call   ―Sample―





 2


「…何故、あなたがここにいるんですか?」
「いたら悪いのか?」

 心外そうに、傷ついたと嘆くように顔を歪める目の前の男にダンは更に視線を鋭くした。悪いも何も、悪いしおかしいに決まっていた。まだここがどこかの商業施設やら観光施設だったのならば少しは納得できよう。この広い宇宙、偶然に出会う確率など無いに等しいが、まったくないことはないのだから。けれど、ここは連邦大学惑星の、アイクライン校にある、それも己の事務室である。偶然という言葉は通用しない。
 ダンが事務室の扉を開けた瞬間、目に入ったその存在に、これは悪い夢か幻覚だろうかと思わず扉を閉めそうになってしまったのは仕方が無いだろう。しかも、その人物が陽気な笑顔を湛えながら遅かったなとすちゃっと片手をあげて簡単な挨拶などしていれば、思わず現実逃避したくなるものというものだった。
 一故にダンが事務室から逃げ出さなかったのは(否、逃げ出せなかったのが正しい)己の事務室の前で不自然に固まって動かないその姿に通りかかった生徒や講師達が不審そうに視線を投げかけることに耐えられなかったからだ。
 何という己の運の悪い事か。何故船に直ぐに向かわなかったのか。何故人通りが少ないこの部屋の近くを今日この時に限って生徒や講師が何人も通っていくのか。何故に己がいる時に限って、見計らったように彼等は出没するのか。取り留めなく後悔と怒りからの文句を並び立てながら、正直ダンは運命の神様を呪わずにはいられなかった。馬鹿野郎と。

「別に、俺がここにいる事なんて今に始まった事じゃねえだろう?」
「…えぇ、そうですね。大変、酷く、不本意ながら」

 ダンは言葉の一部分に力を入れて嫌味の如く強調して返事を返したが、しかし相手はそれが?と言わんばかりに涼しい顔で受け止め、寧ろにこやかな笑顔さえ浮かべながら事務室に置かれていた己の椅子に腰掛けていた。
 黒の革張りの椅子に長い…認めたくないが己のものより長くすらっと伸びた足を優雅に組む様は腹が立つぐらいに様になっている。そして、嘗て己がよく知っていたものと少しだけ違い、けれどそれ故に雰囲気さえがらりと変わっていてまったくの別人に見える彼は明らかに以前よりも二枚目だった。  女性なら絶対に放っておけないような、周辺全ての視線さえ攫ってしまうような美貌だった。
 整形をしてその端麗な容姿を持ったというのならば「所詮は人工ものだろう」と嘲ることもできるのに、何故かこの人の場合は女性の目を引きすぎて反感を買う程のかなりの男前だったが故に、それは問題だったから嫌味のない程度の男前になるよう顔に手を加えたというのだから、それこそ嫌味でしかない。それが元の顔に戻り、且つ、己が知る彼の最後の年齢よりも何十年単位で若返れば尚更だった。

「けれど、貴方が一人で、しかも誰とも待ち合わせでもなく来る事は今までなかったと思いますが?」

 そう、今までに何度も襲撃をかけられ、まるで人外・規格外・化物専用の待ち合わせ場所、否、溜り場所のようにこの場所を気安く勝手に利用されていたが、彼が誰とも待ち合わせるわけでもなく一人でここを訪れたことはなかった。ありがたいことに。

「そうだったか?」
「そうですよ。大体、わかっている癖に知らなかった振りはやめてください。大変不愉快です。そしてとっとと帰ってください。仕事の邪魔ですから」

 きっぱりとダンが言い切れば、彼はゆっくりと重く長いため息を一つ零した。けれど、ダンの心境から言わしてもらえば己の方がストレスからため息を零したい気分だった。

「――…ちびすけ。お前、前々から思っていたが母親には随分と優しいのに俺にはやけに冷たくないか? …反抗期か?」
「ちびすけと呼ばないで下さい!そもそも、反抗期なんてものはとっくの昔に終えていますよ!まったく、私を何歳だと思っているんですか!もう子供じゃないんです」

 父さん、と続けて言いかけたが、ダンはその言葉を寸前で呑み込んだ。






…と、朱木の今回のお話はこんな感じのスタンスのお話です。(Sampleは2章の一部分を掲載しております)
登場人物はパパと息子以外は相棒と天使、あとその他もろもろって感じです。残念ながら最強の赤ゴジラさんには今回話が混迷しそうで辞退いただきました。呪われそうです(笑)いや、暴れられる…?
普段はほのぼの和み系のスパイスにせつなさ、という感じの私の文ですが、今回ほのぼのというよりは「くすくすっ」という感じです。
が、所詮、普段そういったのをあまり書かない私の文なので、和みレベルかもしれませんが、気持ちコメディです。コメディです。
色んなところを妄想想像で補っているので多々オカシイ所がありますが目を瞑っていただきたいです。






尚、↓は小夏さんの描かれたマンガのSampleです。

初っ端のダンの悲壮感漂う表情とキングの飄々とした表情の差に愛しさを覚えます。





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