君に花を捧げよう
想うだけの素晴らしい花を
それは儚いけれど
世界で一番の大輪の…












花を捧げよう















「お祭、り…?」


檜は不思議そうに首を傾げた


「嫌か?」


その反応に天国は困ったなといった感じに尋ねた
檜は慌てて否定の合図を送る
普段、人込みを極端に嫌う天国が、これぞまさに!というような場所へ、行かないかと誘うのか分からなかっただけで、寧ろ、行きたいと思っていた場所だった
しかし、彼が嫌がる場所にあえて我侭を言ってまで行きたくはなかったから、そんな事を天国は知らないけれど
だから、


「嬉しい、かも…」
「そうか?よかった。なら、今日の夕方、早めに俺の家に来てくれないか?」
「・・・?」
「それは来てのお楽しみ♪」


楽しそうに笑う天国に、檜は頭の中に?マークが浮かんだまま、再度、こくりと頷いたのだった












チャイムを一押しし、返事が聞こえてから天国の家のドアを潜る
行きなれた場所ではあるが、どうも毎回緊張してしまうのは、このマンションの敷居が高いからだろうか?


「天国…?」


いつもなら、リビングのソファーにごろんと寛いでいる彼の姿がソコにはない
そして、当然一緒にいるだろうと思っていたはずの沢松君の姿もなかった

不思議に思いながらも、彼の部屋だろうかと足を進める


「檜?俺の部屋じゃない。ココ、ココ」


突然、通り過ぎた部屋の一つから声が聞こえた
リビング横に設置されたその部屋は、この豪華な佇まいの雰囲気には微妙にミスマッチではあったが、
あることに意義があり、素晴らしいのかもしれない
その部屋とは、確か…


「…和室、かも?」


そっと、襖を開ける


「いらっしゃい、檜ちゃん」
「檜が想ったより早く来てくれて助かったぜ」


そこには、沢松君と天国の姿。しかも、何故か、二人とも浴衣姿だ
天国は紺色にデザイン化された龍の絵柄がかっこよくあしらったものを、沢松君は濃緑色に笹の絵柄をあしらったものを、気慣れたように、さらりと着こなしている
之がその辺りを歩いている女性なら、彼らが二人並んで微笑んだだけで卒倒ものであるが、残念だがら檜は違った
何分、この二人のかっこよさには慣れてしまった
もちろん、かっこいいとは思っているが、冷静に現在の状況を判断するだけの余裕はあった


「もしかして…?」
「多分正解」
「だな」


天国の言葉に続いて沢松が可笑しそうに笑いながら続く


「で、檜はコレな」


手渡されたのはピンク地に紅色の綺麗な花をあしらった浴衣
桜、だろうか?
そのとても可愛らしいその浴衣に檜はちょっぴり、はにかむように笑った
これまた、何処から入手してきたのか気になるところであるが…


「確か、檜は自分で着られたよな?」


こくっと頷くと出るぞ、と天国が沢松君を引っ張る


「おい、なんでお前がそんな事まで知ってるんだ?まさか・・・」
「ん?だって、文化祭で着てただろうが」
「あ…、そっか。確か、和風喫茶だったな、檜ちゃんのクラス」
「そう、かも…」


その答えにようやく納得が言ったと頷く沢松君に天国は不満気に見つめる
まさか、という辺りが気に入らなかったのだろう。恐らく


「じゃ、沢松君、行こうか」
「いたっ!おい、耳を引っ張るな!」
「…何か聞こえたかな?気のせいだな」
「鬼!人でなし!!」


笑顔で天国が仕返しをし、沢松君が悲鳴をあげている
仲が相変わらずいい
じゃれ合いながら出て行く彼らを羨ましげに檜は見つけた
しかし、この言葉を沢松が聞いたら、違う!と言い張っただろう
…残念な事に、彼がそれに気付く事は無かったが







着慣れない浴衣に、少し奮闘するも、なんとか着替え終えた
まるで、自分の為にあつらえた物のようで、丈はピッタリだ
くるりと一回転して、鏡に映る自分を確認する
なんだか、とても心が軽やかになった感じで
くすぐったいものを感じる


「着替え…終わった…かも」


恐る恐る、襖を開けて顔を覗かせる


「お!よく似合ってるよ、檜」
「本当にな。檜ちゃんはどっちかというと洋装のイメージの方が強いけど、和装も似合ってるよ」
「あ、ありがとう…かも…」


二人に手放しで褒められて顔が赤く火照る
その様子に天国と沢松は楽しそうに口の両端を上にあげた


「あ、天国。忘れ物」
「そうだった。さすが健吾☆」
「こういう時だけは褒めるんだな、お前」
「そうだったか?」
「そうだよ」
「まぁ、それはいいとしておいて」
「おい!」
「え…?」


