たった僅かな時間でも共有したいと願った








の速度












「――今夜時間を作って」


 すれ違いざまに耳元に囁くように落とされた言葉にテマリは一瞬だけ目を見開いて反応した。
人の目につく場所での接触は酷く珍しい。
闘った事も何度か共闘したこともあるのは周知の事実で、決して知らない仲ではないのだが、とりわけ親しい仲だという事は周囲の誰も知らない。
――隠された関係だった。
思わず本人を振り返りたくなったが、秘密裏に言葉を齎された意味を思えばぐっと我慢した。
知られたくはないのだ、この関係を。
 怪しまれない程に時間をおいてようやく彼が去って行った方向へと振り返る。
彼の、ナルトの、目立つ金色の短い髪が小さくだが見え、ほんの少しだけ嬉しさを覚えた。
 自分は我愛羅の姉であり、ナルトは木ノ葉の忍だ。
それも、一見は並みの忍なのだが実際は木ノ葉の暗部に属する≪蒼輝≫と呼ばれる最強と名高いものだ。
属する組織が別なものである以上、関係を知られるのは得策ではなかった。
 だからか、互いにこの関係に名前をつけたことはない。
もしかしたら自分勝手な妄想かもしれないが、それでも、互いに交わす視線が互いにそこに想いがあるのだと教えてくれるのだ。
 

 いつ、どこで、という言葉はなかった。
けれども、いつも会う場所があって、そこに行けばいいのだと解釈し、日が暮れるのを待って行動した。
特別に滞在を許可されている木ノ葉の里の内ではなく、里の外の離れた場所である事は少し不合理な感じがするが、この関係を思えば仕方がない。
それに、あの場所であうのは嫌いじゃなかった。
 静寂に満ちた森の中、木々の迷路を抜けて、その先に崖がある。
見晴らしの良い僅かに開けたその場所が、テマリとナルトの束の間の逢瀬の場所だった。


「――遅いってば」
「時間を指定してないのに遅いもなにもないだろう?」
「……早く逢いたかったのはオレだけだってば?」
 

 呟くように、どこか拗ねたような声が聞こえ、その意味を理解した瞬間テマリの顔は熱を持った。
――…卑怯だ。
ナルトはこういった不意の攻撃が上手すぎる。
破壊力が半端ない。
ここで素直に「私も逢いたかった」と口にできれば少しは可愛げがあるのだろうが、それは今のテマリには高等テクすぎて無理で、口をパクパクと無意味に閉じては開くという行為を繰り返すだけだった、


「…でも、間に合ったからよしとするってば」
「何にだ?」


その質問に対する言葉はなく、意識的につっと動かされたその視線を辿る。
その先には見晴らしのよい夜の景色が広がっていた。
僅かな街灯りと空を照らす星灯りが煌めいる。
そこに情緒というよりはその星の位置や空模様から時間や今後の天候を伺ってしまうのは職業病としかいいようがなくて、僅かに苦笑してしまう。


「なぁ、今日がどういう日か知っているってば?」
「今日?」


 ナルトの視線はそのままに問われた内容がわからなくて問い返す。
いくつかの行事を思い浮かべるが該当するものは思いつかなかった。
お手上げだと身振りで伝えれば、僅かにナルトの口端が持ち上がった。
どうやら回答を放棄した事に不満を持ったようではなさそうだった。


「見ていればわかる。――ほら…」


 その言葉と同時に再度ナルトの視線を追って、ようやくその言葉の意味を理解した。


「あ……」


 それは瞬く間のような短い間の出来事であったが、確かにテマリは見る事が出来た。
――白い輝く軌跡、星の尻尾。
なんてタイミングがよかったのかと思っていると、今度は視界の端、別の場所で白い軌跡が走る。


「また流れたってばね…」
「あぁ」


 天から目が放せなくて互いの視線は交わらぬままに呟く様に会話を交わした。
寒い冷えた空気が吐息を白く染めてみせては霧散していく。
鍛えた体は寒さに強いがそれでも寒くないわけではない。
けれど、今はそんな事も気にならなかった。
ただただ、この美しい軌跡に見惚れた。


「――…すごい」
「喜んでくれてよかったってば」


 どこかほっとしているかのような声にようやくテマリは視線を天ではなくナルトの方へと移した。
そこには柔らかに微笑む彼がいて、思わずその表情に息を呑んだ。
こんな表情を普段の彼はしない。
大抵、明るく笑い飛ばすようなもので、彼の本来の姿を知る者達の前でも艶然とまたは美しい笑みを浮かべるからだ。
どれも、特に後者は人を酷く惹きつけるものだ。
厄介なほどに。
けれど、テマリはそれ以上のものを知っていた。
時折、ふとした瞬間に己へと見せてくれる優しげな微笑を。
うぬぼれかもしれないけれど、自分以外誰も知らないはずだ。


「テマリ?」
「…な、なんでもない」


 見惚れて固まっていた自分を訝しむように窺うナルトにテマリはすぐに己を取り戻すと慌てて取り繕う。


「流星が見れたなんて幸運だと思ったが、先ほどからの言葉から考えると違うんだよな?」
「確かに、わかっていたことだから偶然じゃないけど、今日という日に巡りあえたのは幸運に違いないってばよ。この前、偶々里の文献を読んでたら定期的に流星が多く観測できる日があることに気づいたんだってば。で、その次の周期が丁度今日という日で、テマリがこっちに来る日だった。しかも、快晴で星を観るのに遮るものはない。なら、これは幸運に違いないってば?」


