「ねぇ、まだ咲いているってば。もう、こんなに寒いのに」
「…本当だ。きっと、ナルトが丹精込めて育てたおかげじゃないかな?」
「かな?…へへ、そうだといってばよ」



花の蕾が綻ぶように金色の子供は笑った








ノ花










イルカの隣りでベランダに置かれた鉢植えと同じ目線になるようしゃがみこみ、嬉しそうに笑うナルトの姿
あまりにも無邪気なその姿にイルカもつられたように笑う
南国に生息するという赤い花
活き活きと咲くその花が気に入って、植物を育てる事が好きなナルトの為に夏に購入したものだった
陽気に次々と咲き乱れる大きな赤い大輪の花は、こちらの気分さえもいくらか陽気にさせてくれる



「気に入ってくれたのか?」
「もちろんだってば!こいつってば、綺麗でかわいいってばよ」
「そりゃ、よかった」



思わず鼻歌でも歌いかねない嬉しそうな様子にイルカは眩しそうに眼を細めた
もちろん、笑顔だけではない
燦々とベランダの中へと降り注ぐ太陽の光
それが、金色の稲穂のような髪の毛に当たり、反射してきらきら眩しかった

本当に楽しそうだ

そう思えると嬉しくて
ホッとして
この赤い花に感謝したくなった

きっと、この花は彼を喜ばせるために存在してきたのだろう

滅多に他人に心開かない子供
ナルトが隠している事をイルカは正確に知っていた

何を抱えているか
どう生きてきたか
どう生きているか

知っていて聞かなかった
聞けなかった
きっと、自分から話した瞬間、彼の笑顔を自分が見る事は二度とできないに違いないから
偽りの…という枕詞がつくそれを除いたものを
まだ、彼に心から信じきられていないという事に気づいているのだ
それは苦々しい思いをもたらすが、自業自得だった

その立場を選んだのは自分だ

人の心の機微に聡く、偽りの自分を演じて自らを守る子供
そんな子供を更に騙すように、全てを知りながら、近くて遠いところで見守る事を
何故なら、きっと、彼の傍に育ての親の如く存在すれば、彼はそれ以外に欲しがらなくなってしまう
生まれたての雛鳥のごとく、刷りこみで、自分だけしかいらないなっていう世界にナルトを存在させたくなかった
…例え、その為に少し、いや、かなり寂しく心痛む状況を作り上げたとしてもだ

無論、影ながらではあるが、彼に関わる人間に教育的指導という名の報復や、アドバイスはしたが
それを子供が知る事はまだ随分先までないだろう

今はただ、彼が自分に自ら心開いてくれるのを待つのみだ
…それなりに、嫌われていないだろうという自信はあるのだが、やはり、言葉に出されなければ確証など無い


そんな事を考えながらも、嬉しそうに他の花にも話しかけながらも水をやる姿をイルカは穏やかに見守っていた
言葉を持たぬ、己に害を与えぬ植物はナルトの心の拠り所の一つで
偽装の為とか、そんなんじゃない事ぐらいお見通しで



「なぁ、ナルト…」
「なんだってば?」
「お前の育てた花はどれも活き活きとしてるなぁ。綺麗だ」



愛情溢れて育てなきゃ、これほどまでに綺麗に咲くはずなどないだろう
以前、植物も言葉や気持ちがわかるのだと聞いた事がある



「ニシシ…。お前、綺麗だって。よかったってばよ」



撫でるように優しく花びらに触れる手
夜には任務で非情にも多くの血に濡れる手は彼等には優しい手で
それに応えるかのように、吹き込む一陣の微風は咲き乱れる花を一度だけ揺らした

彼の花は愛情で時期を過ぎた今もなお、活き活きと美しい花を咲かし、彼を喜ばす
愛情に応え返すかのように


「知ってるか、ナルト」
「何をだってば?」
「植物を育てるのが上手い人の手をグリーン・サムって言うんだ」











それは、金色の子供が命を奪うだけでなく、育むのも上手いという証











fin







*****あとがき。*****
こんにちは。WEB拍手より再録です。
家の玄関で育てているハイビスカスは7月半ばから3カ月半以上も美しい赤い花で眼を楽しませてくれます。綺麗だ!
当サイトの1設定のイルカ先生。「そうして君は…」の前の話だろう、うん。…多分ι
先生と生徒としては近しい関係だけど、嘘を払拭すれば、まだ遠い関係。頑張れイルカ先生!!


05.11.14「月華の庭」みなみ朱木






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