ぱらぱらと雨が降る
桜の花の上に











桜の雨















雀は目の前の光景に軽く目を見張った
久しぶりに目にした友、猿野天国の姿は昔の彼の面影を思い出す事は難しかった
"豹変"
その言葉がこれほど似合う事も少ないだろう

中学で知り合って、どういった訳か天国と仲良くなれて
彼の傍にいる、その心地よさを覚えた
ずっと、一緒に居たくて
だから、高校も同じ所へ行きたかったけれど、お前は野球が好きなんだからセブンブリッジへ行けと言われて渋々別れた
本当はそれでもついて行きたかったけれど、いつも彼の言葉は正しかったから

それから、お互いに忙しくて、なかなか連絡と取り合う事が出来なかった
会えない日々は寂しくて、でも、忙しさにそれも麻痺し始めてて
そんな中、届いた一通のメールは「野球を初めた」というもので

そして、俺は、今日、その光景を始めて目にしたのだ
彼の事だから、そつなくこなしているだろうという想像を持って
それは淡い幻想だったけれど






試合が終わった十二支に会いに向かった
自分で言い出そうと思ったが、どうやらみんな向かうらしく手間が省けて助かった
が、しかし天国に声をかけようとした瞬間、その役は剣菱に取って変わられた
どうやら、剣菱と知り合いだったらしく、剣菱が一方的に天国にベタベタしている
…むっ
俺の知っている天国なら、ここで一発蹴りを入れて相手を地に這い付くらせているのだが、何故か困ったように笑っているだけで
直ぐに、こっちが我慢の限界に達した
剣菱を天国からガバッと引き剥がそうと動き出そうとしたが、天国に目で止められた
鋭い表情、それは懐かしい彼の表情で
その懐かしさに頬が緩む



「あら、雀が笑うなんで珍しいわね?」
「否」
「そんなこと無いわよ。アタシは初めてに近い感じよ」
「朕もそうあるヨ!」
「…」



ちょっとばつが悪くて沈黙で返す
そんなつもりは無かったのだが、どうやらなかなか笑わない男として認識されていたらしい
…まぁ、いつものことか
初めて天国と出会った時も周りから勘違いされていた
唯一、彼と彼の親友は気付いてくれたのだけれども



「雀、元気だったか?」



ようやく剣菱を振り切ったのか、天国がこちらにやってきた
前とはやっぱり違うけれど、綺麗な微笑みで
見惚れてしまう


「我 元気。天国?」
「俺か?元気だったよ。よっかった。心配してたんだ、お前のこと」
「心配 感謝」
「お前の事だから体調に気を使わなさそうだからな。でも、本当によかったぜ」


自分の事を心配していてくれた
その事が嬉しかった
自分の事なんて忘れられたと思ってたから

前みたいに、その髪を撫でた
相変わらずの気持ちよい感触をしばし楽しんで



「なに、雀はてんごく君と知り合いなわけ〜?」
「えぇ。昔からの知り合いなんですよ。最近はお互いに忙しくて中々会えなかったんですけどね」
「ふーん」



剣菱が何か伺うような目を向けた
…俺が天国と仲がよいの何が悪いんだ
というか、天国に近寄るな、この血吐き男!天国が汚れるだろうが!!



「びみょーに何かいいたそうだね〜」
「…剣菱 気 錯覚」
「まぁ、いいけどね〜」
「あんまり雀を苛めないでくださいよ、剣菱さん」
「苛めるだなんて心外だな〜。仲良しだよ、俺と雀は。ねぇ?」
「…」
「うふふ。剣ちゃん、全く相手にされてないわよ」
「駄目駄目ヨ!」
「うわぁ、びみょーに傷つくな〜、それ」



剣菱はわざとらしく悲しそうに顔を歪ませたが、そんな彼を誰も相手にせず、その場は盛り上がっていた



「でも、天国君?が雀ちゃんと知り合いだったとはビックリだわ」
「そうですか?俺には雀に無事に仲間が出来たってとこが驚きですよ?こいつ、人見知りしますから」
「それはね。強引に仲良くなったのよ。でないと、雀ちゃんみたいなタイプはなかなかお話できないじゃない?せっかくタイプの子だったのに、そんなもったいないことアタシには出来ないわ」
「…そう、ですか」
「あ、安心してね。もちろん、君もばっちりアタシのタイプよv」
「朕もあるヨ!」
「…はぁ」



