doting to her 「よく来たな。」 「…おじゃまします。」 今日は期末テスト間近で、部活もない日曜である。 檜は天国家の、一般家庭と比べると、かなり広い方に分類されると思われるリビングの真ん中に置かれた机に座っていた。 もちろん、何をしに来たかというと、試験前なので勉強を教えてもらうためである。 誰がかと言うと、檜が、である。 檜も頭は悪くはないが、天国ほどよいわけではないが、実は天国は見掛けによらず、と言っては失礼だが、頭がよかったりする。 実際に、この前の中間テストでは前科目満点で一位という快挙をなしとげている。 昔の人が、『脳ある鷹は爪を隠す』ということわざを残したが、まったくだ。 普段の天国からはそんな頭脳の持ち主だという想像がまったく、と言っていいほどつかないのだから。 本人曰く、「初めてのテストだから易しかった」だそうだが…。 けれど、実際は難しいテストだったし、彼の頭脳は高校生レベルを遥かに超えているものだということを檜は知っていた。 そして普段、ワザとそれを表に出さないでいることも。 つまりは、皆、天国の演技に騙されているということになる。 ともかく、そういう訳で天国に、一番苦手である数学を教えてもらいに来たのだ。 「飲み物は…、檜は紅茶だったよな?」 その言葉に檜は頷いた。 実は、周りは知らないがかなり二人は仲がよかったりする。 お互い、どこか似ている何かを感じて、なんとなく話したりしているうちに、たまの休日に遊ぶような仲になったのだ。 だから、お互いの大体の好みは知っているのだ。 そう見えないかもしれないが、二人は他人に真に心を開かず、心閉ざしていたりする。 心の底では他人を信用できないのだ。 でも、彼の隣にいるのは安心できて、心地好くって、天国になら心から信用しても大丈夫だと思えるのだ。 それは、多分、天国も同じで…。 「で、檜はどこがわからないんだ?」 天国は二つの飲み物を机の上に置いて、檜の向かいに座った。 檜はそんな天国を見上げると、彼は勉強に集中したい時にしかかけないという、シルバーフレームの眼鏡をかけていた。 眼鏡がいつものような陽気なイメージを書き消していて、精悍、というイメージがして、とてもよく似合っている。 (…かっこいい…かも…。) 何度もこの姿を見ているのだが、どうしても見惚れてしまう。 「おい。聞いてんのか?」 何も反応がないので天国が不思議そうに顔を覗いてきた。 「…なんでもないの…かも…。」 なんでもないかのように表情には出さずに答える。 天国は、そうかと返しただけで、深くは追及せずに、檜の持ってきた手元の問題集に目を落とした。 こういう時の天国はあっさりとしていて決してしつこく聞いてこないので助かる。 天国に追求されて隠し切るのは不可能だ。 檜も同じように問題集に目を落とし、自分には手におえなかった問題を指差した。 「ここ…わからない…かも。」 「あぁ、ここか。」 納得したような表情をすると、どう説明しようかと頭を捻っている。 普段、あまり人に教えないらしく、どう説明するのが解りやすいか考えてくれているのだ。 私の為、というところが嬉しい。 「んと、ここはこの公式を使うんだ。ほら。そうすると簡単に解けるぜ。」 天国は教科書のある公式を指した。 檜もそこを見ようとしたが、つい、目が追うのは彼の手で…。 部活で出会った当初は傷一つなかったような美しい手だったが、今は慣れない野球の猛練習の為に豆ができていて痛々しい。 天国は檜が手をじっと見つめていることに気づき苦笑いをした。 「…痛い?」 「これ、やっぱり気になるか?」 天国は自分の手をじっと見つめた。 痛くないわけではないが、今は最初ほど痛まないし、慣れてきたせいもあり見た目ほど痛くはない。 だが、確かに見た目は絆創膏だらけで痛々しい。 だから、檜も彼の質問に頷いた。 「そっか。でも、見た目ほど痛くはねーから心配すんな。」 な?と、天国は手を上下に振りながら痛くないことをアピールしつつ綺麗に笑った。 檜もそんな様子をみて、うん、と頷いたが、彼は嘘が上手だから、心配になる。 だから、 そっと手に触れてみる。 絆創膏だらけの手はやっぱり痛そうで、つい、 「痛いの飛んでいけ…。」 思わず口からお呪いの言葉がでた。 気安めにしかならないと分かっているけれど、どうしても言わずにはいられなかった。 「…大丈夫。檜もこうしてお呪いしてくれたしな。」 天国は優しく微笑みながら、空いているもう片方の手で檜の頭を撫でた。 まるで子猫を撫でるみたいに何度も。 それが気持ちよくて、でも、子供扱いされているようで複雑な気分になった。 そんな檜の心情を察したのか、天国はおかしそうに笑った。 「…笑うなんて酷いかも。」 不満そうに軽く天国を睨む。 そんな檜を見て、さらに楽しそうに笑うものだから、ますます機嫌が悪くなる。 