紅雨の雫の跡に   ―Sample―





chapter.1


 ――廊下を歩く靴音が廊下中に響き渡った。しかし、彼はそれに少しも気にも留めること無く、自身の髪や瞳と同じ漆黒の色をした学ランを外套のように肩に掛け、ひらりと靡かせながら、カッカッと高らかに小気味よく、彼にとっては常とは変わらぬ軽快な、しかし多くの生徒や教師にとってはもはや恐怖が近づいてくる証拠でしかない靴音を高らかに立て、彼こと雲雀恭弥は校内の見回りに今日も精を出していた。
 並盛高学校。大なく小なく並でいいという言葉をモットーとする些か変わった学校である。――因みに余談だが、並盛幼稚園、小学校、中学校なるものも同じモットーの元に存在していたりするのだが、それに関しては過去はともかく現在は然程関係ないので置いておくことにする。
 ともかく、そんな学校の風紀委員長を務め、それどころか風紀委員という言葉が表す範疇を軽く飛び超えて、かつて通っていた並盛中学、現在通っている並盛高校だけでなく並盛という町一帯を恐怖という名で治め、君臨しているのが雲雀である。そして、その雲雀にとって校内の見回りは日課でもあった。
 校内は深と静まり返っていた。教師の授業を行う声と時折教師の質問に答える生徒の声以外には静寂と言っていいだろう静けさだった。休み時間には人々の声に紛れて聞こえない鳥の囀りの声や熱い夏の象徴ともいえる蝉の鳴き声さえも聞こえるほどだ。
 もちろん今が、雲雀以外の生徒が真面目に授業を受けているような喧騒と離れた時間帯の為というのがその理由ではあるが、雲雀の巡回中に彼の気の障るような事をしでかさないように皆が怯え静かにしているという理由も少なからず影響しているだろう。だから、雲雀のその足音は余計に静かな廊下に響き渡るようだった。
 一応、雲雀もこの学校に所属する列記とした生徒ではあるが、そんな事少しも雲雀は構いやしなかった。彼にとって教室で授業を受けるかどうかは気分によって左右されるような「たまにはここもチェックしておかないとね」程度のものである。既に高学生程度の知識は習得しているし、ワザワザ不快になると分かって群を成している集団に入っていく気などしなかったのだ。今でさえ授業中だからと教室で群れを成している生徒達を蹴散らかす事を自粛し、耐えているのだ。この寛大な己の心を褒めて欲しいぐらいだった。
 そんな彼以外にとって理不尽でしかない事を思いながらも、雲雀はいつものように風紀委員の本拠地である応接室へと足を向けた。高校の勉強をする必要はないが、並盛高を、そして並盛という地域を表からも裏からも牛耳っている雲雀にとって処理しなければならない書類は毎日山とある。今の世の中、本当に統治するものとして君臨するのならば力だけではダメなのだ。
 これらは常と変わらぬ日常だった。それは大きな不満を雲雀に持たせる事はないが、逆に刺激が無さ過ぎた。退屈は人を殺せると思っている雲雀にとって歓迎できぬことでもある。ここ最近はそんな事を思うこともなくなってきたのに、というところまで考えが至って初めて、今日はまだ騒動が起きていない事に気づいた。彼が発端となる騒動が。

――パンッ パンッ パンッ

 しかし、それもつかの間のことだった。静寂を破るように校舎に鳴り響いたのは数発の銃声。普通に暮らしていれば一生に一度も耳にしないだろう音ではあるが、もはやこの音も雲雀にとっては日常的に耳にする音にすぎなかった。
 そして、その銃声に答えるように爆発の音と共にガラスが割れ吹き飛ぶ派手な音が響き渡る。これも、馴染みの音だった。恐らく、否、間違いなくダイナマイトが爆発した音だろう。
 雲雀は応接室へと向けていた足取りをすぐさま反対へと変えた。その雲雀の傍を手馴れた様子で生徒達が避難していく。普段ならば群れる事に対して咬みつく雲雀も、この類の騒動の場合には見逃してくれる事を数回目にして悟った彼らは、雲雀の姿を目に止めて一瞬だけ怯んだものの、直ぐに避難を再開した。慌てず走らずしゃべらず、避難のいろはを完璧にわきまえた様子もこれまたこの高校では珍しくも無い見慣れた光景だった。


