今日と言う日
いつも君を思い出して
そして、俺は悲しみと後悔に明け暮れた








遥か
を想う時












冷たい空気を吸い込むと器官が冷えていくのを感じた
既に鼻の頭は赤く、寒さが痛いと感じるほどだ



「なんで…」



思った事が声になって漏れ落ちた

そう思わずにはいられない
今迄避けて通ってきたのに、いまさら
それでも、それを選んでしまったのは自分
望んだのも自分だ
いや、提案したのは自分ではないのだが

寒さを嫌う自分がこの時期に望んで出かける事など滅多にない
冬は…嫌な気分にさせられる
全ての穢れを覆い隠すかのように降り積もる白い雪
忌み嫌われる自分の存在さえも消さんばかり
辺りは一面真っ白で
音さえも雪に吸い込まれ

聞こえるのはただ、自分の息遣いと自分が雪を踏みしめる音だけで



「怖いくらい静かだってば…」



昔は嫌なんて、そんな事思わなかった
むしろ、冬は好ましい季節だったのだ
風邪を引かぬようにと増えた着込む布類は自分の存在を容易に隠しやすかった
また、数少ない自分を好いて構ってくれる大人達と堂々と外でも触れ合える機会を生んでくれて…
そして、一面の銀世界は美しいと、ただ、単純に思っていた
触り続けると痛いと感じる冷たさはどうにも嬉しくはないが、それでも、面白い遊びだっていくつか体験できて

嫌いじゃなかった
むしろ、大好きだった
なのに
それなのに…





真っ白な世界で唯一咲く赤い花のように
彼女は血に塗れて死んでいた
精一杯抵抗した証だというかのように身体に刻まれた無数の傷
そこから、大量に血を失ったのであろう
その身体には血の気がなく、この雪のように白かった
自分の持つ髪よりも数倍綺麗だと感じていた蜂蜜を薄めて溶かしたような金色の髪は降り積もった雪で白く染まり
森の蒼のような美しい瞳も、硬く永遠に瞑られてしまった
…優しく、時に厳しく叱るあの声も、もう聞けることはないのだ



無機質な世界の色に映えるは血の赤



そして、自分は永遠に彼女という存在を失ったのだ
息絶える瞬間の最後の言葉も聞くこともできずに…




嫌な、嫌な予感がしていたのだ、その日の朝から



「ねぇ、ナルト、今夜は任務なの。だから、先に寝ていなさいね?夜更かしはダメよ!」
「任務?…俺も行くってば! ―だけでは心配だってばよ!!」
「ダーメ。いい?いくらナルトが強くても、まだ子供なのには変わらないのよ?外は雪振ってるし、子供は夜寝る、それが常識!」
「俺は存在自体がひじょーしきだってばよ?」
「もう、すぐ屁理屈捏ねるんだから。…大丈夫、簡単な任務だから、遅くはならないわ。ね?」
「むぅ」



拗ねる自分に、ちょっと困ったような、その様子がかわいいといったような複雑な表情を浮かべていた
いつもなら、何度も頼み込めば、結局は自分に甘い彼女の事、任務も楽になるわよねー、と連れて行ってくれたのに、
でも、その日は頑として譲ってくれなかった

…今思えば、自分の死を、彼女の感が囁いていたのかもしれない
それとも、自分より情報収集に長けていた彼女の事だから、自分を危険から遠ざけようと、手を回したのだろうか

不穏な空気を感じることなど前々から多々あったし、それほどまでに自分とは特殊な存在だという事も理解していた
だから、子供ながらも生き抜くために感を磨きぬき、絶えず情報収集にも手を抜かなかった
でも、その日は何かを感じたはずなのに、その情報網には引っかからなかった為に大丈夫だと思ってしまったのだ
だから、行かせてしかまったのだ…

それは、人生に於ける最悪の失敗
最大の悔い


ぼんやりとうとうとしながら待っていた
彼女に怒られようとも、顔を見て安心したかったから
それでも、待てども帰ってこない
…時々抜けたような事をするが、それでも彼女は暗部に入れる程の実力者で
その彼女が簡単だと言った任務、それほど時間などかかるはずがないのに…!
嫌な予感で逸る鼓動を押さえながら、勘違いでいてくれよと願いながらも、コートを掴んで家を飛びだした

雪は既に止んでいて、晴れた空にぽっかりと浮かぶ月明かりが雪を照らし、夜と照らす
好都合だと言わんばかりに、彼女が向かったと感じる方向へと、感だけを頼りに走る
足元が悪いのと、子供ゆえの歩幅の短さであまり早くは走れない
何度か転びそうになりながらも感が告げる彼女の場所に辿りついた時には