「天国のバカ…。もう知らないかも…。」 檜がぷいっと横を向くと、流石にこれには天国も慌てて宥めようとした。 「俺が悪かった!許せ!…な?」 天国が必死になって謝罪するものだから、簡単には許すまいと思っていたのだが、思わず頷いてしまった。 本来の天国がこんな風に必死に謝ってくることはない。 どっちらかというと、人に冷たい、売られた喧嘩は買う、そういう人種なのだ。 もちろん、冷たいと言っても、檜や、ごく限られた一部の人には優しいのだが。 だからこそ、彼が真剣に謝っているということが分かるから許してしまう。 「檜が許してくれてよかったぜ…。あまりにも可愛いからついやりすぎちまった。悪かったな?」 天国が、許してくれたことに対して嬉しそうに笑いながら、しかも、こっちが照れてしまうようなことまで言うものだから顔が真っ赤になってしまう。 本来の彼の心からの無邪気な笑顔は全ての人を虜にする恐るべき武器である。 もちろん、仮面を被った彼の笑顔でさえも皆を虜にしているが…。 部活の面々がいい例である。 特にあの、名前に十二支の名前がつく人とかが…。 (これで天国と仲がいいと知られたら怖いことになる…かも…。) それを考えるだけで背筋がぞくぞくとする。 あの物騒な人たちが束でかかってきたら、自分の身が危ないのは間違いないだろう。 「…どうかしたのか?」 よっぽど変な表情をしていたのか不思議そうに顔を覗いてきた。 そんな天国の顔を見つめた。 このことを告げれば、それなりの対策を立ててくれそうだが、心配をかけたくなかった。 少しでも対等な関係でいたいから…。 「私も、天国はかっこいいと思っただけ…。」 「それは、ありがとな。でもな、お世辞を言っても、数学はビシバシと厳しくいくからな!」 「うっ…。優しくして欲しい…かも…。」 過去にも教わったことがあるが、天国はかなりのスパルタであった。 その分、教え方は上手いのだが、恐ろしいことに変わりはない。 「なら、一発で理解しろよ?檜は頭の回転は悪くないんだし、やればできるって。俺が言うんだから間違いねーよ。」 「…うん。頑張る…。」 天国にそう言われると、本当にそう思えるのだから不思議だ。 「おし、よく言った!なら、テストで80点以上とったら好きな場所に連れて行ってやるぞ。」 「…本当?!」 「本当。で、檜はどこ行きたいんだ?」 天国と出掛けられるならどこでも嬉しいけれど、一度一緒に行ってみたい所が檜にはあった。 「…あのね。動物園が行きたい…かも…。」 「動物園?」 「うん。…ダメ?」 嫌だと言われるのかと思って、恐る恐る天国を見上げた。 「いや、いいぜ。タダ、みんなが居るよな〜て思っただけだ。ほら、特に虎とか獅子とかの辺は確実だろ?面白くねーか?」 「…天国もいるし。」 「おぉ!きっと俺に似て可愛いはずだろうな。虎とかは可愛げが無さそうだけどな。くくっ。」 そう、楽しそうに声を立てて笑った。 それは私も同意見だったので、思わず笑ってしまった。 「よし!その為にも頑張らなきゃだ。な、檜?」 「…あ、天国?」 にっこりと笑っているのだが、でも、どことなくその笑顔からは恐ろしさを感じる。 「さぁ、早く勉強を再開するぜ?」 まだ、日が落ちるまで時間はたっぷりある。 こってり絞られる事は間違いない。 「ううっ…。…はい。」 この天国の言葉には頷くしかない。 直々に教えてもらっている上に、頑張ればご褒美までついてくるのだから。 この恐怖のスパルタ授業は試験日当日まで続いた。 そのかいあってか、檜は見事、苦手な数学で90点代をとれた。 「…天国のおかげ。ありがとう…かも。」 「これは檜の努力の成果だぜ?よく頑張ったな!今度の休みにでも動物園に行こうな!」 「うん。」 勉強が辛かった分、とても嬉しいご褒美だ。 「…動物園、楽しみ…かも…。」 「だな。晴れるといいな!」 晴れなければ動物園はつまらない。 今から猫神様にでも晴れるようにお願いしておこう。 お呪いも沢山することにしよう。 「忙しくなるかも…。」 きっと次の休みは晴れるはず…。 ***あとがき。*** これまた、マイナーなものを書いてしまいました(^^;)猫猿ですよ!!うわ。少数派で行こう、ですよ!! いや、ね、あるサイトさまで読んで以来、カワイイな〜と思ってからハマリっぱなしで。 だって、ほのぼのとしてカワイイじゃありません?特に、あのふわふわの頭を天国が撫でているところを想像するとv(萌) あぁ、心が清められた気分になるです。ホント。 にしても、またもや眼鏡な天国。ほんと、好きだな、自分。もう、この設定しか思いつきません(死) 無駄に甘いし。ほんと、自分の言語中枢は甘い言葉で占められていると感じる今日この頃です(泣) |
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