沢松君との苦情を何食わぬ顔で交わした天国に檜は抱えていた猫神さまをひょいっと抜きとられた
その行動の意味が分からなくて困惑するが、その後にやりだした事を見て納得する


「可愛い…かも…」
「だろ?」


天国は何をしたのか
桃色のちりめんの飾り
それを猫神さまの首に結んだのだった
よし、頷くと檜の腕に猫神さまを戻し、上から下までじっくりと観察するように見た


「よーし。完璧だな。可愛い可愛い」


満足げに再度頷いた


「じゃ、行きますか」


こくっと頷き返す


「いってらっしゃい」
「…え?」


玄関で沢松君がにこやかに手を降る
一緒に行くのではなかったのか?


「おう。お土産は?」
「ひよこさえ買ってこなきゃなんでもいい」
「…了解」
「生き物は却下だからな」
「ちっ!」
「…天国。今、俺が言わなかったら買ってくるところだったろ?」
「気のせい、気のせい」
「あーまーくーにー」
「冗談だって。そんなに怒ると血圧が上がるぞ?」


ふぅと溜息を一つ
無言で再度手を降って天国を追いやった
付いていかないという行動で
浴衣に着替えているのに出掛けないとはどういう事であろうか?
檜もどうしてか理由が分からないまま、予め容易してあった下駄を履く
天国は先にドアの外
理由を聞こうと振り返る
すると、その行動が分かっていたかのように沢松は微笑んだ


「檜ちゃん」
「…?」
「楽しんできな。天国がここまでしてくれるなんて滅多にないぜ?」
「沢松君は」
「俺からの贈り物」
「え…?」
「檜ちゃんの誕生日の日に祝えなかっただろ?だから、今日のこの日の時間が俺からの贈り物。天国と二人で楽しんできな?」
「…もしかして?」
「そう。でなきゃ、あの天国が、あんな人込みに行きたがらねーよ。天国には内緒にしろって言われたけどな。どうせ、後でばれるだろうし、いいだろう?」
「ありがとう…かも…」
「かも?」
「ありが、とう」


お互いに、顔を見合わせて笑う
なんて、素敵なプレゼントだろう


「檜ー?」
「今、行く、かも…!」


慌てて、ドアに手を掛ける
通り抜ける瞬間、再度振り返る


「いってきます」
「おめでとう」
「うん」


とても素敵なプレゼントをありがとう











カラン コロン
下駄の鳴り響く音を楽しみながら二人そろって歩く
浴衣の今日はいつもよりもゆっくりとした速度
右手には天国
左手には猫神さま
大切なモノに囲まれている
なんて素敵な時間なのだろうか
…ここに沢松君がいないのは少し寂しかったが、天国とぎゅっと繋いだ手が喜びで檜を満たした
伝わる温もりに思わず微笑む


満天の夜空には星々が競うように美しく輝いていて、
陽気な祭囃子の音と賑やかな人の声が聞こえる
周りは誰もが笑顔で
檜はこういうのは嫌いではなかった
好きな人と一度ぐらいは一緒に行ってみたい、そう思っていたぐらいで
だから、今日、彼の隣でこうしているのが嬉しくて


「檜、何か欲しいものあるはあるか?」


こうして、一緒に歩いているだけで幸せで、欲しいものなんて何もなかった
しかし、ちらりと視界に入ったある物に目を留めた
水風船
色とりどりのまぁるいその形は懐かしい物で
昔、親によく「取って」と強請ったものだった
その視線に気付いたのか、天国は檜の頭をぽんっと軽く叩いた


「何色がいい?」
「え…」
「取ってやるよ。欲しいんだろ?」
「…ありがとう、かも…」


あの水色、と指定すると、任せろと言わんばかりに袖を捲くる
すごい気合の入れようだ
滅多に見れない無邪気さを微笑ましく見る
近くにいたおじさんが、かっこよくて優しい彼氏でいいね、と笑う
…違うけれど
でも、そう周りから捉えられたという事がなんだか嬉しかった
顔を少し真っ赤にしながら微笑む


「檜!…ん?どうした。疲れたのか??」
「う、ううん。凄い人込みだなぁ、って思ってただけ、かも…」


慌てて誤魔化すと、天国はそうか、と頷いて、それ以上は触れなかった
よかった、とホッとする
だって、この気持ちは、…知られているかもしれないけれど、秘密のままでよかったから
内に秘めたままでよかった
臆病だと言われてもいい
もう少し、もう少しだけでも、彼の傍にこうやって居たかったから
彼の傍にこうして存在できるだけでも奇跡に近い事
きっと、私が告白しても、彼はごめん、と言うだろう
辛そうに
これ以上、望むのは贅沢だと思った
それに、悩ませたたくも、悲しませたくもない
でも、それでも、心のどこかでそれを望んでしまったり、このような事で喜んでしまう自分が悲しい


