楽園の檻   ―Sample―





01;楽園の主  ――途中より抜粋――


  綱吉のお気に入りの温室、室内庭園はいつも鳥達の鳴き声と噴水の流れる水の音を除いては静けさに満ちている。それもそのはず、綱吉が生活する屋敷には何十人もの部下やメイド達がいるのだが、この温室にはその中のほんの一握りの限られた人物しか入ることができないようにしてあるからだ。美しい庭園の維持に必要な庭師さえも必要最低限の人数で身辺がしっかりとした者ばかりだった。
 屋敷の主人は綱吉ではない。それはまだ少し先の話だ。ここはボンゴレの本部とも呼ばれる屋敷であり、巨大なイタリアンマフィアのファミリーの拠点で、その屋敷の主人といえば、そのファミリーのボスの事を指していた。今は初代から数えて九代目の老人が務めている。
 彼は綱吉の祖父ではない。それなのに日本人の自分がどうしてこのような屋敷でそんな我侭を通せるかと言えば、綱吉が十代目筆頭候補だからに過ぎなかった。
 候補と言っても、他の候補者などいないのが現状で既にその将来は確定しているも同然だった。かつていた多くの候補者達は己が息を潜めている間に互いに盛大な潰しあいを行った結果、相打ちで今はもう居ない。残っているのは祖父の子供のザンザス一人で、その彼も今は候補から溢れてしまった。よって、たった一人の後継者である綱吉はそれ故に既にそれ相応の教育を受けており、それなりの権力を既に手にしていた。
 その主な例が室内庭園だった。この庭園は温室になっておりは常に一定の温度を保たせなければならず、その維持にはかなりの金がかかる。花の手入れも同様だ。年中美しい光景を維持するには小まめな植え替えや剪定、水や肥料に至るまで随分と手間と金が酷くかかるのだ。
それが小さな温室でも大変なのに綱吉の庭園はとても広いので尚更だ。恐らく、今は既に朧気になってしまった過去、日本に住んでいた頃の自宅の何倍も広い面積だろう。一般家庭には到底支払えぬ維持費だ。そんな温室は綱吉の管理下にきっちり置かれており、容易には近づけぬプライベートな場所になっていた。
 綱吉がこの場所に居つくようになったのはもう随分と前の事だった。まだイタリア語も拙く、日本語でさえも舌足らずに話すような幼き頃のこと。物心ついて直ぐに日本からイタリアへと渡ったものだから日本での記憶は酷く朧でしかない。そのぐらい遠い昔のことだ。
 幼い綱吉はまだ母親の愛情と手を必要としていたが彼女は綱吉の傍にいることは許されなかった。危険だからだ。当時は今以上に綱吉の立場も不安定で、色んな危険が身近で頻繁に命の危険に晒されていた。それでも、日本からイタリアへと母親と切り離され渡らされたのはそんな危険を代償にしてでも九代目の手元に置いた方が直ぐに対処できるし綱吉の命の危険が少なかったからだ。事実、九代目の腹心の部下や家庭教師であるリボーンが綱吉の命を幾度となく守ってくれたお陰で助かっている。
 そんな綱吉の傍に母親である奈々が居ては格好の弱みになってしまう事を恐れたのだ。その件に関して奈々は随分と反論したらしいのだが、結局は子供の、つまりは綱吉の命の危険性を一層強める事を危惧し受け入れたのだ。お陰で彼女は血生臭い事からは一切引き離された平穏な日本でこっそりつけられた精鋭の護衛に守られて穏やかな生活を送っている。
 正直な話、幼い頃はその事を随分と恨みはしたものだけれど、自分の置かれた状況をよく理解した今となっては母親の安全を作り出してくれた事に感謝しているぐらいだ。血潮を、硝煙の臭いを嗅ぐ度に、心が感情を捨てひんやりと冷たくなる度に。
 あの頃は心許せる人などほんの僅かで、心安らぐ時など殆どなかった。日常が腹の探りあいと殺し合いで、少しばかり同年代の子供よりも聡く、勘だけはやけに働く子供の心が見る間に荒んでいくのも仕方がないような環境だった。
 そんな時に見つけたのが室内庭園だったのだ。子供には少し思い扉を両手で押して入るとそこは別世界のようだった。既に今のような美しい姿で整えられていたが、来訪者も少ないだろう温室は美しくもどこか寂しげだった。けれども、その美しい光景と暖かな温度に少しだけ荒んだ心が癒されたような気がして中をゆっくりと散策した。
 散策を終えた後は噴水の傍にあったベンチに腰をかけて、何時間も時間が許される限りそこに居た。それを毎日のように続けて半月も経った頃にはその綱吉の行動を既に耳にしていた九代目から、その温室への立ち入り制限などが設けられるようになったのだ。全て綱吉の安全の為に。
いつしか温室にはソファーベッドが設置されたり簡易の給湯設備が設置されたりして綱吉が何時間そこにいてもまったく不便さを感じないように作り変えられていき、温室の庭園もより念入りに手入れされるようになった。そして月日が年単位で過ぎる頃に綱吉は九代目から誕生日に正式に庭園の主となったのだ。
 ――けれど、今の主は自分ではなく彼なのかもしれない。
 ふとそう思った。そこにある感情は決して不快なものではなく、むしろ喜びさえ存在している。自分が好むものを好んでくれた事がただ嬉しかった。そして、この温室の存在が彼を留める一つの理由になっているのなら、自分以外の誰かがここに長く留まる事がこれ程嬉しいことはないだろう。

「ヒバリさん?」

 やはり彼は綱吉が予想していた場所にいた。白く可愛くも美しい薔薇の垣根の後ろ側に設置されたベッド。疲れているのにも関わらず部屋にいるよりはこの場所を好んだ自分の為に少しでも身体を休めるようにと九代目が置いたものだ。そこベッドの上に、薔薇と同じ白色のシーツに埋もれるように包まって眠る黒い塊、綱吉の客人である雲雀恭弥の姿を見つけると、綱吉はふっと顔をほころばせてその名を呼んだ。






…と、こんな感じではじまるお話です。一章の一部分を掲載させていただきました。
全体的にこういう雰囲気に溢れたラブストーリーです。
話的にヒバリとの直接的な絡みが少な目なんですが、精神的にはとってもヒバツナです。
尚、69→27要素あります。リボもかな?

高校生ぐらいの歳設定。ヒバリさんは守護者ではないです。
綱吉は幼い頃からイタリア。ヒバリさんは日本育ち。
一応スレツナ…というよりボスツナ?な感じです。ツナ様です。




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