Love trick   ―Sample―





01. Re-start


 物事の始まりはいつも突然だ。最初からそれを予期していることなんてほとんどない。超直感というまるで超能力みたいな能力の持ち主であるツナこと、沢田綱吉にもそれはあてはまった。
 そもそも、思い起こせば己がイタリアで名を轟かせる巨大マフィアファミリーの十代目をいう立場に立たされたのも突然だったなと思う。柔らかな革張りの椅子なんて、重厚な木の温もりを感じさせつつも気品と芸術性を感じさせる机、山と積みあがる書類となんて縁のない一生を送るのだと信じて疑っていなかったのだから。
 嫌だと思っていた。今だとて、誰か他の適任者がいるのなら熨しつけて譲るだろう。けれど、無理だとわかっているからこうしてこの椅子に座って多くの書類にサインしているのだ。ザンザスという元候補はいるのだが、彼はどうしたことか今や「お前がボスになれ。お前なら俺は譲っても構わん」と言い放つ始末で己をこの椅子に縛り付ける者の一人になっていた。信用できる身内で見方でもあるが、ある意味未だに奴はツナの敵だ。
 それに、ヴァリアーのボスは血の気が多い。彼だけじゃない、それはマフィアの典型的な性格とも言える。けれど、ツナは争う事は嫌いだった。だから、今のイタリアンマフィアの世界は抗争が目に見えて減った。抗争を嫌うツナが徹底的に不穏な気配を察知したところを見せしめのように潰し制裁を加えていった結果だ。
 就任当初は嘗められていたものだったツナも今や穏健派のけれど冷徹な皇帝として君臨している。だからこそ、ツナがいなくなればこのひと時の平和は消滅し、争いが激化するだろう。それがわかっているからこそツナは誰かに押し付けることができずに大人しくボスという立場を甘んじて受け入れていた。
 キィという執務室のドアが開く微かな音に気づいてツナが面を上げるとそこには漆黒の全てを呑みこみそうな深い闇色の色彩を待とう少年の姿があった。少年と呼ぶには些か成長が早すぎるだろう。背は高く、精悍な色気漂う様子は青年…しかも頭文字に美をつける表現がとても似合う人物だった。
 己が間も無く三十歳という大台を向かえるというのに未だ二十歳ぐらいの若造に見えるというコンプレックスを痛く刺激する成長っぷりだった。いくら童顔と呼ばれる日本人といえどもいい歳をした大人がそこまで若く見られるのは屈辱的だった。けれど、同時に赤ん坊の時から知っているので大きくなったなと嬉しい気持ちにもなるのだ。


「ツナ、例の件だが俺が行くぞ」
「…リボーン、お前が?確かにお前に任せられるなら安心だけれど…」


 最強のヒットマンである元家庭教師であり、今では腹心の部下であるアルコバレーノのリボーンにならば何を任せても無事に任務完了としてくれるだろう安心感がある。普段ならば厳しい監視役が減って万歳三唱といきたいところだが今は事情が事情だった。


「お前の心配パーティーらの泊りがけで開催されるパーティーのことだろ?」
「あぁ。俺はリボーンを護衛に連れて行く予定だったからね。同伴者は一名のみ。しかも俺の賛同者もいれば俺を殺したくて仕方がない奴等もいるような場所だ。他の守護者たちでもいいけれど、お前が居れば安心だし何より…」
「牽制という抑止力になっただろうな。でも、問題ないぞ。それに関しても抜かりなく手は打ってある。現地に着けばわかるぞ」
「そう。リボーンがそこまで言うのなら問題ないね。じゃあ、あの件はお前に頼む。要だからね」
「――ボスの望みのままに」


 アルカイックな笑みを浮かべ、ツナの手を取り、恭しく口付けを落として去っていく様は女性には堪らなく魅力的だろう。これは愛人が多いはずだ。しかし、ツナとしてはその一連の動作が様になるなと思うのと同時に、出会った時には既に形成されていたもの、長い時とかけても矯正できなかった性格の方が頭が痛かった。そして、彼のどこか愉快気な表情に隠された何かの陰謀を思うと、図太くなったと言われるツナであっても何が待ち受けているのかと不安とため息に襲われるのだった。




 まるで滑る様に振動を搭乗者に感じさせずに車は止まった。城と評しても間違いではないかのような豪奢な屋敷の前に車が止まった事に獄寺に促されてようやく気づいたツナは、書類から面をあげた。


「十代目、やはりオレがお供します!」
「その申し出はありがたいけれど、リボーンが手配してくれたみたいだからね。心配いらないよ。それに、お前には俺の不在中に溜まる書類を出来るだけ裁いてもらう必要があるからね。それに、何かあった時の対応も通信手段がない以上、お前任せになるんだから。頼りにしてるよ」
「は、はいっ!お任せくださいっ!!」


 まさに忠犬と揶揄されるが如く、同じだけ歳を重ねても頼られるのが嬉しいと満面の笑みを浮かべながら全身で表現し、返事をする獄寺に苦笑しながら車から降りた。
 未だ姿が見えぬ同伴者に少しだけ心配になるが、嫌な予感がしないどころか寧ろなんだかいい予感がして楽しみにさせる。先ほど獄寺に言ったようにいくら緊急の用があっても連絡手段がない場所だ。少なくともここで滞在する数日は書類とおさらばできるというだけで幸せなのだが。もっとも、代わりに狸どもと腹の探り合いという酷く神経が磨り減る苦行があるのだが、毎日格闘している書類よりマシだろう。
 とりあえずは先に中へ入って到着を待とうと、獄寺を追い返して出迎えに来てくれた執事に促されて門を潜ろうとした時、頭上から何かが羽ばたく音が聞こえてツナは立ち止まると空を見上げた。そしてその一瞬後、思わず己の立場など忘れて音かした方へと走り出した。
 青い空をバックに、金色の眩しい光が指し、ツナは目を細めずにはいられなかった。太陽の光だけではない。そう、光の色をした髪が太陽の光を浴びてより輝いてツナの目に映ったのだ。そして、その双眸も晴天の空のような美しい色をしている。それは、最近顔をなかなか出してくれなくなった、けれど己がよく知る人物をよく表す特徴。リボーンと同じアルコバレーノのコロネロだった。







…と、こんな感じのお話です。一章の最初の部分を掲載させていただきました。
基本、初々しさ満載なコロ→ツナから始まる恋愛がメインなつもりですが、アルコ関係でのシリアスな(というよりは切ない)感じが多々混じります。総合的成分は 甘さ4:ヘタレ度3:しりあす:3です(当社比)
また、アルコに関する設定は当サイトオリジナルのものであり、原作とはまったく沿ったものではありません。(…もう引き戻せないときに発覚したんですね…。ハハハ。/コミックス派)
尚、このサンプルで判るとは思いますが、原作より15年後ぐらいの設定です。30才ぐらい(でも脅威の童顔な)ドン・ボンゴレなツナとまだ未成年(でもそうは見えない)な照れ屋コロな二人なのでお気をつけ下さい。

今回の話の題材は、「恋愛小説が書きたいあなたに10のお題」(管理人:空知大さま URL: http://sorachi.lolipop.jp/odai/home/love.htm)
より10題中5題をお借りしました。
ちなみに→01. はじまり 02. 王子様 03. 叶わぬ恋とは知りながら 04. 恋占い 05. 告白




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