その時、彼の事が好きだと気付いたのかも・・・










雨の涙














どこがいいのか、
そんな事聞かれても困るのだ
ただ、あの瞬間、突然、自分は彼の事が好きなのだと気付いたのだ


突然の雨
天気予報もあてにはならないものだと、途方にくれる
手元には傘はあるはずもなく、迎えにきてくれる人の当ても無い
どうやら濡れて帰るか、止むまで待つかの2択のようだ
しかし、自分の腕の中には猫神さま
濡らしたくは無い
でも、最終的には帰らなくてはいけなくて・・・
檜は選択に迷い、しばし、待ってからのち判断する事にした
この時期の雨は涼しくなるというよりもジメッとした空気になるのが不快で苛立ちを感じる


「あ…」


そんな時、目に留まったのは一人の茶色い髪をした少年だった

『猿野天国』

普段は好きか嫌いかと言ったら嫌いだと即答するような人物
見なかった事にしようと思ったのだが、何故か目が放せなかった
いつもみたいに五月蝿く騒いでいる訳でもない
ただ、佇んでいるだけ
檜はそっと彼の死角となる場所まで移動した

なぜ、彼がこんなにも気になるのだろう?

髪から頬を伝わり、流れ落ちる雨の雫
物憂げな、気だるい表情
濡れる事も厭わず、ただ、雨の中佇んでいる

まるで、無機質な人形のようだ

しかし、感情のない彼の表情は、普段は気付かない彼の美貌を顕にした
微かに驚きの為に檜は目を見張った

だから?惹かれるの??

そう自らに問うけれども答えはでない
なんだか違う気がするのだ



彼は天を仰いた
初めて、彼の表情が苦痛に満ちたものに歪んだような気がする
しかし、それは外的な痛みの為ではない
内的な痛みによるもの
そんな気がした
自分にも身の覚えがあるから…
外的な痛みはいつか癒える
しかし、心の痛みが癒えるのは難しい
期限があるわけではないのだ


初めて彼のそんな姿を見たような気がした
いや、正確にいうのならば、彼の真実の姿と言うべきか…
普段の彼はきっとこの静謐で悲しい空気をもつ人物なのだろう


「…んで…!!」



−ガシャン!

突然に響く大きな音と声
これは

嘆きの声だ

地面には眼鏡が無残な姿で壊れ、レンズは飛び散っていた
手を見れば血が滲むのではないのかと思うほど握りしめていて、心配になる
止めなければ、と思う反面、この場面に出て行くのも躊躇われた
きっと、彼にとって望む結果にはならないから
出ていけない自分の立場が悔しい

無性に彼に手を差し伸べたいと思った

頬を伝ってポタポタと落ちていく雨が、まるで涙のようにも見える
彼が流した涙かは分からない
だって、泣いているような表情ではないから
それに、きっと、彼は泣けないのではないかと、そう思うのだ

ただ、まるで・・・


「まるで、雨がお前の代わりに泣いてるようだな…」
「…健、ちゃん…」


現れたのは沢松君だった
その手には傘
彼を、迎えに来たのだろうか
ずぶ濡れの猿野君の姿に一瞬呆れた表情をすると、無言で彼に傘を差す
タオルを取り出すと彼の頭をガシガシと乱雑に拭いた
確か、彼の鬼ダチだと彼は言っていた
彼が現れた瞬間、猿野君の張り詰めたような空気が和らいだ
その様子で彼が本当に心から気を許している人物だと気付く


「天国、手、出せ。…自分を傷付けるなよ…」


既に手は怪我をしていたのだろう
沢松君はしぶしぶと差し出された手を見ると眉を顰めた
まるで自分を傷付けたかのように苦痛そうな表情で


「そんな、表情すんな…」
「お前が、もっと、自分を大事にしてくれるなら、しねーよ」


手をハンカチで縛り、応急手当をした後、慰めるように彼の髪を梳いた


「雨は、嫌いだ…」
「あぁ、知ってる」
「苛々する…。どうしようもないくらい…」
「わかってる…」


猿野君は沢松君の肩に顔を埋めた
しばらくして、その行為でようやく少し気が落ち着いたのか、ようやく、顔を上げた

その表情は今までに見た事が無いほど、とても穏やかで・・・

彼の居場所はそこなのだと
安らげる場所があるのだと思った
よかった、と心からそう思う


でも、胸はどこかチクリと痛んで
嬉しいのに
よかったと思うのに
それでも心は痛んで

なぜ?
どうして?

それは…







カレ ノ カタワラ ニ ワタシノ バショ ハ ナイ







その瞬間、気付いたのだ
これは恋なのだと




ねぇ、猫神さま
私は彼の心中に住める…かも…?














***あとがき。***
モノカキさんに30のお題「雨」より沢猿猫です。というか、沢猿←猫?(ちょっと苦笑)要約すれば、当サイトの沢猿猫シリーズものです。WEB拍手掲載用に書いたので短くてすみませんι
このお話は沢猿猫シリーズの始点のものです。「檜ちゃんがどうして天国さんが気になったのか?好きになったのか?」的な事を書かなきゃすっきりしないなーと思ったので。
ちなみに、「この続きの天国さんとの接点を持つ話が「sqaull」(「頑張れ若僧!」掲載)だったり・・・。その次の話は「tear」(これも本)だしなぁ。雨関係のお話が多いなぁ。きっと、檜の傘姿と天国の濡れた姿に萌えを感じるからでしょうか?(笑)あ、あと、傘を持ってきてくれる過保護な沢松氏に!!(爆)
少しでも楽しんでくれたら幸い…

04.09.07「月華の庭」みなみ朱木


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