「はい。コレでいいんだろ?」
「…ありがとう!」


手渡された水色の水風船
ひやりと冷たい水の感触を感じる
輪に指を入れ、落下させると上下にちゃぷんと音を立てながら小刻みにそれは揺れた
最後に遊んでから数年立ち、大人になった今でも、楽しい気分にさせる
次はどうするのかと、天国を見やると、


「…、そんなに取ったの…かも?」
「取れたから」


天国の手には六、七個ぐらいの水風船がまるく玉のようになって窮屈そうに揺れていた
まぁ、きっと彼の事だから、簡単に取ってしまうだろう…とか思っていたが、まさかそこまで大量に取るとは思ってもいなかった
大体、こういうものは切れやすく出来てるはずで
2、3辺りなら納得もするのだが、ここまでとは天国を知る檜でも驚きだった
そっと、その露店を見やるとおじさんが苦笑していた


「…ちょっと、取りすぎたかな?」
「…かも」
「うーん、返してくるか。こんなに有っても邪魔だしな」


それがいいかも、と返すと、天国はさっそく返しにいった
が、帰ってきた天国の手にはまだ二つの水風船が並んでいた
一つは彼のだろうと推測できるが、二つという事実に戸惑うと、どうやら沢松君へのお土産らしい
その行動が彼らしくて思わず笑った
いつもなら、なぜ笑うのか、と問い詰める彼だったが、何故か今回はどこか嬉しそうに微かに微笑み返していた
その微笑はなんだか心を暖かくさせるもので、胸の鼓動がどきっと高鳴ったのが分かった








「次はどうするの…かも…?」
「もうちょっとすれば分かるぜ」
「もうちょっと…?」


人込みの中、どこかへ向かおうとする天国にはぐれないように必死に付いていく
浴衣が肌蹴ないようにするのはなかなか至難の技である
川沿いのその場所は、腰を下ろす人々で賑わっていた
そこで、同じように休憩するのかと思っていたら、何故かそこを抜けて、天国は人気のないあるビルへと向かった
この辺りでは一番の高さを誇る高層ビルだ
そこは、お祭りの為もあってか、既に電気は消えていて、厳重に戸締りがなされていた
何の為にここに来たのだろうと考えていると、天国は入り口横に有る暗証番号だろうか、数字をいくつか押すと、何事もなかったかのように入っていった
涼しげな顔で進んでいく天国に不安を覚える


「天国…?ここって、入っちゃいけないんじゃ…」
「大丈夫、大丈夫。俺の家の会社だから」
「あ…」


今更ながらに隣にいる人の立場に気付く
天国は有数の富豪の家の出身だったのだ
余りにも自然に、傍らにいることが出来たから忘れてしまっていた
しかし、天国はその方が嬉しいから、忘れていいと笑ったが、悲しいほどに重い思いを背負う彼のその言葉は、どこか悲しげに聞こえた
だから、こくっと頷いて、笑った
少しでも、彼を楽しい気持ちにさせてあげたかったから

エレベーターを動かして屋上に向かう
電力は大丈夫なのか?と聞くと、この時間には行くから動かすようにと事前に伝えておいたそうだ
手抜かりはないらしい
屋上手前の階について屋上へとつながる階段を登り、扉をあける
不快な暖かい空気が夏の訪れを感じさた
しかし、微かに吹く微風がその不快な気分を一緒に吹き飛ばしていく
二人でぺたりと地面に座りながら満点の星を見上げながら一休みした


「…檜。…あのな…。悪かったな」
「・・・?」


悪そうに話す天国の言葉の内容が掴めず、檜は困ったように首を傾げた
何か、都合の悪い事をされただろうか?と考えるが、思い当たる節がない
どういう意味なのだろうかと見つめると、天国は言いにくそうに答えた


「その、…檜のさ、誕生日、一緒に祝えなかっただろう?悪かったな」
「電話もらっただけで嬉しかったかも。それに、平日だったから、仕方ないかも…」
「でもさ、俺は祝いたかったんだよ。檜の誕生日」
「…ありがとう、かも」
「…俺はさ、自分の誕生日は好きじゃないんだけどさ、健吾とか、檜のは好きなんだ。生まれてきてくれてありがとう、って心から思えるから。だからさ、一緒に祝いたかったんだ」
「天国…。…でも、私は、天国の、誕生日は待ち遠しいかも。出会えたのは、生まれてきてくれたおかげだから」


