリーズのものですが、いの要素ごっそりないです。すみません(?)
過去発行した「色の名前〜」(シカナルいのシリーズにおける最重要設定本)の一番重要な過去に触れたお話です。
これを読まれていない方にもなんとなく把握できる設計になっております・また、読まれている方にはあの日のその後により詳しく触れているお話です。

オリジナル設定、特殊設定が苦手な方はお気をつけください。




↑表紙。
FCオフ。A5。52P
表紙絵はナルトです。
過去に触れる話、ということだったので、以前に題した「色の名前〜」に似た感じにしようということで、なんとなく似せました。
でも、「月狂い」なので淡く光る月光に照らされた、どこか厳し気?皮肉気な顔。
シカマルか…それとも屠った敵の血?に濡れるナルトな表紙でした!

 当サイト特有のシカナルいのシリーズ設定で、IFシカナルver.の話。(基本的にいつもの設定だけど、いのとそんな感じの仲にはなかった設定)
シリアスもの。シカナル恋人設定。ナルトが18歳ぐらいのちょい大人で未来もの。比較的いつもより血が大目なので注意。

 黒月が怪我を負った。それは不意打ちの襲撃だった。現場に駆け付けたナルトはもしや…と抱いていた恐れていた事実と少しも違っていない事に酷く打ちのめされた。そう、襲撃の目的は一目瞭然だった。まだ、あの日、大切なモノを失ってから十年しか経っていないというのに、アレ等はもう忘れたというのか!許せない。今度こそ見逃すことはできない!怒りと哀しみを胸にナルトは…

 シリーズの根底の話に触れているので非常に重苦しい感じです。色の名前〜読んでないよ、という人にもコレで比較的補完されるように一応書いたつもりです。(つまり、なぜスレたかの理由に関わる事件について今回はしっかり触れてます)色本を読んだ人はあの日のその後の話が少し詳しく知れます。シカマルがいかにナルトを知ったか、そこにも触れた一冊です。


的なお話でした。
色本の発行が随分前なので、知らない人もいるだろうな→最近はこの設定の多いから意外と読んでいて?で困る人いる?という事でフォローもかねてがっつり過去に触れた話を書きました。でも、明確には触れない感じにどうしてもしたかったので察して!という感じですが。
そして、ずっと考えるのが面倒で避けていた禁断の「いのとの出会いがあれならば、シカとは?」に触れました。
このネタはそもそもシカナルいの設定のものなのでシカナルいのでも構わないんですが、どうしてシカナルで書いたのかといえば、サイトでは基本的になんとなくですが未来設定の話にいのナルが多かったので「別に決まってるわけじゃないんだからね!」という主張です。でも、いつの間にかいのの存在が消えてました(笑)。アレ??



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