鏡に映る自分の姿を覗く
そこにはまったく予想通りの己の姿が映しだされていた

月光色をした短い髪は所々ぴょんと跳ねている
顔に収まる二つの眼はさながら月に照らされた蒼い闇
やわらかな紅唇は日に焼けぬ白い肌に映えている

何の感慨もわかぬ容姿
人によればそれは美しい白磁人形のようだというが、己の容姿になど少しも興味はない
少なくとも武器の一つになるという事を認識しているだけに過ぎない
己が認めるものが不快に思わぬ容姿程度ならそれでいい

そんな風に感じている己の表情を鏡は的確に映し出す
喜べば喜び
怒れば怒る
楽しめば楽しむ
そして、まだ見たことはないが、

――きっと哀しめば哀しむだろう

鏡は正直だ

ナルトがそっと手を前へと伸ばせば、真似するかのように鏡の中の己も手を伸ばす
しかし、決してその互いの温もりが伝わりあうことはない
ひんやりとした感触を受け止めるだけだ
それでも、時が経てば己の温もりをそこから感じることはできる

同じだからこそ交わらない
同じだからこそどこまでも一緒
同じだからこそ緩慢なる堕落へ

否定しない
同意しかない
それは不快ではないけれど、本当はどこか物足りない



「…お前は俺に引きずられすぎるってば」



小さく苦笑すれば鏡も小さく苦笑する
分かっている
この状態がいいわけないと
けれど、指先に伝わるほのかな温もりが愛しくて先送りにしてしまうのだ

手を離してこの温もりを失うのは簡単だ
鏡から離れ、後ろを向けばいい
そうすれば、鏡の側にある何か暖かいものに気づくかもしれない
手に入れられるかもしれない
だが、ようやく温まった暖かさ以上のものが今後得られるとは限らない

それは、己も鏡も同じなのだろう



「それはいけないことなのか」



よくはない
きっと一様に世間は口にするだろう
けれど、己はいけないとも言い切れない
同じものに救われたからこそまる、今の己という存在がその答えを導き出す
それがいいのか悪いのか
その結果を告げる未来がどう転ぶかなど神様にしかわからない



「神様が振るサイコロによるだろうな」
「ならば、同じ目が出るように。どこまでも」



至極当たり前のように、特別な事などではないというような表情が鏡に映る
なら、己もそんな表情をしているのだろう
きっと、返ってくるそんな答えさえも己は

ワカッテイタ



「馬鹿だってばね、お前は」
「馬鹿だな、お前は」



哀しげに、どこか呆れたような己の言葉
跳ね返ってくる言葉はいつもと変わらず同じものだ

けれど、その同じ言葉はいつもと少しだけ違って少しだけ柔らかで優しいもので


「全てのものに否定されようとも、お前の全てを一緒に受け止める」


だからこそ、きっと己は鏡の前では泣けないのだ
優しい彼の哀しむ姿を、きっと彼が己に対して思う以上に見たくないのだから

愛しげに、シカマル、と鏡の名を呼べば、彼は己の名を口にしながら小さく笑みを浮かべた













それは己を映す鏡のように












fin









***あとがき。***
こんにちは。
いつもと若干感じを変えてお送りしてみました、シカナルです。
ある人とのやりとりで私の書くシカはどうもナルトといると感情がどこまでも引きずられるなぁという事に気づいたのでちょっとこんな感じ?と整理な気持ちで書いてみました。ので、どことなくダークで短めすぎますがご容赦の程を。
でも、引きずられるというか、どこまでも一緒って感じですかね。一緒に泣いて怒って。どこまでも一緒にいてくれる人。それは心強くもありますが、他の人が介入した時の嫉妬はすごそうだなぁ!うちのシカはいのちゃんを容認してはいますが、それはナルトの為になるだろうという事で我慢してる感があったりなかったり。ナルトが人を好きになるのはいいけれど、恋愛という意味で他の人を好きになったらどうなるんでしょうか。ははは。怖いっすねぇ(…書くのお前だろうに)
では、このお話が少しでも皆様に気にいってもらえたなら幸い…。拍手ででもコメントいただけると嬉しいです。

07.05.27「月華の庭」みなみ朱木




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