音楽が鳴り響く
あぁ、確かこの音色は君の為の音楽で俺の為の音色











示す音













「誰かの携帯なってるっすよ?」


子津の声にみんなは一斉に自分の携帯を確認する
鳴っているのは音楽
だから違うと気付くのも早そうなものだが、つい自分の携帯を確認してしまう辺り、携帯に依存している現代の若者らしい
しかし、未だに鳴き止まない音楽に一同は困ったような表情をした
こうなると余計にその鳴り場所が気になってしまうのは道理というものだろう
みんなは一斉に発生源を調べ始めた


「あ!ここでなってるよ!!」
「本当だze!」
「ここって、猿野君のロッカーじゃないっすか?」


ようやく分かった音の発生場所は天国のロッカーで
子津のその声で一斉に天国に目線を向けた
そこにはいつもの彼とは少し違って、ロッカーの方に穏やかな、いや、嬉しそう表情を湛えている天国がいた


「鳴ってるっすよ?」
「あぁ、知ってる」


慌てない天国に子津は不思議そうな表情をしたのが分かり、微かに天国は笑った
確かに、自分の行動は不思議だろうな、と
そして、ゆっくりとした動作で立ちあがり、ようやくロッカーへと向かって鞄から携帯を取り出した

その頃には音楽が止んでいて・・・


「大丈夫っすか?」
「何が?」
「電話だったんじゃないっすか?長かったですし」
「いや、メール。それに、大体内容は分かってるしな」
「それならいいんっすけど…」
「ちょっとさ、曲を最後まで聞きたかったんだよ」
「あぁ、曲ですか。そういえば、長いっすよね、メールにしては」
「最後まで流れるように指定してあるからな」


その、手に取った携帯は深緑色のもの
しかし、野球部のアイドル的存在である彼の携帯はシルバーで有名であって…


「あれ?兄ちゃん、携帯変えたの??番号、変わってないよね??」
「いや、変えてねーぞ」
「でも、シルバーの使ってた、よね?」
「それは、これの事だろ?」


鞄の中を探るようにして出てきたのはもう一台の携帯電話
もちろん、色はシルバーで・・・


「え、2台も持ってるの!?なんで!!?」
「ひ・み・つv」
「えー!!じゃぁさ、その番号も教えてよー!!!」
「嫌だ。コレは特別なのだよ」


そうニッコリと無理だ、ときっぱりと拒否的に笑むと、無造作にシルバーの携帯電話は鞄の中に見事な放物線を描きながら戻っていった
しかし、反対に深緑色の携帯は未だ天国の手の中に、大事そうに収まっていた
彼にとっての携帯の扱いの差は目にも鮮やかだ


「綺麗な色の携帯っすね」
「だろ?気にってるんだ」


嬉しそうに笑う
いつもとは少し違う笑顔で
それに気付くと、なんだか少し切なくなった


「…あの曲」
「え?」
「あの携帯の曲、なんていう曲なんっすか?」
「…なんで?」
「え?綺麗な曲…でも、ちょっと切ない感じだなって。でも、聞いた事ない曲だったんで。てっきり、猿野君はJ-POPを着メロにしてると思ってました」
「綺麗でせつない…か」
「猿野君?」


ちょっと困ったように笑うものだから、どうしていいのか分からなくてオロオロとする
その時、再度天国の携帯が鳴り響く
今度は直ぐに通話ボタンを押す


「なんだ?…あぁ、うん。で?…いや、まだ。分かった、直ぐに用意する。
あ、そういえば、音楽さ。…うん、その。…子津っちゅーが、綺麗で切ないだってさ。バーカ。2度とそんなこと思ってみろ。口を当分聞かねーからな
…そ、わかりゃーいいんだ。それだけは確かなんだからさ」


その相手との会話はなんだか打ち溶けたような感じで、先ほどみたいな笑顔
きっと、この表情は僕達には向けられない

あぁ、きっと相手は・・・



数分の会話を終え、プツリと電話を切ったあと、天国は慌てて帰る支度に取り掛かった
周りは呆然とその姿を見守るだけで・・・
着替え終えた頃に扉の向こうから沢松が天国を呼ぶ声が聞こえた


「じゃ、お先に失礼しますね!」
「う、うん…」
「あ、子津っちゅー!」
「な、なんですか?」
「あの曲はさ…俺の為の曲だ。だから知るはずねーよ。じゃあな!」


それだけを言って去っていく
扉の向こうには、お馴染みの彼の姿が垣間見れた

きっと、あの携帯は彼だけの専用回線
割り込めない間

切ない想いは遂げることなく粉々に壊れていった









「沢松?どうした??」
「いや、ちょっとな」


部室の中から出てきた天国の向こうに、悲しそうな子津の姿に一瞬、目を奪われたのだ
そして、その一瞬で、その表情で全てを理解したのだ
まったく、すぐに人を魅せる、罪作りな奴だ、と隣りの天国を諦め顔で見やった


「なんだ?」
「…作り変えようか?」
「曲?」
「そ。切ないの、嫌なんだろ?」
「…その件の真相については怒ってる。けど…いい。このままでさ。気に入ってるし。なによりあの曲は…」


俺のお前だけの曲だから

そっと耳元で囁く
沢松が嬉しそうに笑うのを天国は微かに感じ取った


「正確には違うぜ?」
「どう?」


不満そうに見る天国に意地悪そうに笑うと、
そっと、耳元に囁き返す
あれは・・・



君への
Love Song













***あとがき。***
 モノカキさんに30のお題「携帯電話」より沢猿←子です。WEB拍手掲載用に書いたので短くてすみませんι拍手にしては長いですがι
 私の中で子津っちゅーはいつも初々しい存在です。だから、こんな感じになってしまう…。ううう。好きなんですよ?子猿。しかし、愛が歪んでく…。ご、ごめんよ子津っちゅー!!
 しかし、やっぱり沢猿は書いていて楽しいです。好きだー!!




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