こんなに触れられそうなぐらい近くにいても

それでも俺とお前との間には深い溝があって

超えられそうで超えられない

まるで境界線

心に触れられるのはいつ…?









border line














「バカは死ね」


なんの感情も持たぬような淡々とした口調だった
無涯のそんな態度がさらに彼等の激情に触れたのか一斉に飛びかかってきたが、彼はあっさりとそれを避けた


「…勝てる自信があるなら来い。俺は無駄な争いは好まん」


殺気だった彼等をものともせず、相も変わらず淡々とした無涯の表情に彼らは僅かに怯んだようだった
各が明らかに向こうの方が上である


「…っく!」


その内の一人が捨て身は覚悟とばかりに飛び出そうとした
そんな彼ら見て無涯はひっそりと溜め息をついた
やっぱり馬鹿は馬鹿らしい、そんな感じだった


「…やめな」


突然のその声に彼らの動きが止まった
…猿野だ
黒のカッターと同じく黒の細身のズボンを着こなし、所々にシルバーのアクセを身に付けた彼は昼間とはまったく違った雰囲気を纏っていた
言うなれば、昼間は動で、今は静
まるで、流れ行く清らかな水のような静けさを持ちながら、その実、時に人々に脅威を与えるように、どこまでもはかりしれない
その身に纏う近寄りがたい空気はクッキリと彼らとは境界線を引かれているように異質なものだった


「こいつはお前達が何人かかったって倒せやしねーよ。そうだろ、屑桐さん?」
「…まぁな」


無涯はあっさりとその猿野の言葉を肯定した
だが、反対に男達は悔しそうな表情をした
無涯の言葉にプライドが傷付いたとかそんなのではなくて、彼、猿野にそう言われた事が悔しかったのだ
まだ、自分は少しも彼に近いものではないと言われたようで


「そんな顔すんなよ。今回は相手が悪かっただけだ」


な?と綺麗に笑った
その言葉に救われたような表情をした彼らを見て、彼らに対する猿野の影響力を見せ付けられたような気がした
まぁ、普段の十二支のあいつ等を見ていても思ったが







彼らが去ってゆき、二人になった
無涯の存在を知っているくせに、存在しないかのように1人歩みを進める猿野の後を付いていく
夜のネオンが眩しい繁華街を抜けて、路地まで辿りついた時、猿野は振り返った


「…で、何しに来たわけ?こんなトコまでワザワザ。捕まると部停もんだぜ?」
「お前に会いにきたに決まってる。行動は早いほうがいいからな。…捕まって困るのはお前もだろ?」
「報われないと分かってるのにごくろーさま」
「報われるさ」
「大した自信家だな、アンタ」


鼻でフッと笑われたかと思うと突然、携帯の着メロらしき音が流れた
この曲は、そう、トロイメライだ
無涯は綺麗だが、その場違いな曲に眉を寄せた
自分は持っていない上、マナーが悪い者が多いので、どうしても携帯という物が好きになれなかった
だが、辺りを見回してもこんな路地に二人以外はいるわけがない
当然、その音の持ち主は彼だった


「どうした?…あぁ、うん、悪ぃ。ありがとな」


ふと闇が弱まったような気がした
電話越しに相手に微笑む彼は、無涯の知っているどの猿野とも違って
彼自身は気づいていないだろうが、誰に対する時よりも嬉しそうな表情だった
きっと、こんな表情が見れるのは一握りもいるかいないかで、無償に電話の相手に腹が立った


「っ!何しやがる!!」


猿野は横暴な無涯の態度に怒り狂う
いきなり自分の携帯を取り上げられ、会話中にも構わず切られたのだから当たりまえだ


「俺といる時に他の奴と話すな」
「あぁ?何いってやがる。あんたが俺にそんな事いえる権利どこにもないんだ」


返せ、と怒りながら、静かに無涯に近寄った
しかしそれは無表情に近い表情で、それが一層、彼の美貌を際立たせる
背筋がぞくぞくとした
これこそ、無涯の知っている猿野で
あいつらは知らない彼で
この彼だけでいいと思った

