「あれは…」


屑桐無涯の視線の先には猿野天国がいた
不思議と街の雑踏の中、ましてや夕方という込み合うこの時間帯でも、簡単に奴だと分かった
自然と目を奪われるのだ
まるで奴そのものが聖域を作っているかのようで
そこにはいつもの奴など、どこにもいなかった…
無論、自分は常に奴の近くにいるような身ではなかったが、明らかに奴の纏っている雰囲気が違うことくらい分かった


「面白い…」


思わず笑みが毀れたのを感じた
つまらない、くだらない世界が音を立てて壊れていく音がする
足早で前を行く猿野を追いかけ、気づかれる前に奴の腕を掴んだ













Love Tactics














「…おい。待て」
「放しやがれ!」



猿野は凄い勢いで急に掴まれた腕を振り向き様に勢いよく振りほどき、睨んできた
冷たい、見下した瞳
その瞳に屑桐の背筋がゾクゾクとした
そう、この眼だ
例えるならば、凶暴な肉食獣を前にしているような、危険な気分にさせられ、屑桐は心地よい緊張感を感じた


「最高だな…」
「あぁ?何言ってやがる。ん?あんた、確か…」
「屑桐無涯だ。猿野天国」


自分のことを少しでも覚えていてくれたことに喜びを感じた
この男のタイプならば、興味のないことなど少しも覚えていなくても変ではないのだ


「で、その華武のキャプテンさんが何の用です?敵校の一選手に。あ、もしかしてキャプに伝言ですか?」


そう猿野はにっこりと凶暴な雰囲気はそのままで笑った
この男は自分に用があるのだと分かっていて、屑桐をからかっているのだ
嫌いな人間の名前を出して、なんにも分かっていないフリをして


「あんな奴に言う言葉などない…。あるのはお前に、だ」
「へぇ?何です?」
「俺と付き合え」


率直に、簡潔に気持ちを伝えた
こういう奴にはこういうやり方が一番なのだ
遠回りなやり方など、鈍感な振りをして、のらりくらりと交わされるだけだろう
そんな考えを見抜いたのか、猿野は面白いと、そんな風に微かに笑ったように見えた


「何処へ?俺、あんまり金ないっすよ?」


でも、相手は一枚上手で、軽く交わしてくる
あくまでも鈍感な猿野を演じているのだ
このままの態度を一方的に怒ったとしても、周囲が注目する中、脅える様子なんて猿野が見せでもしたら、非難を浴びるのは確実に俺だった
今までにない強敵に出会ったようで、緊張とスリルを感じる


「そこの公園だ…。来い…」


奴を落とせるのだろうか…?
駆け引きという名の試合が始まろうとしていた








近くの公園まで猿野の腕を掴み、誘導していく
先ほどまでの強い拒絶はなく、まるで、『強引な先輩に連れ去られてゆきます』と言っているかのようなうんざりとした表情をしている
しかなく付いて(連れられて)行く感じが上手く出ていて、まったく、この演技力には凄いとしかいいようがない
まぁ、あの癖の強そうな連中を相手に、未だに気づかれずに騙し続けている様なのだから当然だとも言えるが
自分だとて、あの奴の姿を見ない限り気づくことはなかっただろう


「で、俺なんかのドコがいいんだ?俺はあんたに少しも興味はないぜ?」


公園につき、人の目も感じなくなると、途端に猿野は素の表情に変えた
どうやら、惚けるのを止めたらしい
奴の中で、俺の前では演技する価値はなくなったのだろうか
まぁ、自分のことを見抜いているヤツに態々笑顔を向けてやることもない、というのが理由が妥当だろう
『早く目の前から失せろ』と言わんばかりに殺気を含んだ視線を投げかけている


「そんな強い意志。冷たい瞳。どれも、な…」
「そ。それで?悪いけど、俺は男なんかにそんな風に褒められても嬉しくもなんともない。寧ろ不愉快だし」


まるで、猿野は何も起こらなかったような軽い口調で切り替えしてきた
奴にはよくある出来事の一つなのかもしれない
ありえることだ
自分の事に少しも興味など待っていない様子で、どう続けようかとしばし沈黙した








公園には風が樹木を揺らす音と子供の笑い声が微かに聞こえるだけだった
心地よい空間
ふと猿野がどうしているのかと見やると、どこか遠くに目線をやっていた
その表情は悲しいとかせつないとか、嬉しいとか、懐かしいとか、そんな感情が入り混じったような複雑なものだった
何を見ているのかと気になって、その方面を見やると、2人の男の子と女の子が楽しそうにブランコを漕いでいた
そんな子供達の様子に一瞬、顔が緩んだ
まるで、自分の弟や妹を見ているようで微笑ましかったのだ
視線を感じて振り向くと、猿野が俺を物珍しそうに見つめていた


