花 酔   ―Sample―





1;月の光は届かない より一部抜粋


「蒼輝! 無事に終わったわよ」


 どう?と嬉しげに促す紫姫の視線に促され、それを追う。確かに綺麗に痕跡なく整えられていて問題は見受けられなかったので縦に頷けば、歓声があがった。
 この程度で喜びすぎだと思ったが、しかし、暗部に所属するようになってからこなした任務の数はそこまで多くはない。紫姫の場合、自分やシカマルと同じように暗部だけでなく、普段は中忍としても動いているのだから仕方がないだろう。
  平均的に万遍なく才能があり、筋も悪くないが、しかし、特出する才能がない彼女は流石に蒼輝の片腕と呼ばれる黒月のようにはいかないが、それでも使える人材だ。暗部に入りたいと希望した頃と比べたらその実力もぐんと上がっていて、今では高レベルな任務でなければ一人で任せられる程度に成長していた。暗部に所属する歴史が浅くとも、下手な部下よりよかった。
  それでも、中堅というよりはまだ新人に属する彼女が、何度も己との任務の希望を出したものの、まだそのレベルには達していないということで素気無く却下されて早数年、ようやくここ最近それも許されるようになったのだ。しかも、自分達と組んでの任務で主にメインで動いたのはまだ片手ほどだと思えばその喜びも仕方がないのかもしれない。――自分が初めて暗部の任務に付いていった時のように。
  その時の事をふと思い出して、彼女の姿と過去が被り、暖かい気持ちと共に胸にしくりと痛みを感じた。 面白いものだと思う。人とは違う異形の存在を腹に宿す己は人よりも遥かに丈夫な体を持つ。軽い怪我ならば直ぐに治ってしまうほどで、その影響か痛みには強く、軽度ならば痛いとも思わない。けれども、過去の事を思うだけで、まるで全身を切り刻まれたような痛みを覚えるのだ。
 思わず嗤い出したくなる気持ちをナルトは綺麗に覆い隠した。騒がしい奴だと悪態をつく黒月に、それを流すことなく噛みつく紫姫の常となってしまった騒がしい様子に、いつもならば呆れ半分、怒り半分で受け止める状況も、今はそれが幸いして気づかれてはいないなと確認して安堵を覚えた。
 任務は任務であったが、実際のナルトは引率の保護者のような存在で、はっきり言って働いた気はまったくしなかった。己としたことが気が緩んでいたのだろうか。今宵の自分はどうやら必要以上に感傷的すぎるようだった。
  疲れ知らずに未だに喧嘩を続けている二人の内の一人、彼女――紫姫、という暗部名を名乗るイノにそっと視線を向けた。任務中は邪魔にはならぬようにだろう、黒衣の頭巾に綺麗に収められていた長い髪は、今は解放されて風に気持ち良さげに揺れていた。
  出会った頃より随分長く伸びた淡い蜜を溶かしたような長い金色の髪に新緑を映したかのような翠の瞳。月明かりも星の輝きもない今宵でなければ細やかながらも闇を照らす明かりを浴びてもっと美しく感じられただろう。イノのそれに、まったく同じではないが、酷く近い配色の大切だった存在を思い出さずにはいられなくて、僅かに目を伏せた。――誰かを見るのに、その他の誰かを重ね合わせるなど失礼だ。


「蒼輝?」
「どうした?」


 常ならば止めるまで続く諍いがいつの間にか終わっていて、四つの瞳はこちらへと向いていた。いつにない失態の連続に心の中で舌打ちをして、素知らぬ表情を浮かべる。


「別に。いい加減オレも止めるのに疲れただけだってば。静観していればいつ止まるか待っていただけだってばよ」

 予想通り止めるまでもなく終わっただろう? 痴話喧嘩は犬も食わないぞ、と笑みを浮かべれば、二人とも真っ青な顔色になり非難の声をあげたが、ナルトは気にもしない顔を作ったまま、足取りを里の方へと向けた。




…と、こんな感じのお話です。1章の真ん中辺りを抜粋して掲載させていただきました。
全体的にシリアス目なお話です。多分、ここは明るい方です。

年齢は原作時の第2部終了辺り。(簡潔してないので推測)
といっても、二人の年齢的な感じなものなので、原作の進みとまったく関係はないです。18才程度ね、ぐらいだと思っていてください。
もちろん、スレナル。
シカナルいの設定の中期なのでシカマルもイノも暗部設定になっております。


オリジナル設定、特殊設定が苦手な方はお気をつけください。




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