「何度も同じような事が起きれば慣れるものだね」


 最初の頃は彼らの危機回避能力が上手く作動していなかったようで逃げ遅れた者達に何名か負傷者が出ていたようだったが、ここ最近では素早くかつ慎重に避難がなされるようになりそんな事もなくなっていた。これで大地震がいつ並盛を襲おうとも彼らは冷静に完璧に対処できるだろう。素晴らしい予行練習になっているというものだった。
 ――と、その話題も今は据え置いておくことにして、雲雀はちらりと校舎の向かい側へと視線を投げかけた。案の定、彼のクラスの方から騒音や煙が立ち込めている。そして、ちらりと視界の隅を掠めるのは黒尽くめの数人の屈強な強面の男達の姿。明らかにその筋のものですと言わんばかりの風体であった。
 もはや原因は間違いないなかった。もっとも、違うだろうと疑うこともないが。いつものだ。またか、と思うのと同時にこれだからまったく退屈しないな、と雲雀はうっそりとその相貌にいささか物騒な笑みを浮かべた。
 易々と己のテリトリーに侵入し、且つ、校舎を破損させた事に関しては怒りを覚えるかぎりだが、それは同時にその償いと不満や苛立ちをぶつけられる相手が出来たという事でもある。
 彼を殺そうと挑んでくるぐらいなのだからそれなりに腕は立つだろう。最近の並盛の不良や任侠達は雲雀を前にすると牙の折れた猛獣のようになってしまって手ごたえがなく気に入らなかったのだ。素直に反抗することなく己の指示に従うのはいいことだ。けれど、そうなった彼等もまた雲雀にとって好ましくなく、そんな矛盾した気持ちを抱えていた。
 ましてや、今回の騒動の発端であろう彼の方に関しては背後が巨大である。校舎を綺麗に修理する費用の捻出先に悩む事もない。何も言わなくてもいつものように直ぐに修理を手配するだろう。だから、多少の不快を無視すればこの状態は雲雀にとって最高とも言えた。
 歩む速度を更に速めて彼の教室へ向かう今も尚、銃器や爆発の音は途切れる事はない。最近は色んな熾烈な戦いを生き抜いてきた成果か、以前よりは強くなった彼や彼の周囲に群がる小動物達はこういった場合の対処が素早くなってきたのだが未だに続いているらしいところをみると、どうやら今回の刺客は雑魚ではないようだった。いつもより見所がある。
 渡り廊下を通り、ようやく件の彼の教室へと駆けつければ未だそこは戦闘の最中だった。硝煙の臭いと、爆風によって舞い起こった白い粉塵。もはや平穏でごく一般的な教室だった頃の姿を忘れさせるような瓦礫の山。そして、何よりも雲雀の目に付いたのはこの騒動の原因である、彼――沢田綱吉――の姿だった。





…と、こんな感じではじまるお話です。一章の最初の部分を掲載させていただきました。
全然中身を表してないところですみませんιとりあえずこんな文章の雰囲気で書かれるラブストーリーです。

雲雀の綱吉への好意発覚からその後をメインに書いてます。
ちょっと殺伐としつつも甘いようなせつないような、せつないような…(二度!?)とりあえず煮え切れやがれ!と思わずにはいられないような、自分の恋心の制御が利かない雲雀さんと、意味分からずそんな雲雀に振り回される綱吉の話です。
ちなみに、原作軸ではなく高校生設定。全ての騒動の後に十代目を継ぐ事を決めてしまった綱吉がしばらくは…と高校通ってる設定です。

スレツナのようなスレツナじゃないツナ様です。けれど、成長してるので原作時(中学生)より度胸あって、かつ、落ち着いてます。怒らせると怖いです。




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