…絶対本気だ、これは
ひしひしと感じて天国を引き寄せると、連れさる事にした



「え、な、なんだ!?」
「謝罪!」



抱きかかえて走る
これ以上2人の時間を邪魔されたくなかった
というか、確実にライバルが増えてるので、隔離したかったというのが本音だが



「てんごく君!!」
「ちょっと、抜け駆けは許さなくてよ!」
「待つある!!」




遠くから、仲間の声が聞こえるが無視だ
聞こえなくなるぐらいまで離れるとようやく天国を降ろした



「雀?」
「…天国 我 大切。紅印 危険」



その言葉に天国は思わず笑った
反対に雀は不満そうに顔を歪める



「我 真剣」
「悪い悪い。あんまり雀が可愛いこというからさ」
「否 其 天国」



天国の茶色い癖のある髪をそっと撫でる
昔、よくこうしたものだった
彼曰く、「俺にこういう事するのは沢松しかいない」らしい
それを思い出すと、心がちくりと痛んだ



「かわらないな、雀は」



綺麗に笑う
そう、昔の表情で
昔に戻ったかのような錯覚を起こす










鮮やかな桃色の花びらが木々を彩っていた
微かに漂う花の匂い
思わず目が奪われずにいられない花



「桜か…。雀は桜は好きか…?」
「好。天国?」
「俺?苦手、な方だな…」
「何故?」
「どうしてだろうな…」



そう言って笑った
聞きたかったけれど、彼のその表情が拒絶していて

踏み込めない領域

そういうものを感じさせた

悲しい
寂しい

そう思うけれど、それが俺達の決めた暗黙の境界線


ぱらり、と雨が降り出した
次第に強くなり、桜の花びらの上に降る注ぐ
その雫の重さに耐えられなくなったのか、花びらが散った



「桜の雨だ…」
「桜 雨?花弁 散?」
「いや、花びらのことじゃねーよ。桜の花に降る雨のこと。この時期の、桜の咲く頃に降る雨の事をさすんだ」



桜の雨
大地を潤す恵みでもあり、桜の花弁を無慈悲に散らすモノ



「…まるで俺みたいだな」
「…?」



眼鏡が雨にぬれるのも構わず天を見つめる



「俺は人によっては悪魔でも神にでも成りえたる存在だからな…」
「否!」
「それは、お前にとって、俺が悪い存在ではない、そういう事なだけだ」



きっと、俺がどの言葉を投げかけても彼には届かないそう思った

空しくて
せつなくて

それでも、彼の傍にいれば、時が解決するかもしてない、
そうして月日は流れて…












「天国 変化?」
「ん?あいつらといた時の事か?ちょっとしたお遊び。気付かれたくなかったんだよ、本当の俺をさ」
「否。本来 天国」
「…少し、人生が楽しくなったかな。大切なモノが増えたんだ…」



柔らかく笑った
野球をしている時の馬鹿げた彼のものでもなく、よく知っている昔の彼のものでもなく
初めて知る彼の表情

どんな彼の表情も好きだったけれど
それさえも忘れるくらい幸せそうな微笑み



「…幸?」
「…かな?」
「疑問?」
「そこを突っ込むのか?…そうだな。今までの中で、一番充実してる」



微笑み返す
幸せでいてくれるのなら、それでいい
そう思うから

きっと、彼に恵みの雨が降ったのだ
彼という花を散らす事の無い雨が



「天国 未 桜 嫌?」
「…嫌いじゃない」



それは、天国の事だから
好き
そういう意味で



来年の桜に想いをはせる

俗っぽく花見なんていうのもたまにはいいかもしれない
雨が降っても桜は綺麗だろうし
濡れた桜も一興だ

きっと、彼は笑っている
幸せそうに















「てんごくく〜ん!!」



どこかの誰かの執念により見つかるまで後、数秒







*****あとがき。*****
3周年ありがとう小説第2弾デス。七橋猿(というか、雀猿)ですvおぉ!…雀+猿のような気もしますが、気にしない!(おい)
雀は天国の中学時代の同級生です。中学時代、唯一、気軽に彼ら(天と沢)に近づけたのは彼だけっていう設定。基本設定は沢猿猫シリーズよりです。微パラレルの世界を突っ走ってるなぁ(笑)
なんだか、剣兄に厳しいような気がしますが愛はいっぱい。紅印にも愛いっぱいv姉さん大好きです!!もちろん、雀猿書くぐらいなので、雀愛!この口調が可愛いですv桃喰は…黒いだろうな、と(爆)
桜の雨。私は嫌いじゃないですけどね、晴れた日の花見が一番綺麗カモ。ネタが入りそうに無くて(話の時期的に)困った。
では、少しでも楽しんでくれたら幸い…

04.04.08 みなみ朱木「月華の庭」



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送