その言葉に天国はちょっと驚いたように軽く目を見開いてから苦笑した


「檜も、あいつと同じ事いうんだな」
「私も、沢松君も、天国が大切だから…」
「…あぁ。俺も二人の事が大切だ。生きていてよかったかもしれない、そう思えるよ、今は」


ゆっくりと自分の言葉を噛締めるかのように呟きながら最後にちょっと微笑んだその笑顔はいつもは綺麗だと思う天国が可愛いように見えた








「そろそろ、時間だな…」
「え…?」


何の事だろうと天国を見やると、楽しそうに笑う


「俺から、檜への贈り物」
「え、浴衣…?」
「それは、おまけ。…檜、おめでとう!」


天国が柵に背を向けて夜空へと腕を挙げる
同時に、最後の言葉を打ち消すかのような音が響き渡った
そこには

大輪の花が 咲く

色とりどりの大輪の花が、刹那に我こそ最も咲き誇ると言わんばかりに夜空を彩る
川原で見るよりも、人が周りにいないし、空に近いその場所はどこよりも花火が美しく見えた


「すごい…かも…」
「気にいってくれたか?」


その言葉を返す暇なく、檜は次々に打ち上げられるその大輪の花々に目を奪われた
天国はそんな檜を嬉しそうに眺めていた









興奮が冷め遣らないまま、檜と天国は家路に向かった
手には水風船だけでなく、金魚や綿飴、射的の景品で貰った大きな猿のヌイグルミまで増えている
もちろん、これは大きいので天国が横に抱えているが
人込みを再度抜け出た後の夜道は風が一層心地よかった


「…もしかして、今日のお祭りは、あの花火の為かも…?」
「いや、最初はどうしようかと悩んでたんだけどな。いい案が思いつかなくって」
「じゃぁ…?」
「…ちょっと情けないからあまり言いたくはないんだけどな、檜が偶にはこういう場所に行きたいんじゃないかって、沢松に言われて初めて気付いた。あまり、俺等は混む様な所は行かないだろ?檜は優しいから、聞いても俺等が嫌がるような所は行きたがらないし。だから、この機会に行こうかと思ったんだ。檜、こういうの好きそうだしな」
「あのね、いつも、みんなと過ごすゆっくりとした時間が、私も好き、かも…。だから、不満はないの。…でも、嬉しかった。一度、一緒に行きたかったから。ありがとう…かも」


喜んでもらえたようでよかった、そう笑って


「檜は、俺等にとって花なんだ。大輪の綺麗な花。閉じこもった俺に、こんな綺麗なものも外にはあるんだって教えてくれた人だから。だから、花火にしたんだ。世界中で一番大きく美しい花だろ?」
「そんな、大したものじゃない、かも…」
「俺にとってはそうだったんだよ。もう一回言うぜ?…生まれてきてくれて、ありがとう」
「…ありがとう」


言葉を返す
思いを込めて
貴方に出会えてよかった
生まれて来てよかった
この運命に心から感謝する


「次は、3人で出掛けたいかも…」
「あぁ」


どこへ行きたいかいくつも挙げながら歩く
もう直ぐ、二人っきりの時間は終わってしまうけれど、とても楽しいものだったけれど、不思議と寂しくなかった
きっと、貴方が幸せそうに笑っているから
そっと見上げた空は星が燦々と輝いて、あの花ように美しかった









形に残らぬ花
刹那の幻ゆえに美しい
でも
確かに私の中に鮮やかに息づくの…











****あとがき。****
今日和。今回は檜ちゃん、誕生日お祝い話でございます!しかも、栄えある2回目の誕生日を当サイトで迎えましたーvパンパカパーン☆
…あ、ちなみに、これ、オン小説最長記録になりました。あははーι
沢猿猫シリーズで、いつもより猫猿っちっくです。わーvv手繋ぎ万歳vvvてか、思ったよりも沢が出張って困りましたιてか、いっそ、一緒に書いてやれ!ぐらいだよι
にしても、着せ替えネタ第2段(第1段は"祈りを君へ")だし。しかも、沢猿猫で、また和服。…好きだなぁ、私(笑)いや、やっぱ夏は浴衣でしょvてか私が見たいだけだが(オイ)
檜ちゃん、本当にお誕生日おめでとーv遅れてごめんなさいー(泣)でも、いつも愛でてますから、君のこと!(爆)いつまでも天国愛でいてくれー(妄想)
では、少しでも皆様に気に入っていただけたら幸い…
04.07.04 みなみ朱木「月華の庭」



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