ここまでくれば諦めすら通り越すというものだ











如今















「振られた事?そりゃあるぜ」


それも結構な数、な。と苦笑しながらふぅと天国は肩を落とした
どことなく憂いを帯びた表情は儚げで美しく、思わず見惚れてしまいそうになる
しかし、それはどこかワザとらしいように彼等、十二支のレギュラー陣の目には見えた
それでも演技だろうその様子に、うっとりと見惚れている辺り、救いがないのだが
なぜ、彼等にはそのような事が見抜けるのか?
それは本来の彼の姿を知ったからだ
また、今迄「あんな奴」とか言っていた人間の態度が180度ころりと変化してるのを何度も見ているからに過ぎない
自分を効果的に演出してみせ、有益に動いてるところの実演を
…男心をなんだと!と言ってやりたいところではあるが、しかし、自分もその一旦を担っていた感があるために酷いことが言えな立場だったりする
正体が分かっていても尚現在進行形で、だ

ともかく、それほどまでに、本来の彼と偽りの彼のギャップは激しかったりするのだ


「でもさ、兄ちゃん。それって最近の、しかも、騙してた辺りじゃないの?」


それだったらカウントにはいらないと思うんだけどさ?と言わんばかりに兎丸は訝しげに天国を見つめる
周りの人間も同じような気持ちなのだろう、うんうんと言わんばかりに盛んに首を縦に振って同意を示していた


「騙してたとは人聞きが悪ぃ。ちょっと自分を悪く見せてただけだろ?よくある若者の反抗期ってやつだ。…まぁ、それはともかく、昔からだぜ?振るより自然消滅。自然消滅より振られる、っていう選択の方が多いな」


ま、それ以前に付き会う事事態少ないけどな。一夜限り、ってのならいざ知らず…
という後でぼそりと聞こえた言葉には皆、聞かなかったふりをする
何事も知らない方が良いというものが世の中にはあるのだ


「本当かYO?!」
「別に嘘なんて言わないっすよ、こんな事で。なんの益にもならないし。…なぁ?」


誰かに同意を求めるかのよう急に天国が後ろを振り向くので、同じように一同が彼のその後ろへと視線をやれば、丁度入り口から天国の鬼ダチである沢松が部室に入ってくるところだった
相変わらず、タイミングの良すぎる登場だ


「あぁ?何の話だ」
「俺は実はよく振られてるっていう…セツナイハナシ?」
「嘘つけ。その事について何とも思わねぇ癖によ。大体片言の上、疑問系になってるぜ?…まぁ、振られてるっていうのは真実だけどな」
「…なんだよ、お前も多い癖に」
「ふん。お互い様だろうが」


マジ!?
どうやら嘘ではないらしい事に一同驚きを隠せない
しかも、沢松までとは驚きだ
彼も天国と並んでクールで知的な感じがカッコイイと評判の男だった
つまり、非情にモテている事は周囲の事実なのだ
それが、振られるという意味がよくわからない


「でも、モテるのになんでそんなに振られるんですかね?」
「あー、なんかわかんねぇけど、みんな、私には無理です、とか言って自ら身を引いてくんだよ」
「そ。前触れもなく急に、無理ですって、意味わけんねーよな」
「え、追いかけないんですか?そういうのって、追いかけて欲しいとかって女の人ならあるんじゃ…」
「なんで?別に別れたいのなら別れてやるべきだろ?そもそも向こうが望んでるから付きあってんだし」


…つまりは一度も自分から告白して付きあった事がないってわけですか?
来る者こばまず、去るもの追わず、という言葉が全員の脳裏を過ぎる
所謂、典型的なプレーボーイってやつですか、アナタは…
根が純粋で真面目で優しいといった、いい人子津は頭が痛いと言わんばかりに額を押さえて軽く唸った
しかし、そんな仲間の様子を気にもせず、兎丸だけは興味がわいたようで無邪気に天国への質問を続けた


「えぇ!パチンって張り手かまして貴方なんて最低よっ!とか言って去られるんじゃないの?兄ちゃん達ならそういう感じだと思ってたぁ」
「…スパガキ、お前、ドラマの見すぎだ。つか、いい根性してるな、お前。俺等をどう思ってたかよく分かったよ。とっても、な…」


にっこりと兎丸に笑いかけるその笑顔は壮絶に美しくも禍々しいもので
一瞬にして「さよならボクの輝かしい未来…!」という気分にさせられる
その笑顔を向けられた兎丸だけでなく、周囲のメンバー全員、自らの身体の血が一斉に引く音を聞いた


「天国、あまりからかうな。…そういう女性とは俺等は付きあったりしねーんだよ。いろいろ後々に面倒なこと起きるしな」


そうそう、と頷く天国の姿に、お前等どれだけ選り好みしてんだ!という怒りが込み上げるが、如何せん、目の前の男に惚れ込んでいる彼等にそれを言う度胸はなかった
…幸いな事に、だ


「…猿野君や沢松君は自分から告白したり、どうしても別れたくないと思った人はいないのかい?」
「「いないな」」


即答されるその答えに流石の牛尾も苦笑いする
それを悟ったのだろう、天国と沢松も同じように笑い返した


「なかなかね、好みの子がいないんですよね」
「だよな。沢松といる方が俺は数倍楽だし、楽しい」
「俺もだ。それなのに、お前と私、どっちが大事なの?!とか血迷った事とか聞いてきやがるし」
「なぁ?決まりきった事聞くなっていう話だよな」