あんな表情を他の奴にする猿野なんていらない


「何を笑っていやがる?」


訝しげに眉をひそめる猿野とは対照的に無涯は楽しくてしかたがないといったように笑っていた
答えが帰ってこないのが分かると猿野は無視することに決めた
が、携帯を取り戻そうと手を伸ばすとその腕を捕まれて引き寄せられた


「なっ!んっ…」


油断した猿野の唇を無理矢理奪い、貪る


「なにすんだっ!」


力一杯突き飛ばされる


「ごちそうさま」


そうニヤリと笑う無涯に猿野はカッとした
よりにもよって、こいつに二度も奪われたのである
腹ただしいことこの上ない
口をゴシゴシと擦するように拭く


「傷つくな、そう邪険にされると」
「むしろ、傷つけ。俺に二度と顔を見せるな。消えろ」


取り付く島もない猿野の態度に無涯は肩をすくめた
どうやらちょっとやりすぎたらしい
だが、後悔なんてなかった
怒りであろうとも、コレで今、彼の中は自分のことでいっぱいなのだ
嬉しくて仕方がない
まぁ、この事を伝えようものなら、本気で縁を切られそうなので言わないが、自分の身に何が襲い掛かるのか想像するに恐ろしい
適度に彼の心を掻き乱して、逆鱗に触れすぎないようにつかず離れず
そして、忘れた頃にやってきて、それの繰り返す
そうして、彼の中で俺のスペースが広がればそれでいい
まぁ、それだけで満足できるたまではないが
欲しいものは何としてでも手に入れてくれてやる


「またお前に会いに来る」


あっさりと携帯を手渡し、猿野に背を向けた


「来るな。迷惑だ」


ものすごく冷めた声での態度
携帯で会話していた彼とはまるで正反対で、その道筋までは果てしなく遠い
だが、彼を狙う、牛尾や、その他大勢の奴らよりは短いはず
まぁ、ここから先、上手く進めるかどうかは自分次第ってことだ

最後に、振り返ってこっちを睨んでいる猿野に挑戦的に笑った


「好きだぞ」
「俺は嫌いだ」
「まぁ、今はそう言ってろ。まだ、始まったばかりだしな」


そう、まだ恋の戦力は始まったばかり
まずは、このきっぱりと引かれた境界線を取り計らうことが先だ


「始まってもねーよ。永遠にな」


こちらも無涯に挑戦的に笑った


「まぁ、見てろ」
「楽しみに見物しててやるよ」
「いつまでその余裕があるか…」


お互い、しばし睨みあったが、どちらともなくその視線を外し、正反対に歩き出した








「…強敵だな」


闇夜に溶けるように消えた猿野を思い出して、無涯は1人呟いた
なかなか心に立ち入ろうとさせてくれない猿野も
そして、彼の電話相手も…


「まぁ、その方が面白いがな…」


フッと微笑みながら、次はどうしようか、そんな事に思考を巡らせながら、無涯は家へと向かった


















***あとがき。***
モノカキさんに30のお題、NO.8の「境界」より、border lineですvそして、お久しぶりの屑猿デス!
ちなみに、今回のこのお話、前に書いた屑猿の続きとなっておりますv…つながってる?(おい)
さて、今回の作品は、相互リンク記念にすえ様に捧げさせていただきますv
しかし、リク内容が確か「喧嘩してる無涯さんと天国で前作の続き」だったような…ι
…どこに二人で闘ってる場面が?綺麗に続いてないし、あんまりラブってないιてか短いよ!!も、申し訳…ιしかも、お題でかいてますしιいや、これはたまたま題名が被ってることに気づいてしまって…。テヘv(殴)
ちなみに、電話相手は沢松ですv名前だそうかと思ったけど自粛しました。これは屑猿だ!!って(笑)でも、暴露したら意味ないですね、あはーι(死)

ではでは、このような作品でよろしかったら、どうぞ、お受け取りくださいませv
相互ありがとうございましたv今後もよろしくお願いします★


03.10.19  「月華の庭」  みなみ朱木







SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送