「…なんだ?」
「あんたみたいな人がそんな顔をするってことに驚いただけだ」
「驚きだな…。お前という人間が、見かけで判断するとは…」


その言葉に猿野は目を軽く見張った後、さも可笑しそうに笑った


「確かに、その通りだな。でも、まさか、そんな風に返してくるとはね…。流石、だな」
「一応、褒め言葉として受け取っておこう…」


そんな俺の返事に猿野は再び可笑しそうに笑った
先ほどまでの表情など微塵も感じさせなくなった猿野に屑桐はどこかホッとした
そんな表情をする奴の姿など見たくなかったから


「なんで牛尾先輩が嫌いなんだ…?」


唐突に質問された
初めて自分に興味を持ってもらえたことに喜びを感じる
あまり、嬉しくない質問ではあったが…


「…金持ちは嫌いだ。まぁ、あいつの場合はそれだけじゃないがな…。昔、奴といろいろとな…」
「そう…。でも、俺も、アンタの言う金持ちだけど?」


屑桐の反応を興味深そうに覗き込みながら、猿野は言った
それでもお前は俺の事が好きなのか?と


「お前は違う。のうのうと、生きることの大変さを知らずにぬくぬくと生きてる奴等とは違う」


屑桐はきっぱりと言い切った
そう、思ったのだ
あんな表情をする奴が、そんな風に生きてきたはずない
それに、そんな理由で一度好きになった人を嫌いになんてなれるわけがなかった


「確かに、俺は、あの人とは違う。アンタの言った通りな…」


また、あの表情だった
でも、俺にはどうしていいのか分からず、ただ、奴を見ていることしかできなかった
そんな俺に気づいた猿野は苦笑した


「俺はアンタの方が好きですよ…」
「それは…」
「その、不屈の目がいい。そして、子供に向ける慈愛の目も…。アンタを慕う仲間の気持ちが分かる」


俺を通して猿野は何かを見ているようだった
何を言っていいのが分からない


「それに、俺も、金持ちは嫌いだし?」


それは、今までの沈んだ雰囲気を盛り上げるかのように、明るい声だった
だが、本当は、それこそが猿野にあんな表情をさせたのではないかと思った
けれど、それは聞けない事だと、否、聞いてはいけない事だろう
だから、


「お前も金持ちなんだろ…?」


同じように、何も深い意味は無いように、軽い感じで切り替えした
先ほどの質問の裏返しで
猿野は少し目を見張って、愉快そうに笑った


「やっぱり、流石だ。訂正しますよ。やっぱ、俺はあんたのこと好きかもな」
「疑問系か?」
「えぇ。どうなるかは、屑桐さん次第です」


にっこりと、いつものように演技しながら答える猿野に屑桐は笑った
それでこそ奴らしい


「覚悟しておけよ…」


腕を掴み、引き寄せ、唇を強引に奪う
抵抗しなくなるまで貪った
息が苦しくなり、引き離すと顔をひっぱ叩かれた


「急に何しやがる?!」


真っ赤になって怒る猿野にいつものように不敵な笑みを浮かべた
そんな屑桐の様子に訝しがる猿野の耳元で囁いた


「挑戦状だ。落せるか、落ちないかのな…」
「なっ!」


文句を言おうとした猿野の口を今度は手で塞いだ


「口をまた塞いで欲しいのか…?」


ブンブンと音が聞こえそうなぐらいに首を横に降った猿野に何もそこまで否定しなくても、とおもう反面可笑しかった
素でココまで動揺してるなんて珍しい姿を見ることできたのだから








怒りながら帰っていった猿野の後姿が見えなくなると屑桐は再度、ブランコの方へ目を向けた
既に、子供達の姿はなく、風で微かに寂しそうに揺れていた


「いつか、話してくれるだろうか…?」


珍しいくらい、弱気な自分に驚いた
でも、
まだ駆け引きは始まったばかり


「負ける気はない…」


猿野を手に入れるための策略を練り始めるのだった















***あとがき。***
コンニチワ。…いつもながら反省点が多い小説でごめんなさいι初の屑猿デス!無涯さん、強そうで弱かったりしてます。なんだ、この人はι
あはは…。どうなんでしょ、ヤバイねこの文章!首尾一貫してないよ(死)途中で内容変わってる感じιどうやら、忙しさにかまけて3週間ほど手をつけなかった為に内容が変化してっちゃいましたιアハハハ〜(遠い目)
なんか、闇猿目指してたのにびみょーな闇猿じゃん?な感じですね。あぁ、もう、ダメダメすぎてどうでもよくなってきたよ(オイ)

いつか、リベンジしたいです。ラブラブで(笑)さて、いつになるやら…(遠い目)







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