 反論は?という顔で笑うその背後にまたひとつ星が流れ落ちる。
確かに、こういうのも幸運に違いないのだろう。
相容れぬ存在だったはずなのに、こうして肩を並べて一緒に同じ天を眺め、流れ星を観る。
きっと、それは奇跡と呼んでも過言ではない。
途方もない確率を潜り抜けて得た幸運なのだ。


「あぁ、そうだな。――誘ってくれてありがとう。とても綺麗だ」
「喜んでもらえてよかった。…このことを知って誰よりもテマリと観たいと思ったんだってば。だから、叶って嬉しい」


 まだ星に願いをかけたわけじゃないのに叶ったな、と笑う。
殺し文句とその笑顔のだダブルの攻撃にテマリの心は両手を挙げて降参、という気分だ。
どこまで惚れさせる気なのだろうか、この男は。


「なら、願い事を唱える必要はないのか?」
「…どうかな。瞬く間に消える星に頑張って唱える努力するよりも、自分で叶える努力するべきだ…と何時ものオレなら口にするんだけど…それじゃぁ余りにもこの美しさを前には無粋だってば。かといって、決して叶わぬ事を唱えるような自虐性は持ち合わせてないってば」


 あまりにもらしい言葉にテマリは思わず笑う。
確かに、この有能な男ならば大抵のことは他の事を考えずに真剣に取り組めば叶えてしまえそうだし、例えば既に取替えしのつかぬ事をうじうじと後悔して何かに縋りつく事などしはしないだろう。
けれども、確かにそれではこの雰囲気が台無しなのも確かで。


「で、結局のところどっちなんだ、お前は?」
「どっちだと思うってば?」
「質問に質問で返すのはよくないぞ」
「それはわるかったってば。――なら、その答えは次の流星が観られたら…」


 天へと向かうナルトの視線につられるようにしてテマリも視線を向ける。
その時、手が触れ合ったと思うと、その温もりは離れることなく反対にぎゅっと握られた。
嫌ではない。
だからその手を振り払う事無くちょっとだけ力を込めて握り返した。
互いに冷えていた手がじんわりと暖かさを取り戻したような気がする。
…心までも。


「…あ」


 ――星が流れた。
今日見た中で一番長くて一番の大きさの白い弧を描いたように思えたのは想いが見せた幻覚なのだろうか。
そう思った瞬間、繋がっていた腕を引っ張られた。
予想外の力に体は法則に従ってバランスが取れずに傾いていくが、倒れることはなく、直ぐに止まった。
気づけば彼の腕の中にいた。
ぎゅっと抱きしめられた感触に思わず体が緊張して固まるのがわかる。
暖かな吐息を耳元に感じた。


「――…また、次もテマリと観られますように」


 星に願うわけでもなく、三回唱えたわけでもない。
けれど、それが問いへの答え。


「――おかしくないか?」
「どうして? まぁ、願い、というよりは決意表明だけど。でも、それが一番相応しいと思うってばよ?」


 叶えてくれるのかあやふやなものでもなく、その本人に願いをかける。
確かに、一番相応しい。
思わずくすりと笑みが零れた。


「叶えてくれるってば…?」


 そんなの答えなど決まっている。
先のわからぬ私達の未来の約束がどんな意味を持っているかなんてわからないはずない。
初めての未来の約束だった。
実現できるかはわからない。
命を奪う以上、奪われる覚悟は忍という道を選択した時から決めていて、我愛羅の力になろうと決めた以上はこの先に待つのはやはり修羅の道なのだろう。
けれども、できるだけ実現したいと願う。


「…次の流れ星に願おうか」


 ナルトになぞる様にして答えれば、少し目を見張ってからその表情は笑みに変わった。
じゃぁ、真剣に探さないとな、と意欲的に天を見上げる姿になんとなくテマリも笑えてきて、同じようにして天を見上げる。
 そして、間も無く願いのままに白い軌跡は姿を見せ、テマリは願いを口にする。
瞬く間に消えていく光の奇跡にではなく、彼にだけれども。







――それは、願いや祈りというよりは二人の誓い














fin








*****あとがき。*****
 こんにちは。お久しぶりでございます(汗)
 今回はテマナルです。どうやら当サイトへと通ってくださる方でこのCPがとても好きな方がいらっしゃるようで嬉しいアピールに思わず書いてみました。ど、どうでしょうかね?ご希望に添えてるでしょうか??
 冬で夜空が綺麗なので星をテーマにしてみました。七夕くさくなりましたが、関係ない冬の一幕でございます。こっそり夜空デート。この二人が一番当サイトのナルトCPではらぶらぶな気がして止みません。一応恋人未満なのにね!(笑)非常に少女小説っぽくて、てれてれしながら書きました。あー、はずかしい!

では、少しでも皆様のお心に留まりましたら幸い…

12.02.05「月華の庭」みなみ朱木





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