月華の庭 〜幻想郷の住人(2)〜 リルの予想と反して首都ティティアには意外と楽に行くことができた。 もちろん、この場合の楽というものは想像よりも、ということで、決して悠々と着いたわけではない。 一般的にティティアまで片道は馬でも約一週間、徒歩のみでいったら約2週間はかかるとされている。 そこを、荷物を運ぶ馬車に乗せて貰ったりなどして、なんとかリルはこの長き道のりを、1週間と2日で着くことが出来た。 普段からの人当たりの良い明るい性格と、「乗せてくださいv」という言葉と満面の笑顔が幸いしたのだと思われる。 まぁ、カワイイ女の子から「お願いですv」なんて言われて断る者などあまりいないだろうが…。 ともかく、女1人という非常に危ないとされる旅だったが、こうしてリルは無事にティティアに着くことができた。 これが初めての旅にしては上出来であると言えるだろう。 ――首都ティティア 「月下」最大の都市であり、女神ユイ・ユエの恩恵を一番承けていると言われている。 この場合の恩恵というのは明確ではないが、とにかく一番の恩恵を承けているということらしい。 まぁ、「月の愛し子」が一番多く輩出されているのはティティアらしいのだからそうなのであろう。 ともかく、この都市は「月下」では一番《月華の庭》に近いのだろうと今でも思われている都市であった。 「月下」最大と言われているティティアは、その噂通り広く、そして人口が多い都市だった。 今まで、辺境の小さな村に住んでいたような者には何か圧倒するようなものがある。 「はぁ。無事に着いたのはいいんだけど、この広い都市の何処にあるって言うのよ〜!!」 ティティアに着いて、ここまで馬車に乗せて貰ったおじさん別れを告げた後のことだった。 リルは思わず叫んでいた。 なにせ今まで一日もあれば十分村を何周も出来るというような村に住んでいたのだから無理もない。 この広い街の何処に《月華の庭》の手がかりがあるのか…。 考えるのを拒絶してしまいたくなるのは当然の反応だろう。 だか、ここは街の大通りの真っ只中だった。 はっと気づいて慌てて口を押さえたがすでに遅い。 周りの者はすでにその大声につられてリルをジロジロと不審な者を見るような目つきで見つめていた。 ヤバイ…。これじゃぁ、妖しい人だわ。 リルは少しでも早くこの視線から抜け出そうとそそくさとこの場所を後にした。 自分の顔を記憶されていないことを祈りながら…。 逃げるようにあの場所をさり、大分離れた場所で呼吸の乱れを直した。 「ここが村じゃないってこと忘れていたわ。」 叫ぶということはリルにとって日常的なこととだった。 それ故に忘れていたのだ。 辺境の村などというものは少人数で構成されているものであり、いわゆる村中が親戚同士というような一体感を持っているものである。 よって、リルが大声を急にだしたとしても、「今日も元気ね〜。」なんて言葉がのほほんと会話が交わされる程度のものなのであった。 「まぁ、今度から気をつければいいか!それにしても、どうしようかな〜。」 場所のあてが有るわけでもなかった。 それに、知り合いも誰1人としていない。 出来ることは少しでも早く、多くの手がかりを見つけることだけだった。 早く、早く見つけないと…!! 時間が限られていることによっての焦りが生まれる。 リルは村の位置する方向を見つめた。 赤々とした夕日がリルの顔を赤く照らす。 暮れていく空が今日の捜査を諦めるように訴えているようにリルには見えた。 焦っても仕方がないと諭しているように…。 「今日はもうゆっくり休もう。その分、明日は早く起きて頑張ろう。」 決めるやいなや、リルは安宿を求めて街を歩き回った。 やっと見つけた安宿で部屋に通された頃には疲労はピークに達していた。 なれない初めての旅を1人で、しかも唯一の肉親のためにと休憩をあまりとらずに来たのだから仕方があるまい。 固いベッドなど気にもならなかった。 ただ、ただ、目的にまで一歩近づけたことの嬉しさと久しぶりのベッドが嬉しかった。 街へ無事に着けたことで緊張が解けたのだろうか。 すぐにリルの意識は深い闇の中へと落ちていった。 窓からは月光が疲れを少しでも癒そうとするかのように優しくリルを包んでいたのだった。 誰も彼女の眠りを妨げないようにひっそりと…。 月の癒し、包み込むような優しさと代わり、太陽の元気を漲らせるような光が窓から射し込んでいる。 リルは窓に留まっている鳥の歌い声で目を覚ました。 首を曲げてぼ〜っと壁に掛かっている時計を見るともう11時である。 ガバッと跳ね起きた。 「寝坊しちゃった〜。朝食…ってもう昼食しかないかな〜。」 急いで、いつもの着慣れたグレイの上着に白色の半ズボンに着替えた。 髪も邪魔にならないように、横髪を少し残して後ろで括った。 着替えると、さっきまでまだ少し眠っていた頭がスッキリとした気がした。 「さて、行こうっと!」 気合いを十分にいれ、部屋を飛び出すと宿の女将さんに会った。 なんでも、そろそろ後かたづけをしたいからと朝食を食べるかどうかだけ聞きに来てくれたらしい。 親切にも朝食をわざわざ取っておいてくれていたらしかった。 リルはお腹が空いていたのでありがたく食べることにした。 食べている時に話して知ったが、この親切で気の良い女将さんは、なんでも昔に子どもが病気で亡くなったらしく、生きていれば同じ年齢ぐらいらしい。 リルのような少女が1人でここに泊まりにきたことを気にしていてくれたらしかった。 自分のような見ず知らずの人間を心配してくれたことがとても嬉しかった。 彼女なら自分の目的を話しても真剣に聞いてくれ、相談や力になってくれるかも知れないとリルは思ったので話すことにした。 想像通り、彼女は同情してくれ、知っている限りのことを教えてくれた。 と言っても、彼女も伝説とでしか知ってはいなかった。 《月華の庭》を見たことが有るわけでもない。 だが彼女は職業柄、泊まりに来た客から少しだけ聞いたことはあった。 《月華の庭》は伝説にあるように実際に存在し、願いを叶えるらしいと…。 それも、医者と同じく噂だったが、それでも可能性が0ではないことが分かったことがリルには嬉しかった。 リルは彼女に巡り会わせてくれたことにただただ、月の女神に感謝したのだった。 |
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