恋模様   ―Sample―





1: 例えばキミのいない世界  より




「想像できねぇな」
「――…お前のそれは、できないじゃなくて、しない、だってば」


 己の質問に返ってきた返事にナルトは速攻で苦言を返した。しかし、その返事をした当人、シカマルはそれが気に入らないのか酷く不快そうに僅かに眉間に皺を寄せた。 だが、間髪入れない、即答とも言えるシカマルの返事の速度からは考えた様子は窺えない。ナルトの言葉は想像というより真実と言えるだろう。しかし、他愛のない世間話に機嫌を悪くされるとは思わずナルトは困惑を覚えた。
 そもそも、話は数日前のふとした日常の出来事から始まった。買い物をしようと商店街に立ち寄ったのだ。ナルトは生まれも育ちも複雑な事情を抱えている為にあまり人目に触れる場所に立ち寄らないようにしていたのだが、生きていく上で必要な行為もあった。それはその一つである。
 本当はナルト自身大きな伝手もあるし、変化も苦手ではない。よって世間と軋轢を生む事無く必要な物を手に入れることはできるのだが、それを隠している身としては、怪しまれる行為を慎まねばならず、定期的に最低限の頻度で姿を出していた。
 もっとも、ここ最近は彼らの心に何の変化が起きたのか、あからさまに嫌悪の態度を向けられる事が減ってきたのだが、それでも、ナルトとしての行動が変わることはない。最低限の頻度だけだ。彼らの心情がどう変化しようとも気にならない。一度落ちるところまで落ちたものに関心などないのだ。
 ともあれ、こそこそひっそりと買い物をする必要はなくなったのは助かっていた。忍の性質上、気配を消すのは得意とするところなのだが、色々と面倒なのだ。最近では目立たない程度で済んで楽だ。
 話は大分反れてしまったが、要はそんな風に買い物をしている最中の出来事だったということだ。商店街というものは得てして賑わいを生じさせる。だからいつも誰かの声や音が絶えない。だが、そういう音でも日常レベルというものがあって、その度を越せば人の気を惹かせるものだ。
 だから、その喧騒をも破る大きな諍いの声にナルトも類にも漏れず、その大元に目をやれば、大喧嘩する恋人同士がそこにいた。自分よりも幾分か歳を重ねているように見える二人は、そこが公共の場所だということも興奮して忘れたかのようだった。
  違う事無く修羅場だ。痴情の縺れによる別れ話か、と周囲は興味深そうに野次馬と化していた。話に聞いたことはあるが、実際にここまで派手なカップルの喧嘩を見たことのなかったナルトもふむふむと興味深く観察に参加した。
  ただの物見遊山ではない。ナルトは忍だ。それ故に変装し潜入することもあるし、そういった事例を知っていることによって気づくこともある。書物から、人から知識を得ることはいくらでも出来るが、それは机上の論理でしかなく、はやり実地に勝るものは無い。――そう、決して面白そう、という好奇心と軽い気持ちではないのだ。
 因みに、話がそこに至った時に一瞬シカマルからじとっとした視線を感じたような気がしたが、ナルトは気のせいだと綺麗さっぱり無視をした。
 まぁ、そこまではいいとして、問題はその内容にあった。喧嘩で興奮した際にその件だけでなく他の問題にまで話が飛び火して、より一層燃え上がるように、最初は女性が男性の方がちらりと自分ではない他の女性を厭らしい目で見たというものだったのに、いつしか過去に起こった喧嘩や事件などで抱いた不満暴露大会のような内容に発展し、盛大に罵り合っていた。 その罵り合いの最後の方には隠していた不満が大きな爆弾となり、凄まじい威力で互いに攻撃しあっていて、その最後の大きなものが、「アンタなんてこの世界からいなくなっちゃえばいいのよっ!」というものだった。
 騒がしい筈の商店街から喧騒が一瞬消えたような沈黙が生まれた。積んだな、とナルトが感じたように周囲も思ったのかどうかは分からないが、どう考えてもこのカップルは終わりだなという空気が周囲からも感じられた。
 言ってはいけない言葉だった。女の方もハッと口を閉ざし、顔色を青くした。恐らく、心の底からの言葉、というよりもついヒートアップしすぎて口が思わぬことを口走った程度の覚悟からの言葉だったのだろう。男も同じように顔を青くし、そしてそれは次第にその直前そうだったように赤くして怒り、「なら、望みどおりお前の前から消えてやる!」という言葉でその騒動に終焉を告げたのだった。
 きっと、あの沈黙が分岐点だった。そこで沈黙を選んでしまった彼女の行動が本当の最後の一押しだったの違いない。ナルトは自分の言葉で終わってしまった事に愕然としながら座り込み、泣き崩れる彼女の姿を見ながら、そっとその場を後にした。
 後に、風の噂で彼らが十年も付き合い続け、周囲からはバカップルだと言われるぐらいのベタベタ甘々な恋人同士だったのだという事を、そして本当に寄りを戻すことなく別れてしまったのだという事をナルトは知った。
 その後というのが実は昨日の事で、目の前で見た人の縁の終焉を思い出し、十年というまだ歳若いナルトにとっては人生の半分以上にもあるその長い時間の付き合いでさえも、あっけなくあっという間に終わってしまうものだとよくよく教えられたのだ。そして次いで、彼らの喧嘩の中で出てきた、いなくなってしまえばいい、という言葉を思い出した。

 ――そして、想像したのだ。 自分がいない、消えてしまった世界はどうなるのか。




…と、こんな感じのお話です。1作目の冒頭を掲載させていただきました。
全体的にシリアスしっとりなお話です。時折笑えて息抜きできたら…という部分もあり。
サンプルで感じ取れるようににシカナルなんですが、作品によっては←イノものもあります。

様々な設定を気軽に楽しむ、というコンセプトに、「手放せない恋のお題」をお借りして5作書きました。
片思い、両片思い、恋人設定から、ちょっと戦闘モノだったり、オリジナル要素強めのだったり…と色々と違うので楽しめると思います。


オリジナル設定、特殊設定が苦手な方はお気をつけください。




SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送