君に咲く金色の花 ―Sample―





Prorogue


 新月の夜。月明かりは頼りなく、無数の小さな星々が綺麗に瞬き、夜空を飾っていた。この時間帯のこの場所には人など滅多にいない、静寂に守られた場所だったが、今は人の絶叫と悲鳴が響き渡っていた。しかし、それを聞きとめる者の姿はなかった。

「黒月!」

 前方から、シカマルの暗部名を鋭く呼ぶ声がした。蒼輝、相棒の声だ。目の前には二人の忍の姿。今回の倒すべき敵の一部だ。その内一人の四肢は無数の切り傷により赤く染まっている。もう片方の者に至っては切り傷どころか、利き腕だろう右片腕を失っていた。
 悲鳴は止んでいた。これら全ては蒼輝の仕業だ。彼が相手をしていた大量の敵御一行の取り残しだろう。運がいいのか悪いのか。一瞬で死を向かえた彼等とは違い、痛みと恐怖の時間が長引くという事を考えれば悪いのだろう彼等は、自分の方へと逃げ惑うように駆けてくる。無論、自分はただぼーっとそれらの様子を眺めていただけではない。取りこぼすだろう事を予想した上で、待ち構えていたのだ。
 その呼び声を切っ掛けに、シカマル―否、今は黒月と呼ぶに相応しい―は右手に握りしめていた愛刀『無月』を勢いよく振った。諸刃の直刀のそれは、狙い外れる事無く、見事に一番手前の隻腕の敵の首を跳ねた。
 その勢いのまま、最後の一人の首を黒月は狙う。しかし、予想以上にまだ奴には活きがあったようで、もう一人を殺っていた隙を突いて、大量のクナイが投げつけられる。

「ちっ!」

 舌打ちをしながら、無月でそれら全てを一薙ぎで叩き落とす。硬質な金属と金属がぶつかり合う音が再び静寂を破った。そして、下段に構えられた無月が再度飛びかかろうと、カチリと音を立てた。

「さよーならだってば?」

 しかし、その刀がそれ以上振るわれることはなかった。敵が黒月との戦闘に気を取られていた事をいい事に、その瞬間を利用し、蒼輝は彼の全ての四肢を鋼糸で拘束していたのだ。そして、くいっと鋼糸を引くと彼を永久の眠りへと蒼輝は誘った。



 真の静寂が戻る。完全に敵御一行様の最後の一人があの世へと旅立った事を黒月は確かめると、はぁと溜息を一つ零した。

「手間かけさせやがって。ったく、めんどくせー」
「それは俺の台詞。油断しやがって。手負いの二人ぐらい簡単に処理しやがれ」
「あれを見事に打ち落としただけ凄いんだよ。それに、お前がもう一足遅ければ殺り終えていたぜ?」
「早く終わらせたいと言ったはずだろ?遅かったお前が悪い」

 二人は軽く言い争いながらも、出来上がった死体の山々を一つ一つ、何か里に死体ごと持っていかなければならないものがないか検分しあっていた。しかし、争うといっても、それは彼等の日常的なスキンシップと言うよりか、じゃれ合いであり、非常に微笑ましいものだった。その証拠に、二人の表情は仮面に覆われていて見えないが、その声は、危険で大変な任務を終えたばかりとは思えぬほど陽気で明るかった。

「罰として、黒月がこの死体の処理と、報告書な?」
「え?おい、そりゃ勘弁してくれよ!めんどくせー」
「俺が一気に大量に殺して、お前がその残り。そういう決まりだったろ?諦めろ。第一、報告書はお前の方が早いし、出来がいい。早く終わらせるにはそれが一番だろ?俺は早く休みたいんだ。…お前とな?」

 それでも、めんどくせぇとか言うのか?と問う蒼輝に、黒月はうっと詰まる。その台詞は黒月にとって反則技に近い。無論、彼だけでなく、誰もが弱いだろう。そこまで蒼輝に言われて参らない者は妄執に取り付かれている馬鹿と見る目がないものだけだ。それを、今は、黒月の為だけに発せられている。

「…了解」
「よろしい」

 疲れたように了承する黒月と、片や、満足気に頷く蒼輝の、蒼と黒の瞳が合うと、先ほどまでの任務の時とは打って変わって、優しげに、楽しげに二人はその瞳を歪めた。
 それは、仮面に隠されていて見る事は適わなかったが、とても無邪気で歳相応の素晴らしい笑顔だった。



*  *  *

「そのような事、私は認めん!」
「会議の決定じゃ。貴女様と言えども従うのが掟じゃよ」
「だから、あり得ないと言ってる!何が会議での決定だ!この、私を反故にして、話を進められ決められたものを認められるとでも?!」
「…まだ理解しておらぬようだな。もはや、決まった事じゃよ。反対するものは一人もおらんかった。それだけでこの里の者達の意志も分かるというものだとは思わぬか?聞けば、貴女様はアレを寵愛してるようじゃ。…絆されたか?」

 一人の老人から発せられた言葉と同時にドン、バキリ、ガシャンと室内に物が何か大きな力によって壊れたような豪快な音が鳴り響いた。それにヒッと数人の老人が恐怖に声を引き吊らせ顔を強張らせる。
壊れたものはこの室内に存在する数人の中でも歳若く見える女性の前に置かれた机だった。しかし、木で造られた重厚なそれは簡単に壊れるようなものではなく、鋸を使ってでさえ真っ二つにするには時間が掛かりそうなものであった。しかし、現にその机は見るも無残に真っ二つに切断され、元通りになる事はないだろう風に壊れていた。どれほどの力を入れれば、このような姿になるのだろうか。

「――私を愚弄する気か?」

 女性の低く怒りに満ちたその言葉は、目の前の老人の顔色を心なしか青くさせた。女性が怒りに任せて振り下ろされた両手が勢いよく机を叩くと、一瞬にして叩かれた机が半壊したのだ。彼女の力と怒りの強さが伺える。
しかし、それでも彼等の代表たる老人はそれに怯む事無く、彼は努めて冷酷な表情を浮かべた。その落ち着きには老熟された老獪さが窺い知れた。

「何を勘違いなされておる。そもそも、何の為に我等がいると思っているのじゃ?貴女が、貴女様という権力の頂点に立つ立場の者が間違った道を選ばぬように意見するためじゃぞ?ただ、慣例で存在するとだけ見縊って貰っては困るというものじゃ」






…と、まだこんな感じで始まるお話です。
ちなみに、この文は物凄く中途半端なところでぶちぎってあります(笑)さすがに全部出すのは…
一番明るいところと、暗い話の始まりがプロローグ。シリアスなラブストーリー(!?)です。
除々にこのタイトルに関する金色の花、金盞花にからんできます。
尚、最初で分かるように、スレシカスレナルなので戦闘シーンなどの比較的グロい表現ありますのでご注意を。



↑表紙。裏はシカマル。
FCオフ。A5。36P
外伝小話ペーパー付き(これもシカナル)でした。



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