誰にでも、なくては生きていけないものはある。
それが俺にはお前だっただけ…。
君は生きる糧。




Mental food







「好き。」



同じ一年で、何度か廊下ですれ違ったことがある彼女は、潤んだ目で俺を見つけて言った。
あぁ、うざい。
俺のことを、本当の俺のことを知りもしないくせに。
でも、まぁ、仕方がない。
本当の俺を知っているのは沢松しかいないのだから。
親でさえ、俺の本性を知りはしない。
なにせ、もうここ数ヶ月と顔を合わせてもいないのだから。
ま、どうでもいいけど。
みんな、いつもバカで、無駄に元気がよくて、でも、憎めない『猿野天国』しか知らない。
作られたニセモノの俺しか…。



「…ゴメン。気持ちは、うん。嬉しいんだけど、俺、好きな人がいるんだ。だから…。」



彼のよく知っている『猿野』で答える。
女の人に優しくて、
女の人に涙に弱くて、
好きな人がいて、
そして一途で…

そんな『猿野』で。



「知ってる…。やっぱりダメか。突然、ゴメンね…。」



少し震えた声で、それでもなんとか笑顔を作って謝ってきた。
健気な彼女…。



「ほんと、ゴメンな…。」



申し訳なさそうに、彼女の涙に少し、狼狽えながら答える。
ほんとは、少しもそんなことは思ってはいなかったけれど。
何か思ったとしても、彼女を哀れに思うぐらいだ。
こんな俺なんかを好きになってしまったことを…。
人を見る目がなかったんだ、って…。


彼女が去っていったのを確認してから、後ろに声をかけた。



「いつまで隠れてるつもりだよ?」

「やっぱり気づいていたか。」



沢松が悪びれた顔もせずに出てきた。



「俺が気づかないわけないだろ。」

「そりゃそうだ。」



実は天国は人の気配に敏感である。
それが、特に知り合いならば誰か、とまで解るのだ。
長年のつきあいである沢松ならばなおさらである。



「にしても、もったいねーな。」

「あぁ?」



沢松のこの発言に、天国は怪訝そうな表情をした。
そんな天国に苦笑いする。



「彼女、可愛いって学校でも評判なんだぜ?付き合っちゃえばよかったじゃねぇか。もったいねぇ。」

「バカか?お遊び相手にむいてるような女ならともかく、あいつはダメだろ。ありゃ、本気ってやつだからな。それに…。」

「『猿野』は一途ってか?」

「まーな。」



天国はその言葉ににやりと笑った。
沢松も同じように楽しそうに笑った。



「お前もそうとうひねくれてるよな。ほんと、野球部のやつらに見せてやりてぇよ。」

「やだね。俺はこの生活を結構気に入ってんだよ。お前さえ知ってれば十分だ。」



にっこりと笑いながら、天国に即答され、沢松は苦笑いをした。
自分だけは特別だ、と言われたようで嬉しくもあったが、天国が自分以外の人を自分の世界から頑なに排除しているようで、悲しくもあった。
でも…



「でも、俺は、もっとお前のことをみんなに知ってもらいてぇよ。そうすれば、お前も、もっと楽に生きれるんじゃねぇかって…。」

「俺は、…俺はお前以外いらない。お前さえいればいい。」

「天国…。」

「誰にも理解してもらおうなんて思ってない。お前さえ俺のことを真に理解してくれればいればいいんだ。お前さえいれば、俺は生きていける…。」

「天国…。そんなこと言うな…。」

「お前は違うのか…?俺が居なくても生きていけるのか??俺は、俺はお前が居なきゃ生きていけないというのに!」



悲痛そうな表情をして天国は叫んだ。
今にも泣きそうで、そんな表情を見ていたくなくて、抱きしめた。
この腕を放したら、今にも何処かへ行ってしまいそうで、怖くて、ぎゅっと力をいれて抱きしめる。
昔、天国を慰めていたように…。



「俺が悪かった…。もう、二度と、あんなこと言わねぇよ。だから、泣くな…。」

「…泣いてなんか、泣いてなんかいないっ!!」

「はいはい。」



背中を優しく叩いてあげる。
母親の胸に抱かれる子供みたいに、天国が落ち着くことを知っていたから…。
思った通り、おとなしくなる。



「俺が、俺がお前の側を離れるわけないだろうが。俺は、お前が望むかぎり、ずっと、ずっと側にいてやるよ…。」

「健ちゃん…。」



天国は普段、人前では決して名前では呼ばない。
それだけに、今のこいつの不安がっていた気持ちがよくわかった。



「世界中の誰もが、お前を理解ってやれなくても、俺だけは、お前の側にいて、理解しれやるよ…。」

「うん…。」



天国は、俺が居なくては生きていけないと言った…。
だが、それは俺のセリフだ。
幼いころから、ずっと側にいて見守ってきた存在。
頭がいいくせに、人間付き合いが下手で、要領が悪くて、泣いてばかりいた、
愛しい存在…。
天国が居なくちゃ生きていけないのは俺も同じなんだ…。

魚が水の中でしか生きられないように、
俺も、お前の側でしか生きられない。

なくてはならない

イキル カテ

お互いに生きるために必要なもの。
空気みたいに自然にいつも側にあるもの。
いつも、意識しなくても、側にある…。



「俺も、お前がいれば十分だよ…。」



今日も俺の隣にはお前がいて、
明日も、明後日も、俺の隣でお前は笑っている。
それだけで十分。
人は、一人でも理解者がいれば生きていける。



「ずっと側にいろよな。」

「あぁ。」



落ち込んでも、側にお前がいると知っているから、俺は笑っていられるんだ。
泣く場所はそこにあるって感じられるから…。
だから、今日も僕たちは笑って生きていられるのだ。






***あとがき。***
…。すみません。ちょっと、こんな暗い?感じに仕上がっちゃったよ(泣)
ほんとは、カッコイイ眼鏡猿な天国と、それを心の面で支える沢松ちゃんの話だったのに…(汗) め、眼鏡のかけらもない!!あううう(;△;)裏でイロイロやってる二人が好きなのにー!!(オイ)
それに、司馬っちもいたのにいつのまにか排除されてるよ(死)元ネタは馬猿+沢だったのに、最近のありみの沢猿への愛でこんなことに(汗)
愛って恐ろしいですね…(笑)
でも、ほんと、この二人はお互いが居るからこそ成り立っていると思うのです。
素敵な関係ですね〜。天国が本当の自分を見せれて、甘えられるのは沢松だけで、そして、それが彼にも嬉しいのです。
だからこそ、こんな世の中でも生きていられる、みたいな。
彼らには幸せになって欲しいですね…。





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