学び始めた理由は親の為
でも、今は自分と彼の生活を守るため
誰にも手出しされないように身につけなきゃならなかったから

どんな世界でもあいつさえいればいいんだ











人革命















自分が生まれて初めて作ったお菓子は彼の為の誕生日ケーキ
いつも自分の為に一緒にいてくれる彼の為に本を片手に焼いたのだ
それはいつもコックが作ってくれるものよりは美味しくなかったけれど、なかなかの出来で
嬉しそうに食べてくれたその時の事をよく覚えている
それが嬉しくて、腕を磨いて今じゃプロ級だ

買ってきたものを贈るのは容易い
けれど、彼の、沢松の誕生日だけはそんな簡単なものを贈る気にならない
よって、毎年趣きを変えて様々なモノを作って贈っている為に料理だけでなく、その他のまでプロ級の腕前だ

一緒にいたい
その強い気持ちと
一緒にいさせてる
そんな相反する罪の意識

でも、どうしても一緒にいたくて
それ以外の生活なんて考えれなくて
少しでも後悔させたくなくて

その結果が今のような自分になった
自分を創造しているのは沢松だ
彼無しなんて想像もできない


「何考え込んでるんだ?」
「ん?」


背後から自分の髪をすく、心地よい手の感触
頭を預けるように後ろへ体を傾け、目を閉じる
沢松の腕の中へとすっぽりと収まった
こっちの方が彼の存在を感じていられて好きなのだ

誕生日恒例の二人っきりのディナーを食べ、今はゆったりとした時間だ
明るすぎない暖色の明りは仄かに二人を照らす


「何で?」
「変な顔してたぞ」
「そ?自覚なかった」


腕の中で無邪気に笑う
これなら変な顔じゃないだろう?
するとぎゅっとさらに力を入れて抱き締められた


「反則」
「なんで?」
「俺がお前のそういう表情が好きって知っててやるんだからたちが悪いよな」
「好きだんだ?そりゃ知らなかった」
「嘘つけ」


どうだろ?とさらに微笑めば、仕返しと言わんばかりに顔に一面、キスの雨が降ってくる


髪に
額に
鼻に
耳に
頬に

優しいキスの数々


でも、それは、唇にだけは決して落ちてこない


「唇は?」


不満そうに言い放つ自分に困ったように沢松は笑う


「いつか、な…」


それはいつもと同じ台詞
結局、決して一線を越えようとはしない
唇でのキスの一つや二つ、彼なら構わないのに



自分は彼なしじゃ生きていけないのに
彼はそうではないと言われているようで
哀れな孤独な自分に付き合ってくれているだけのようで


そんな時が何よりも悲しい




不貞腐れて顔を背けた
きっと今、彼はさらに困った顔をしていて
それが分かるから尚更、顔をあげることなんてできなくて


このまま寝てしまえば、また、いつものような毎日が始まるだろうか?


そんな事を考えてしまう
でも、そんな風にしてしまうには今日はとても大切な日で
なんでこんな大切な日なのに
笑って過ごそうと思っていたのにこういう事になってしまって



なんだか無性に悲しくなって




「泣いてくれるなよ」
「泣いてねーよ」
「嘘だな」
「…五月蝿い」


涙とまではいかないけれど、目が潤んでいるのが分かるから、なんだか悔しくて
未だ顔を横に向けたまま、突き放すように言うと顔をぐぎっと元に戻される
沢松にしては珍しい強引なやり方に内心ビクリとする

見上げればそこには真剣な表情の彼
どきりと胸が高く鼓動を刻む
漆黒の夜空を彷彿とさせるような美しい黒髪は今は纏められておらず、さらりと垂直に下へと垂れ
同じ色を映したその瞳は自分のみを映す
自分の茶色い髪や瞳よりも彼のこの色がなによりも大好きだった
しかし、本人にこれを言えば「お前の色の方が俺は好きだぜ」とかいうに違いない

そんな事を考えていると目尻に唇が降りてきては涙を拭っていく
しかし、その表情を見れば笑ってはおらず、言うなれば酷く追い詰めた表情で


「健、ちゃん…?」


両腕を上に突き出し、そっと顔に触れる
その自分の行動に微かに振るえたのがわかった

何を、考えているのだろう

分からなくて
怖くて
とてつもない不安に襲われる

離れて行ってしまう決意なのではないか
そう思うだけで心が冷たくなる

でも、自分には彼を繋ぎ止める権利なんてなくて…


「誕生日、誕生日のプレゼント。何が、いい?」
「もう、貰ったぜ?」
「今回は、特別。何でも、願いを叶えてやるよ」


体中のエネルギー全部を振り絞って、出来る限りの笑顔を作って
本当は泣きそうだけど
そんな事微塵も感じさせないように笑う
枯れたはずの涙はいつだって、君の事なら何度だって湧き出てくるけれど
それでも、今は泣いては駄目だから

もしかしたら、一緒に過ごせるかもしれない最後の誕生日なら、精一杯笑っていたい
記念に残るものをあげたい

そう思うから


「天国?」


自分の態度を不思議に思ったのか、先ほどの表情は嘘のように、こちらの様子を探るように見つめてきた
その様子に決意が揺らぎそうになるが、ぐっと耐え、さらに笑みを深める


