それ以上の存在になりたいと願った









憧憬の遠き君














ひらりと舞い散る雪にシカマルは小さく笑った

白い 白い 雪

現在の雪に加えて、既に先日に振った雪はまるでこの里の醜さを全て覆い隠さんというばかりの情景だった
…少しばかり清々しい気分だ
彼を苦しめたこの里の穢れが、醜さが、全て埋もれてるのは
いっそ、ずっと埋もれていればいいものを…
しかし所詮は、



「一夜の夢のよう、ってか?」



自分の考えがバカみたいで自嘲気味に口の端を歪めて笑った
何を考えてしまったのか
…夢だけを見て、夢だけを食らって生きられる世の中でものないのに

顔に当たった雪は肌の熱によって、水になって解け落ちた
これもまた、儚い存在だ

この雪も、じきに止むだろう
積もるまでもない、雨交じりの雪だったのだから



「ん?」



すっと現われ感じた気配
愛しいヒトのそれに、今までの愚かな思考を振りきり、打って変わって穏やかな表情を向ける
彼を想うだけで胸が躍る
雪が、冬が嫌いだという彼
きっと、こんな日だから顔は不機嫌で歪んでるだろう
そんな事を予想しながら



「――蒼輝」



愛しい名前を呼びながら斜め後方に在る樹を見上げれば、案の定、彼が居た
意識すればまったくといって存在感を感じさせないくせに、普段は圧倒的な存在感を持っていて、それは自分を惹きつけてやまない
手を差し出して降りてこいと合図すれば、重力を感じさせず、ふわりと手を添えるような形で降りてきた

暗部を表す黒い衣服に
白くはためく防寒用も兼ねたローブ
闇よに輝く月のように金色に輝く髪
そこまでも蒼く、引き込まれそうな瞳
衣服の隙間から覗く、白磁器のような美しい肌

まるで、かつて巻き物で見た、異国の天使といったような神々しさに、思わず愛しげにその添えられた手へと唇を一つ落とした
それは、恋焦がれる存在を敬う証だ

しかし、行動が終わってからはっと気づく
彼は自分にそういう行ないをされる事を一等嫌っていた
まして、今日は、雪
彼の機嫌はさらに悪化しているに違いなかった

しかし、彼を見上げた時に映ったその表情は…



「なに…?黒月」
「いや…」



ドクリ ドクリと胸が早鐘のように鼓動を打って



「…予想外で卑怯だ」



ぽつりと漏れた言葉
真っ赤に染まる顔

なぜなら
だって
そんな



「笑顔かよ…」



しかも、滅多に見られないような満面の笑み
彼の美貌に慣れてきた自分でさえもドキリとするようなソレ



「なんだよ、俺の笑顔に不満でも?」



自分の反応に、どこか、不貞腐れたように笑う彼も可愛らしくて
胸に手を当てて、落ち着けと自分に言い聞かせる



「いや、この時期にお前が機嫌がいいなんて珍しいって思っただけだ」
「そうか?」



自分の顔に手を当て、まったく気づいていなかったという表情をした
そうか、無意識なのか、と考えながら、彼の疑問に対して答えた



「あぁ」
「…そっか」



今度は、どこか寂しそうで、そして困ったようでもあり、嬉しそうな、複雑な笑みを浮かべて

何が彼を変えたのだろう
この前のいのと三人でした天体観測の日辺りから、なにか、彼の中で張りつめていたものが弾けたような気がした
そう、まるで雪解けの春が訪れたように

今度はズキリと胸に痛みが走って
それに耐えんとばかりに、唇を噛みしめ、拳を握り締めた



「―― 」



そんな折に蒼輝から、ぽつりと、微かに呟くように漏れた言葉
いや、あれは恐らく人の名前だろう
全てを聞き取る事は出来なかったが恐らくそうに違いなかった

その声音は愛しい者を呼ぶように優しく、穏やかで…
きっと、その名前を紡ぐ表情はもう彼の傍にいて長い自分でも見た事がないようなものだろう


ジブン ノ シラナイ キミ


それを確かめるのが怖くて
認めてしまうのが嫌で
顔を上げる事が出来ず、俯いて、ジッと自分が雪道に付けた足跡の道筋を見つめた
自分が、彼と過ごした過去の時を振り返るように

自分は彼を変える事も出来なかった…?
唯、傍に居たというだけなのだろうか…?


気づいていた
でも、気づかない振りをしていた


自分と出会うずっと前に誰かが彼の傍らにいた事を
そして、彼がその人物を何より信頼し、何より愛していた事を

…失って、何よりも傷ついた事を

今尚、
その想いを引きずるぐらいに…






「黒月…?」



突然の呼び声とひやりとした冷たい手
鼻が触れそうなほど近くに表れた蒼い瞳に引き込まれそうになって



「うわぁ!」



思わぬ彼の行動に顔を真っ赤にして後退る
すると途端にナルトは拗ねたような表情を露にする



「…なに、人の顔見てそれってば、失礼だってばよ?」
「いや、その、だな…?」



この拗ねた表情さえも、冗談であって本心でないと知っているのに、それでも尚慌てて否定しようしてしまう自分がいて
皆に言われるまでもなく、彼にはものすごく甘い自分
盲目なまでに惚れていた

先に惚れた方が負け

そんな言葉が頭の中をよぎるが、正直当たりすぎて目を逸らしたいのが現状だ



「ぷっ。黒月が慌てる表情を顕にするのなんて、かなり貴重だってばよ…!」
「蒼輝〜お前は〜」
「アハハ〜、悪かったってば!冗談だってばよ」



でも、顔はちっとも悪かったなんて思ってはいない表情で口調で、屈託なく笑う
それは自分が良く見知っている、彼の暗部の蒼輝とはまた別の意味での素の表情で
そのいつもの表情にホッとして、しかし同時に心に痛みを感じた

今まではこれで満足だった
この笑顔でさえ、見られるのは一握りの人間なのだと、その事を知っていたから
でも、あのような表情を俺にはさせる事ができなくて
今後もできないのではないのか

そんな気さえしてきて…



「蒼輝、お前の…」
「ん?」
「いや、なんでもねぇ…」
「そうか?…つか、何か、今日のお前変だぞ?体調でも悪いのか??辛いようなら任務、俺一人でこなすけど…」



「いや、大丈夫だ」



ナルトの自分の熱を測ろうとする手を何気ない動作で避けながら、遠くを見つめながら無理矢理笑顔を作って笑った
彼の目にぎこちなく映っていないよう祈りながら


"お前の傍にいていいのか?"


たったその一言が聞けなくて
今は触れる事さえも視線が合うことさえも怖かった










だから、
その時は自分に精一杯で、彼が自分のその態度に傷ついた事に気づく事ができなかった…












next...







*****あとがき。*****
…すみません、まだ続きます。多分(え)時間があったら仕上がるだろう作品です。
あ、「遥か君を想う時」の続編。一応シカナルいのシリーズ。しかし、目指すのはお分かりようにシカナル。根底にオリキャラ×ナルトが。構成要素はやっぱり(?)シカナルいの。

…続けばネ(滅)

06.02.12「月華の庭」みなみ朱木






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