もう…



「   ?」



震える身体
震える声
一瞬頭の中は真っ白になって…
それでも、必死に彼女の名前を何度も紡いだが、反応を得ることは無かった





原因なんて考えるまでもない、明確だった
彼女は自分の教育係であり、そして、大切な人だった

それが理由で、それだけの理由

なんともくだらない理由だろう
自分を忌み嫌い、畏怖する人間にとって、自分が慕う者がいる、それが恐怖だったのだ
…そして、自分を消したいと願う人間にとって、取り込めばこれほど都合のいい味方もいない
受け入れれば裏切らせ、拒めば死を
それを、彼女に選ばせたのだ

…そして、彼女は、死を選んだのだろう

自分が気を許した人間にはどこまでも深い愛情を与え、裏切るなんていう言葉を持たないヒトだったから
本当は、暗部になんて似合わないぐらい心優しくて
だからこそ、三代目のじじぃは彼女に自分を任せられ
だからこそ、自分も彼女を信じ、愛せられたのだ

でなければ、これほどまでに彼女の身体に拷問じみた傷はないだろうし、忍の死体を無造作に放置しないだろう
…あれは、自分に対する見せつけだ
お前にヒトを愛し愛される資格などないというかのよう

怒りと悲しみで震える身体に叱咤しながら、そっと頬に指で触れる
冷たく、温もりなどなくて




ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん、ごめん…




何度も謝りながら、乾き始めた血の汚れと拭い、降り積もった雪を払う
綺麗で大好きだったヒト
もう、動くことはない彼女
バカみたいだ
彼女さえ無事なら、自分がどうなったっていいのに
裏切ればよかったのに
…自分は彼女の手にならあっさりとかかっただろう
仕方がない、と言わんばかりに

だけれど、きっと、そんな事さえも彼女は見越していて…

そんな事を考える自分をいつも彼女は直ぐに気づいて、バカね、そんな事しないわよ、と悲しむよう怒るような複雑な表情で笑っていた
まさか、その言葉が現実になるなんて…



「…すぐ帰るんだって言ってたってばよ?遅いから、俺ってば、先に迎えにきたってば…」



涙が止め処もなく流れ、雫になったそれは彼女の頬に落ちる
その雫はまるで、彼女が流した涙のようにも見えた



「おやすみだってば…」



彼女が存在した証に、耳に付けていた蒼いピアスを外す
「これ、ナルトの瞳の色なのよ?」そう、嬉しそうに笑っていた事を思い出した
それから、いつもの寝る前の挨拶のように、そっとその冷たい頬に口付て

そして、自分は彼女を燃やした
忍たる彼女の死体が他の者に見つかれば、彼女はさらに切り刻まれるかもしれない
そんなのはどうしても許せなかったのだ

だから、
せめて、彼女が、綺麗だと言っていた、蒼い狐炎で、一気に…

高温の熱に彼女の身体は灰と化し、白い煙が天に登るのをじっと一瞬も見逃さないように見つめていた
そして、そっとその灰を掬い、持っていた布に大切に包んだ

その布を胸に抱き、そのままその足で森へと向かう

そこは、彼女と自分の憩いの場で、彼女が最も好きな場所
誰にも立ち入らせないように、結界を張り、禁忌の森という名を広めてしまった森
いつも彼女が背中を預ける白い花をつける大木へと迷うことなく向かった
携帯していたクナイを一本取り出し、その樹の根元を掘り、そして、彼女の灰を埋めた



「ここなら、動物もいるし、花も咲くし、寂しくないってば。安らかに眠っるってばよ…?」



彼女が好きだと言っていたから、最後に、にっこりと笑って
そして、森を後にした



帰りに見上げた空の星が綺麗だった事、身に沁みるような寒かった事がいつまでも忘れられなかった


それは、もう、10年前の今日の事…








「空が、夜空が綺麗だってば…」



雪が融けきってない為に座る事がかなわず、しゃがみながら見上げた星空は、澄んだ空気の為か、非常によく見える
それに、そもそもの話、視力は忍らしく、かなりいいという自身があった
それでも、誰もが綺麗だと感じれるほど、無数の美しい星が天に存在し、光輝いていて
その美しさに頬が緩む
ほんの小さな点のような光
たった一つならば気にも留めないだろうそれは、数多存在し、競い合うように瞬いていて…


なぜ、自分は、綺麗だと感じるのだろう


…もう、彼女はいないというのに
彼女の温もりを感じられない冬など、寒さが煩わしいだけで
今でも雪の白さは彼女の赤い血の色とのコントラストを思い出させる…

自分に全てを絶望させるに等しい力をあの死は持っていた


それなのに、こうして何かを綺麗だと感じる心を微笑む事ができる自分がいて
流れた月日がそうさせたのだろうか



「「ナルトー!」」



遠くから聞こえる自分を呼ぶ声に思考を切り替え、ゆっくりと振り返れば、視界に入るのは二人の姿
白い息を吐きながら、雪で抜かるんだ森の道を駆けてくる
あの時の自分が重なるよう
…ただ一つ違うのは、彼等が浮かべる表情で