「…これはお礼だから、俺にはこれぐらいしか出来ないから。気にすんな…」
「お礼?どういう意味だ?別にお前に礼なんか貰うような事した記憶なんてないぜ?」
「…ありがとな、今まで」
「あま…くに…?どう、いう、意味だ…?」


沢松の顔は酷く青い


「お前から…お前から告げられるのは、辛いから…さ…。せめて…俺からいいたいんだ…」
「何を…、何を言ってるんだ…?」


体を起こさせられ、向き合う格好にさせられると肩をぐっと掴まれた
予想以上の強い力
痛かったが、しかし、それは今まで彼を自分が繋ぎ止めていた罰だと思えばなんともない


「ずっと…怖かった…。俺にとってお前は生きる理由だけど、お前にとってはどうなんだろうって、ずっと考えてた。俺は本当にお前の事が好きだけど、お前は…俺が可哀想で付き合ってくれてるんじゃないだろうか、って…」
「…そう、思ってるのか?」


顔を見ていう事なんて出来なくて俯いていたが、いつも以上に耳に届く低い声音にびくりと体が振るえた
これは怒っている声で
それも本気で
かつてない、自分へと向けられた怒り


「天国、お前は…」


しかし、その言葉は続く事がなく、二人に沈黙が落ちる
恐る恐る見上げれば、その声とは反対に悲しそうに顔を歪める沢松の姿


「馬鹿だ…」
「健ちゃん…?」
「いや、俺も、か…。意地ばっかはって大切なモノを無くそうとしてんだから…」
「え…」


どういう意味だ、という言葉を発する暇なく、唇を塞がれた
今までなかった事に目を見張る
唇以外のキスなら何度もあるが、求めても降りてこなかった場所
言葉を紡ごうにも飲み込まれ、紡ぐ事ができない

嬉しい気持ち
動揺する心
最後の別れの挨拶なのでは、と恐れる自分

色んな気持ちが入り乱れて…


永遠かと思うほど、しかしそれ程長くはない時間の口づけが終わるとお互いに息を整える




「天国…」
「…何だ?」
「お前は、俺に何でもくれると言ったよな?」
「あぁ。…俺があげれるもんなら何でもやるよ」


やはり、お別れなのだろうか、と思うと声が微かに振るえるのがわかる
逃げたいのだけれど、逃げてはいけなくて
ぎゅっと、手を握って耐える


「何が欲しい?」


じっと、沢松の目を見つめる
夜空を模した瞳は真剣に見つめ返す


「お前」
「え…」
「俺はお前が欲しい」


思いもせぬ要望に
信じられなくて
しかし、嘘をつくような表情ではなくて
ただただ、立ちつくす


「俺はお前しか欲しくない。何が欲しいか、そう聞かれたらそうとしか答えられない。…お前は馬鹿だよ。俺だってお前がいなきゃ生きたいとは思わない。今の俺があるのはお前のおかげで。可哀想?そんな理由じゃねーよ。俺がお前の傍にいたいから、そう思うから。誰でも無い、俺が、俺だけがお前の傍にいたいと思って…。エゴだよ、俺の」
「健ちゃん…」
「でも、俺も馬鹿だ。醜い俺の心がバレルのが怖くて…。でも、お前は優しいから、俺の事を拒絶はしないけど、そんなのは俺が嫌で…。だから自分から一線引いて…。それで、お前を失いそうになるなんてな…。ほんと、馬鹿だ…」


嬉しくて
愛しくて
涙がでそうで


首に腕を回してぎゅっと抱きつく


「今の、その言葉だけで十分だ…。すっげー嬉しい!」
「いい、のか…?」
「当たり前だろ?お前以外にあげたいなんて思わねーよ。それとも、何か、お前はいいのか?」
「駄目だ!」
「だろ?なら、ありがたく貰っておけよ!」


顔を見て、にっこりと、満面の笑みを浮かべて
大好きだっていう顔だから特別サービス
大盤振る舞いしてやる
彼は目を見張って苦笑を一つ
それから唇が降りてくる

今度は真っ先に自分の唇に
お互いを邪魔する感情はなにもない


「誕生日おめでと。贈り物、一生大切にしろよ?」
「了解」


きっとこれからも、自分達はお互いで出来ていく
大切なものを守りたいから
愛され愛したいから













今日、君の誕生日は革命記念日













fin







***あとがき。***
こんにちは。今回は沢松氏の誕生日祝い作品です!甘すぎて途中死にそうになりました(笑)あわー、手が勝手に甘い言葉を〜ι自分の作品で自分は殺せると思います。特に将来に!(爆)久しぶりに激甘だと身体に毒ですねι
沢も天もお互いに、お互いの為だけに今の立ち場とか技術とかを身につけてる気がします。でも、お互いに好きすぎて大切にしすぎてすれ違ってそうですよね(苦笑)
でも、それさえ乗り越えれば無敵のラブラブカップル(死)だろうなぁv屍が累々って感じに(笑)
では、皆様にこの作品が少しでも気に入られたら幸い…

05.2.2 「月華の庭」みなみ朱木




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