…なんだろう、そのどこぞのバカップルの彼女が「私と仕事どっちが大事なの!?」みたいな言葉は
しかも、その答えは彼女達の望んだものとは反対のお前じゃない、という答えに違いないだろう
いや、絶対にそうだ、この話し展開は
どう聞いても惚気のようにしか聞こえないが、本人達は素で、本当にそう思ってる所が痛い
というか、羨ましいぞこんちくしょう!という気分に一同はさせられた


「…兄ちゃん達の好みってどういうのさ?」


…なんだか聞くのが怖いなぁとは思いつつ、それはどうしても聞いておきたい事だった
周りもそうなのだろう、興味津々な表情でこちらを向いている


「俺の?…うーん、見た目は黒髪黒目で、可愛いより綺麗で、俺とも話しが合うような知的な美人、かな?」
「俺は…茶髪でショート、瞳は茶色というより琥珀色がいいな。後はお前と一緒、だな…」


帰ってきた答えはやはり予想通りというか、そのままで
つまりは…


「…つまりは、お互いがお互いの好みってわけ、兄ちゃん達ってば…」


なんだか予想通りな、お決まりな展開に精神的にドッと疲れて、呆れたように言えば、「あぁ、そうかもな!」と初めて気づいたかのようにうんうんと頷きあっている
今頃気づくな!と周りが心の中でつっこんでしまったのも無理はないだろう
正し、口に出せないのが彼等がヘタれだという事を如実に表していた


「どっちかが女だったらよかったのにな。面倒な事もないし。お前なら文句の付けどころないしさ」
「まったくだよな。天国が女だったら、有無を言わさず即効手を出して、既成事実つくって、結婚までこぎつけるんだけどな。で、他の奴なんかに見せずに大切にするし」
「有無を言わさずって、おい。そりゃ犯罪だぞ」
「じゃあ、あの手この手で懐柔して落とす。ま、周りに集ってくる害虫を徹底的に駆除して、反対にお前には徹底的に優しくすれば大丈夫だ」
「…凄い自信だな。まぁ、俺もお前の立場だったら同じ事するけどな」
「だろ?」


いや、だから…つっこむところはそこじゃないし…
という言葉が喉まで出かかるが、必死に止める
本人達はそんな周囲の気持ちなど思いもしないのだろう、にこやかにお互いが女だったらどうするか、という議題で大いに盛り上がっていて本気で惜しそうな感じだ
さらには一歩進んで、「沢松が女の方がいいな、うん」「いや、お前だろう!」「いやいや、お前の方が似合うって、女装!俺が保障してやる!」「あぁ?何寝ぼけた事を。お前の女装姿に惚れない奴はいねぇじゃなぇかよ」「お前だって俺好みの大層な美人に仕上がってた癖によく言う!!」といった熱い論争(?)にまで発展している
…嫌がる気配が微塵も感じられない
なぜか?
そんな問いは無用な程簡単な答え
それは、もう、一つしかない

お互いが恋人同士だ恋愛対象だと認識してないだけなのだ、彼等は

認識してないだけで、素で、いちゃついてるのである
云わば、無自覚なラブラブバカップルだ
被害が甚大になるであろうそれは、もはや公害レベルでしかない

普段なら嫉妬ならするかもしれないが、殺してやりてぇ!とさえ思う付きあってもらえる彼女達、特に彼等を振ったという女の子に同情さえ覚える
女の子の立場なんてなかったのだろう
なんでもできて、見目もよく、お互いに理解しあってる幼馴染の存在
入れない領域が多く存在して
しかも、明らかに自分よりも立場が優先されているのだ、その幼馴染は
そんな光景をまざまざと無意識な彼等に見せ付けられれば、挫折感しか味わう事しかなくて
いっそ振られるより振ってやる!といった感じに、自分から辞去するしか耐えられなかったのだろう

…本当に同情してしまう






「兄ちゃん達…」


子供のような外見に似合う、子供特有の高い声の持ち主である兎丸にしては驚くような低い声で論争を続ける二人に呼びかけた
いや、論争じゃない
あれだ、あれ
痴話喧嘩だ


「だから…!…ん?なんだ、スパガキ。そんな怖い顔して。ん?みんなもなんでそんな怖い顔してんだ??」


ようやく自分達の存在を思い出したような二人は不思議そうな表情をしていて
それが一層、憎らしい
一同が今迄耐えていた何かがプツンと音を立てて崩壊した
天国が好きだからこそ、耐えられない









「「「今更気づくな!!いちゃつくならどっか行け!!!!!!!!!!」」」


温厚な性格の奴等までも含め全員が顔を真っ赤に握りこぶしで怒りのままに叫ぶ姿
そんな様子にあっけに取られた二人は、その勢いに押されるように「…あぁ、うん…」と承諾して意味も分からず部室を後にしたのだった













fin







***あとがき。***
こんにちは。今回は総受けで沢猿でハン猿です!今回はいつものしっとりほのぼのした感じを全て払拭し、自分なりの精一杯の笑いに走ってみました!初の試み?はドキドキです。
よって、いつものような設定ではなく、まったくの独立した感じのお話。なんか新鮮尽くし!!いつもは親友以上恋人未満?な存在だと互いに認識しあっている二人を書くのが大好きなのですが、今回はまったくといって親友だと思っているのに、お前等出来てるつーの!という感じ(笑)
頭いいのに天然ってのもいいなぁ。あてられる周囲といった設定とかも好きだし。とりあえず楽しかったです!いいなぁ、偶にこういうの書くのも。王道な感じでさ。
ちなみに、皆さんはどっちが女性がいいのでしょうか?私はもちろん、猿受けなので天国さんが女性ですな。で、沢松さんには是非とも縛り付けてもらって…!!(逝)

では、皆様にこの作品が少しでも気に入られたら幸い…

05.12.3 「月華の庭」みなみ朱木





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