なによりも感謝したい
この贈り物を…









たった一つの奇跡に感謝を














今日は俺の誕生日で、学校も部活も自主休業決定である
だから、俺の部屋でぼーっとしながら二人で時間を過ごしていた
いつもなら、人ごみの中へ行くのも嫌だし、外は寒いからってことで一日中部屋で過ごしているのだが、どうしても、今回は行きたい所があった
いや、行かなければならないと思っていた


「なぁ、天国、今日は外に出掛けないか…?」
「んー、どこかで食べようって意味か?まぁ、外食は久しぶりだし、いいかもな」
「まぁ、そうしてもいいんだけどな…。でも、行きたい所は別だ」
「別?ふーん。…いいぜ。今日は沢松に一日付き合ってやるよ」
「ありがとな」


どこへ行く、と言わなかったが、不思議そうにしながらも、深く追求せずに付いて来てくれる
一年で一度の特別な日
今日だけ、というわけではないが、いつもより天国は俺に寛容だ
それが、今日はとてもありがたかった

天国は立ち上がり、コートを羽織った
真っ黒のロングコートはまるで天国の為にあつらえたかのように似合っていた
さらに首に巻きつけたマフラーは真っ白で、黒をさらに引き立たせていた
相変わらず、綺麗だなと軽く見惚れた
もう何年も長い事この顔を見ているが、見飽きることはない
美人は3日で飽きるとかいうけれど、アレは嘘だなと思う
まぁ、天国が並みの美人じゃないってのもあるかもしれないが


「早く行こうぜ」
「…あぁ」


早く準備が終わった天国は既に玄関で待ちきれないように待機していた
俺も慌ててコートとマフラーを身に付ける


「手袋は持ったか?」
「持った。お前こそ、持ったのか?」


いつもはそんな事を気にもいない天国の行動に、反対に訝しげに尋ねる


「俺はいいんだよ。お前さえ持ってれば暖かいだろ?」


当たり前のようにそんな嬉しい事をいう
思わず表情が綻んだ


「確かに、十分だったな」
「お前、気づくの遅すぎ!」


ちょっぴり笑いあって、そして外へでた










つい、この間、雪が降ったばかりだが、今日の外の気温は比較的暖かかった
もう、春が近づいているのだろうか?
一歩一歩、歩むに連れて、心が僅かに悲しみに揺れる…


「で、どこへ行くんだ?」
「え、あぁ、まずは、そこの花屋に…」
「花?…ふーん。てか、沢松、大丈夫か、朝から変だぜ?」


心配そうに俺の顔を覗き込む天国に苦笑いした
いや、それよりも、思いっきり今の自分の状態がバレバレだってことが気まずかった


「…そんなに変か?」
「まぁ、俺以外にはわからねーぐらいかもしれないけど、ぐらいのレベルかな?でも、変!…どうしたんだ?せっかくの誕生日にさ」
「…誕生日だから、かもな」
「…?」
「もう少ししたら分かる」


花屋の店先に並んだ花を見ながら、店内に入る
色とりどりの花が鮮やかで、良い香りがして、思わず目を細めた


「どういったお花をお探しでしょうか?」


店員さんに声をかけられてハッとする
どうも、今日は調子が悪い


「えっと、あそこのピンクのガーベラを50本包んでください」
「はい」


ピンク色が好きだった人だったし、白い花とか、陰気臭い花よりも、この花が似合うと思った
受け取った花は、どこか、心に小さな勇気をくれたような気がした…


「あそこへ行くのか…?」
「…多分、正解だ」
「そっか…」


俺が天国の事をよく理解しているのと同時に天国も俺の事を誰よりも理解しているから、簡単に俺の心の内を見抜かれてしまう
天国の表情は心配そうなもので
そんな心配をさせたのが心苦しかった


「お礼を言いたかったんだ…」
「うん。俺も」


優しく微笑む
安心したかのように、頬を緩ませた










閑静な住宅外を抜けると、そこは霊園だった
迷いのない足取りで、多く立つ墓地の一つに近寄った
墓碑には母親の名前が刻まれていた
そっと、その墓前に花束を添えた
無機質で冷たい石もその花で少し華やいで見えた

記憶に残る、彼女は優しい人だった
天国にも、俺と変わりなく、惜しみない愛情を注いでくれて
大好きな人だった
俺も、天国も…
それだけに、その突然の死は悲しいもので
俺も、天国も、なかなか受け入れることが出来なくって、辛くって、一年に一度の命日にしか足を運べなかった
それでも、今日、ここに足を運べたのは天国の存在が大きい…


「おばさん、ありがとう…。健ちゃんを生んでくれて」


先に、天国はしゃがんで手を合わせている
その行動が、言葉が、素直に嬉しかった

天国が出会えたから
今の自分がいて
些細なことでも幸せを感じる事ができて
つまりは、俺が生まれるという、そのたった一つの奇跡が起きなければ、俺は天国に出会えなかった
その事を考えると、ぞっとする
だから、俺が天国に出会えた事は、何億分の1という奇跡の結果で

そっと手を合わせて、この気持ち、言葉を祈りに乗せる


「…母さん。俺、誕生日は、生まれたことに感謝する日だと思ったんだ…。だから…。ありがとう、生んでくれて」


この気持ちを貴方に伝えたかった…

天国の手をそっと握る
握り返してくれた
その温もりが暖かくて、心地よかった


「生まれて来てくれて、俺の隣にずっといてくれてありがとな」
「あぁ」
「これからも、ずっと、一緒にいような」
「あぁ、お前が嫌だっていてもいてやるよ」
「む、そんな日は一生来ねーし!」
「キタイシテマス」
「わー、片言?俺、そんなに信用ないんだ?…縁切ろうかな…」
「ごめんなさいっ!嘘つきました!!だから機嫌直せって!な?」

必死に謝る俺に、天国はくすっと笑った


「誕生日おめでと、健ちゃん」


耳元で囁く天国の言葉に、微笑み返す


「ありがとう」


今度は言葉を、この気持ちを唇に乗せ、天国に届けた












この奇跡
たった1つのこの奇跡が
何よりも素敵な幸せを届けてくれた

アリガトウ

貴方の
一生で一度の
この奇跡という贈り物に
最高の感謝を…















****あとがき。****
今日和。今回は沢松氏、誕生日祝い話でございます!
本来ならば、いちゃいちゃ(死語)を書くべきなんでしょーが、去年、満足するぐらいそれを書いたので、今回はしっとりと。…しっとり?とです
こう、二人でしみじみーと沢の誕生日を祝えてる感じを、皆様に感じていただけたのなら嬉しいですv
ハンサム様、お誕生日おめでとーv天国と(ここが一番重要)幸せになってくださいvというか、天国を幸せに!!(笑)

では、少しでも皆様に気に入っていただけたら幸い…

04.01.30 みなみ朱木「月華の庭」




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