泡沫の夢をみた   ―Sample―





T: うつつの涙  より





 ――夢を見たってば。
 晴天が眩しいぐらいの昼の時間帯、休み時間らしい喧騒の中、唐突に前置きもなく発せられたナルトの言葉に今日の昼食である弁当に視線がいっていたシカマルは視線を目の前のナルトに向け、口の中いっぱいにあった唐揚げを充分に咀嚼し呑み込むと、興味深そうな表情でその続きを促した。


「へぇ。お前がわざわざ話題にするなんて、どんな夢だったんだ?」
「まぁ、いわゆるおとぎ話、ファンタジーだってばね。そうそう、お前も出ていたってば」
「勝手に出演させるな。金取るぞ」
「じゃあ、オレはお前からそれ以上にお金をもらえるってわけだってばね?」
「……何の事だ?」


 僅かな返答の前に置かれた間にナルトは鮮やかな笑みを浮かべた。その様子から窺うに、若干鎌かけではあったのだが無事に勝利を納められたようだった。ただ、その内容が非常に気になるところではあるが、この反応から伺うに深く立ち入らない方が良さそうだと判断し、ナルトはさっそく記憶から排除することに決めた。
 これが他の者ならば追求、及び、その内容によっては実力を振るって後悔させているところなのだが、これがシカマルだというだけで甘くなってしまうのは惚れた弱みなのかなんなのか。そんな己が負けているようでなんとなく悔しくてその事を態度に表さぬよう気をつけてはいるのだが、さて、それもどこまで通用しているのだろうか…。


「ナルト?」
「いや、気だるいなぁって思って。もしかして、オレってば風邪引いたってば?」
「バーカ。ただ単に寝すぎだろ、お前の場合は。さっきの授業中、先生がすげぇ目でお前の事睨んでたぜ?」
「睨む癖に声をかけないところが笑えるな」


 平然とくっと皮肉るように笑うナルトの反応が気に入らないというようにシカマルは僅かに眉間に皺を寄せた。そんな彼の様子に申し訳ないなと思いつつも、やはりこの状況の改善を求めようとは思わない自分がいる。


「出来の悪い生徒を起こすよりは目を逸らして授業を進める方が大切なんだってば」
「――何をもって出来を判断するんだか…」


 その言葉に本来ならば続くはずだろう言葉はもう既に何度も二人の間を行き交っていて、それが音となれば永遠と想いが交わることなく平行線を辿ることしかないとわかっているからかシカマルはそこで言葉を切った。しかし、ゆっくりと想いを込めるように音と成した言葉を今尚口にするのは諦めきれないからだろう。
 確かに、もしこれが自分の事ではなくシカマルの事だったならばナルトは彼と同じ事をしていただろう。むしろ、シカマルの抗議が甘いと感じるような事さえするような気がする。けれども、そこまで理解していてもやはりその願いを叶える気にはならないのだ。
 話を逸らすように視線を窓の外に向けた。本当に眩しいぐらいの晴天で、青い空に映えるように白い雲がのんびりと浮かんで、ゆったりと流れていくのが見えた。 元気が余っているような騒がしい生徒はもう昼食を終えたのか、早速じっとしてなどいられないとばかりに教室から飛び出していき、グランドで遊んでいるようだった。今は数人の生徒の姿があるのみで、小さな笑いあう声が響くだけで、平穏、といった言葉が似合う世界だった。
 ナルトも普段の行動から、外で遊んでいる者達の仲間入りをしているように思われがちなのだが、実際のところ、それに付き合ったことは一度もなかった。そして、誘われもしない。
 それは虐めではない。何も知らぬ第三者がそう思おうとも、当の本人達はまったくそんな風に感じていないのだから、違うと断言できる。もし、虐めなんてそんな事をナルトにしようものなら彼らは倍どころか十倍、果ては生きていてごめんなさい、と土下座して謝るぐらいには後悔させられる目にあうだろう。お蔭様で虐めとは無関係の平穏なクラスだ。 実際に、生意気だとナルトに絡んで痛い目にあった輩達は実在する。ちなみに、その内の半数は今までとは正反対の模範生となっており、またその残りは、引き篭もりの登校拒否になっているという現象を引き起こし、噂が噂を呼び、今やナルトはこの学校の生ける伝説だ。
 それだけならば、ただの問題児で終わったかもしれないが、更にそこに追加される要因が、ナルトがこの木ノ葉学園の前理事長の息子であり、その唯一の忘れ形見であるナルトの扱いを教師が煙たがっているからだ。
 だからか自然と、まさに触らぬ神に祟りなしというような扱いを受けていて、授業中に寝ようと注意さえ受けないのが現状だった。『出来が悪く扱いづらい生徒』、それがナルトの貼られたレッテルだ。
 先ほどの夢の内容を思い出し、静かに微笑みを浮かべた。


「…で、どんな夢だったんだ?」
「え?」
「お前の今の笑み、その夢の影響だろ? どうやら俺も出演しているようなんだ。ギャラ代わりに聞かせろ」



…と、こんな感じのお話です。一章冒頭を掲載させていただきました。
全体的にシリアスしっとりなお話です。
現代の学生設定という、ある意味王道なパロな設定なはずなのに、コメディ要素がないという結果になりました。
かわりに、らぶらぶ度が当社比的にちょっと上がりました。恋人設定です。
ちらほら原作世界とリンクする話になってます。



オリジナル設定、特殊設定が苦手な方はお気をつけください。




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