花は眠りて






 ――眠る、という行為はナルトにとって少し恐ろしい。





 夢の世界は自分の思うようには事を進められないからだ。
望のままに夢を見られるのならばきっと恐れなど抱かなかっただろう。
けれど、そうではない。
見たくないと思うあの光景を何度も夢で繰り返し見るのだ。
忘れはしない。
けれども、決して何度も思いだしたい光景ではない。
それなのに、生々しい光景のまま色褪せる事無く、まるで先ほどあったような光景を見せつけられるのだ。

 もちろん、そんな夢だけではない。
だけれども、幸せな夢さえも恐ろしかった。
幸せの絶頂の中で訪れる悲劇の辛さを、苦しさをナルトはよく知っている。
永遠などないのだと思い知らされた経験がナルトを酷く臆病にさせるのだ。

 あの日から満足に眠ったことはなかった。
いつだって外敵に脅える獣のように始終人の気配を探りながら、けれども夢などみないようにまるで気絶するように眠るのだ。
 もし、眠らないですむのならば、眠らなかった。
けれど、それは出来ないから、眠りたくないと思っても眠らなければならないのだ。
時折、そんな人らしい部分が嫌になる。
九尾を宿し、自身もバケモノと言われながら、けれどもそんなところはヒトのままなのだ。
そんな中での救いは、だからこそ、わずかな睡眠足りる事だろう。

 かつてまだ幼い頃の、大切な人を失ってから間もない頃に一度、眠れない時が続いて、そのまま眠らずにいつもの生活を続けていたのだが、いくら身体が頑丈なナルトでも限界があって、それほど大変な任務ではなかったのだけれど、終えた後に安心して気が緩んだのかまるで糸がぷつんと切れたように意識が途切れてばたりと倒れてしまった事があった。
 眠ろうと努力しなかった結果なのは一目瞭然だった。
努力どころか一切放棄していて身体を休めようとしなかったのだから。
自分で自分の事が好きではない。
だから、もしかしたら心のどこかで自分なんてどうなってもいいと思っていたのかもしれない。

 けれど、そんな自分に対して泣いて怒る周囲の様子に戸惑いを覚えつつも――確かに今でだっていつ死んでも仕方がないのだと思ってはいるのだけれども、最低限の事はしようと思ったのだ。
いつだって、暖かい手を差し伸べてくれた人達の手を、あの時のように無邪気にもう一度取る勇気はなかったけれど、その気持ちを疎かになどしたくないと思った。


――だから、最低限のことはする。


 そう決めたのだ。
生きたいとは思わない。
この世界に執着などない。
大切なモノを亡くしたナルトにとって無意味な生でしかない。
けれども、それでも、一握りであれどもあの悲しみを分かち合い、心配してくれる彼等が生を願うのならば、必要なだけの栄養は取り、眠ろうと。それが、彼等への自分なりの謝罪になるのならば。

 そうしてずっと生きていた。
あの日からそういう理由で倒れたことは一度もない。
けれども、眠るのが嫌だという感情は消えてなくならなかった。
悲しい夢はきまぐれに訪れる。
優しく、甘く、幸福に満ちた夢は起きた時に傍らにないその悲しさと空しさを教えていく。
夢でも逢いたい、そう願ったことは何度もあるけれど、けれどもそれは同時に悲しさを増強させるだけだった。






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