催花雨 ―Sample―





 本来なら深く青い闇色の星の海が頭上で広がっているはずだった。雲一つない満天の夜空は遮るものなどなく、美しい宙の姿の一部を垣間見せてくれるはずだったのだが、生憎ここ数日は雲が広がり雨か降っており、その姿を拝む事は叶わなかった。
 ――宇宙。そこがケリーの愛する場所だった。心の拠り所だと言っても過言ではないだろう。人が生きていくのに空気が必要なように、魚が水の中でしか生きていけないように、ケリーには宇宙という場所はなくてはならない場所だった。
 ケリーは紫紺色をした綺麗にプロの手によって整えられアップされていた髪を無造作に手で乱暴に崩し、首元のタイを緩めながら、古酒のような美しい琥珀色をしたやや鋭い瞳を細めた。
 端正な、それでいて綺麗過ぎないどこか愛嬌の宿る感じに崩れた顔立ちであるのにも関わらず、今はその表情は無表情を保っており、どこか声をかけにくい雰囲気を生み出していた。

「ケリー?」

 相棒のやわらかなアルトの声がケリーの耳元に届いた。視線をその声がする部屋の中央の壁に掛かっている巨大な画面の方へと向ければ、その声と同じくやわらかに波打つ金色の髪が白い顔を縁取り、瞳は青い宝石のような美しさを持っている女性の姿が映し出されていた。
 見た目の美しさだけではない。表情さえも豊かで細やかだった。これが映像のようにはとても思えないリアルなその美しさは知らぬ者が見れば人工のものとは到底思えないものだった。知っていても信じられない者が今尚いるほどに。彼女という生身の人間はこの世に存在しないのだ。
 ダイアナ・イレブンス。通称クレイジー・ダイアンとよばれる感応頭脳の彼女だからこそ出来る芸当だった。そして、こんな時の状態の彼に躊躇することなく声をかけられるのも、長年の深いつきあいを重ねている彼女だから出来る事だった。

「ダイアン、どうした?」
「どうしたもこうしたも無いわよ。貴方がいつになく思いつめたような顔をしているから声をかけたのよ。何か心配ごとでもあるの?」
「いや…、少し考え事をしていただけだ。…悪かったな」
「そう。それならいいのよ」

 そうケリーが会話を発展させるのではなく終了させる言葉を口にすると、ダイアナはそれ以上追及しなかった。長年連れ添ってきた相棒であり、聡い彼女だからこその、その心遣いにケリーは芳しくない表情を一瞬だけ掻き消し、柔らかな笑みをその口元に僅かに浮かべた。
 視線を再度窓の外に浮かぶ空へとケリーは戻した。どんよりとした闇夜を向かえた空を、その向こうにある美しい宇宙をケリーは地上に聳え立つバベルのような塔と周囲から称される巨大なビルの最上階の一室から見上げていた。眼下には星々と同様、美しい都会の夜景が広がっているが、それには少しも興味が湧かなかった。
 この部屋にいるという事は己が富と名声を手にしている証だった。内装も赤い柔らかな絨毯に木製の重厚感と気品溢れるディスク。革張りのソファー。実用的とは言いがたい巨大なシャンデリア。どれも一般人にはなかなか手を出せないような品物ばかりだ。それを己は無造作に扱う立場だった。
 こんなにも気分が滅入るのはなぜだろうか。ここ最近、空を飛ぶ宮殿のようなクーア・キングダムからさえも遠く離れ、地上に縫い止められているからだろうか。例え自分の船ではなくとも(名義的には自分の持ち船であるが操縦できない船はケリーにとって真の意味で自分の船ではない)宇宙を飛んでいるのならば少しは状況が変わっていたに違いない。そして、錆色の空と星々さえも拝めない空が更にケリーの沈鬱な感情に拍車をかけていた。
 …可笑しなものだ。富も名声もどうでもいいと思っていた自分が、犯罪者である自分がこういった場所にいるとは。何よりも、宇宙から引き離されてこうして地上で一所にじっとし、政治にまで影響を与える存在になるなどと、幼かったあの時、誰が考えただろうか。…ずっと、あの惑星で戦争を続けて死んでいくのだと信じていたのに。

「――最後にお前と飛んだのはいつだった?」
「なぁに、ケリー。恋しくなったの?」
「あぁ」

 素直にそう答えるとは思わなかったのだろう、ダイアナは微かに目を見開いていたが、更に鮮やかに笑みを浮かべた。






…と、まだこんな感じで始まるお話です。
ちなみに、この文は物凄く中途半端なところでぶちぎってあります。短めのお話なので長く載せられなくてすみませんι
ダイアナとケリーメインなのでずっとこんな感じです。が、徐々に女王が話の内容に絡んできます。
淡々とした感じの話ですが、かなり糖度はあると思います。
個人的に女王海賊本だと思うんですが、ちょっとダイアン・ケリー本にも見えなくもない(笑)
色んなところを想像で補っているので多々オカシイ所がありますが目を瞑っていただきたいです。







↑表紙。
FCコピー。A5。20P
表紙絵はケリーさんのピンです。(注:整形後/笑)

朱木初めての茅田本個人紙です。しかも、純粋にスカウィのみのキャラによるお話。
女王が眠ってから数年後のある日、ここ数日、どこか浮かない表情を浮かべるケリーを気遣ってダイアナはある提案した。
そんなケリーとダイアナを中心に話が進む女王&キング本です。
若干(?)ダイアン&ケリーの雰囲気もあったりなかったり(相棒万歳な感じ)もする内容でした。基本ケリーとダイアンが出ているので。
しっとりせつない、でも甘いような、なんとなくモノトーンなイメージの物語でした。







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