「…遅い。寒い。眠い」



乱れた息を整えるように深呼吸を繰り返す彼等に単語を連ねて今の心情を訴えれば、シカマルが悪いのよ、いや、いのだろがという小競り合いが始まって
あーあ、またか、という感じで溜息一つと苦笑

先ほどまでの落ち込む気持ちも、奥へと引っ込んでしまって



「あー、はいはい。もうどうでもいいから黙れ。お前等邪魔だ」



渋々としかし、互いが気にいらないと言わんばかりにぷいっと正反対を向いた彼等
ほんとに、仲がよくて仲が悪い



「あーっ!流れ星よ!!」



いのの声に空を仰げば、一瞬だけ目の端を掠めて消えた
残念そうないのの声と、見る事が叶わなかったのであろうシカマルの悔しそうな声に少し笑いながら

そして、
遥か君を想いながら、君の眠る樹の下で、この空を再度仰ぐ

雲ひとつない蒼い闇の空に星々がまたたき光り輝いて
あの時の空を、あの時の事を思い出しても、それでも尚、美しいと感じる心
そう感じてしまうのが嫌で、分かっていたから、あえて、避けていたのに…

今日という彼女を永遠に失ったこの日にこの場所に来るのはいつもの事
あの日から永遠に白い花をつける樹の下で彼女の事を想い夜を明かしていた
それなのに、今回に限って事前にこの行動がバレてしまい、問い詰められ、「星を見に」と思わず答えてしまった
…そんな事言えば、こうなるという事なんて一目瞭然なのに
そして、結局は予想通りに、いのの「私もv」といつもなら自分の見方をしてくれるシカマルの「偶にはいいかもな」という言葉で押しきられてしまってこの通り
本気で拒絶すれば、彼等も引いただろうに、なぜかそれはしなかった
それは明らかな変化



「ナルト?」
「いや、なんでもない…」



あの時と同じようで
あの時とは違う

彼女はもういなくて
彼等がいて


それでも、彼女の事を忘れたわけではない
ふとした瞬間に、彼女の事を思い出し、自分の中に彼女が息づいている事を
時が立っても消えない大切な想い



「二度とこんな事にはさせない…」



あんな悲劇、もう二度とはごめんだ
あの時、彼女を殺した奴らは皆殺しにし根絶やしにしたけれど、でも、同じ事を考える奴はいるもので
また、起こるかもしれないこと

だからといって、心を閉ざした彼女を失った数年間
あの心に何も届かなかったような日々を再度送る気は、もはやない


再度、人の優しさに触れてしまったのだから…


それは離しがたい、
彼女が教えてくれたモノ



「へぇ、ここでの天体観測もなかなかいいな」
「ほんと、ナルトもずるいわ、隠してるなんて!!」



無邪気に笑いかける彼等
自分にとって新しい世界を教え導いてくれる者達
そして、今日というこの日を笑っていられる理由



「この日の、ここでの時間は大切なものだからな。そう簡単に教えられねーよ」



ニヤリと笑って
不満そうな表情を向ける彼等に素知らぬ振りを通す

理由を永遠に告げることなどないだろう
彼女の存在を知るのは自分だけでいいのだから








遥か君を想う時

思い出すのは

冷たく白い雪と鮮やかな赤
そして、何よりも




優しい君との時間











fin







*****あとがき。*****
こんにちは。遅くなりましたが、新年になって初めてのオン小説です。久しぶりでごめんなさいι
…えっと、CP表記がわかりません(苦笑)とりあえず、シカナルいのシリーズなので、それなのでしょうか?
今回はなんとなくナルトの幼い頃を書いてみました。アスマさん登場よりも前のお話です。というか、当サイトのナルト話で一番古そう。「孤独のタマゴ」で語られる過去の中の一部分って感じです。
本当は、寒いのが嫌いな理由を書いてみたかっただけですが、そんな理由だったとは!と自分でも驚き(え)あ、彼女の名前は敢えて伏せました。オリキャラです。容姿は…きっと読めばわかると思いますが、配色はあれと一緒です(笑)まぁ、それがあったから、キンモクセイの話と繋がるっていうワケで…。多分。(今、それを知ったというか考えた/死)
突然の彼女の登場で、細かい部分でおかしな部分がいっぱい出てきましたが、その辺りは軽く修正いれときます。こっそり(こら) それ以外に気づいたおかしな点は都合よく解釈してくださいネ!


では、この話が少しでも気にいってもらえたなら幸いです。
今年もよろしくお願いします。

06.01.13「月華の庭」みなみ朱木





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