Twilight glory   ―Sample―





1;水を請う魚 より一部抜粋


「そういえば、今回は誰と組むんだ?」


 とりあえずではあるが、吹っ切れた今、誰なのかと気になって問う。誰なのか分かれば、今回何が己に足りなかったのか分析し、次回への対策へと繋がる。再度、同じような羽目にあうのは御免だった。
 しかし、ナルトから名前を聞いた瞬間、聞かなければよかったと思わずにはいられなかった。きっと、何とでもない様子でさらりと告げられると思っていた。けれど、違ったのだ。


「――海(かい)とだってば」


 蒼い瞳は喜びの感情を映して僅かに細まり、優美な弧を描く唇は楽しげに上を向いていた。その声もまた、蒼輝というには余りに暖かく、周囲へと演じるナルトにしてはとても穏やかで落ち着いていた。例えるならば、愛しい大切な者の名を呼ぶように。
 その名をシカマルは知っていた。会ったことは一度も無いが、かつて蒼輝がよく共に組んでいたとされる人物で、凄腕の忍だと聞いている。
かつて、と言っても数年前程度。まだシカマルやナルトがアカデミーに通っている時期の頃の話で遠い昔の話ではない。どういう理由か最近は裏の仕事にはあまり関わっていないようだったが、稀に難関な任務をやり遂げたらしいと暗部内で噂を聞くので、怪我を負って忍として動けないわけでもなさそうだし、ナルトの様子から仲違いしたからではなさそうだった。
 先ほど抑えたはずの負の感情がシカマルの心をじわりと増え、侵食していくのが分かる。わかっている。決してそこにあるのが恋情による愛しさではないことぐらい。海という人間を語るその瞳は温かくとも、己へと見せるものとは天と地ほどに違う。恋という熱はそこにはない。それでも、特別な感情があるのは明白で、それが嫌でしかたがなかった。

 ――特別を作ろうとしないナルトの、特別な存在。

 こういう感情を持つのが愚かだということも分かっていた。厭世家なナルトが今の自分に対して丸くなったものだと称す程、昔はもっと荒み具合は酷かったらしい。実際、常に嫌悪の視線を向けられ、隙あれば殺されかけた事が何度かあったというのだからそれも仕方がないことだろう。寧ろ、それでも尚、里を抜ける事無く忍として在り続けているこの状況はまるで奇跡のように思えた。自分ならば早い段階で全てに見切りをつけている。そんな過去がある故に、心許した極々一部の者しか近くに寄せ付けぬ彼が、傍にいることを許した存在。それは、幼き頃の彼にとって暗闇に差し込む一筋の光のようなものなのだ。
 海という忍には会ったことはないが、ナルトにとって同じような存在ならば何人か知っている。その筆頭は三代目だろう。自分への悪意に満ちた世界の中で差し伸べられる手の持ち主達は彼にとって、存在し続ける為の最後の楔のような存在だった。
生への執着を持たず、敢えて死のうとは思わないが生きたいとも思わなかった彼が、生きる、という選択をしたのはその彼らの願いを叶えたかったからだ。
 そこに恋情はなくとも、愛情はある。けれども、それさえも否定するのは愚かだ。彼が今の彼で在れたのはそのお陰なのだから。全てはもしかしたらの仮定でしかないけれども、きっと今のような形で出逢うことはできなかっただろう。少なくとも、希少ではあるけれども、ふわりと花が綻ぶように笑うナルトの姿は見ることは叶わなかったはずだ。
 だから、シカマルが持つべき感情は嫉妬ではない。寧ろその逆の感謝の気持ちだろう。ナルトの存在を受け入れてくれてありがとう、大切に思ってくれてありがとうと思うべきなのだ。けれども、頭ではわかっていても上手く感情が操作できなかった。
 ――あぁ、なんて、未熟なのか。


「――早く終わらせて帰って来いよ」


 けれども必死にそんな醜い感情は隠す。困らすだけだと分かっているから。ただ、先ほどみたいに綺麗に笑える自信がないから、再度ナルトの身体を抱き寄せて、その首元に顔を埋める。そうすれば顔が見られることはないから。
 ナルトはその抱擁を不信に思う事無く受け入れて、首元を擽るシカマルの髪に擽ったそうに微かに笑い声を上げた。




…と、こんな感じのお話です。1章の後ろの方を抜粋して掲載させていただきました。
全体的にこういう雰囲気に溢れたシリアス目なお話です。

年齢は原作時の第一部中期ぐらいの三代目ご存命辺り。といっても、二人の年齢的な感じなものなので、原作の進みとまったく関係はないです。
もちろん、スレナル。
シカナルは恋人設定。しっかり恋人設定(重要なので二度いいました/笑)
蒼輝、黒月ですが、シカナルいの設定ではないです。まったくの別設定。(敢えて言うならサイトにある「作品的時間軸+設定説明」での*2設定)


オリジナル設定、特殊設定が苦手な方はお気をつけください。




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