君の存在

世界にとっての禍か

それとも残された希望か










God's Box
















「キング!」


まるで夜空のような黒髪をさらりと腰まで長く垂れ流し、白石のような白く美しい肌に海のような碧い瞳をもつ美しい女性が一人、窓辺に立っていた
キングと呼ばれた男性、ケリーはその人物の存在に気付くと口の端を少し持ち上げ歓迎の意を表す
すると、喜んだその女性に勢いよく飛び付かれ、そんな元気のよさに苦笑しながらゆっくりと引き剥がした


「…よぉ、天使。相変わらず美人だな」
「ありがとう。キングもかっこいいわ」


さらりとそう返す、天使と呼ばれた彼女、ルウの様子に相変わらずのようだと笑いながら頭を軽く撫でる
厳密に言えば天使は男でもあるのだが、断然、女の方が嬉しいのでケリーはそれを無視した
ケリーの自分を撫でるという行為にルウはくったくのない笑顔で微笑んだ


「どうした、天使?何かあったのか?苛められでもしたとか?」


半分茶化したように明るく尋ねる
しかし、半分は本当に本気で心配していた


ルウは悲しいぐらい純粋だった



周りから禍と同然のように言われたルウはそれも仕方ない事だと笑っていて、そんな運命を受け入れてた過去がある
ケリーにとってそれはせつない気分にさせるもので

とびっきり綺麗で、ちょっぴり物騒で、泣き虫な天使

自分にとってルウはそんな存在だった
決して、禍をもたらすだけの存在ではない


「何かなくちゃ来ちゃダメだった…?」


駄目だと言えば直ぐにこの天使は自分の前から消えるだろう
そして、二度と姿を見せないに違いない
そう感じさせるほどに瞳は不安に揺らいでいて


「いや、お前が急に訪ねてくるなんて珍しかっただけだぜ?…特にその格好じゃ、な。俺は目の保養になって好きだがな」


正しく天使が纏うような服装に身を包んだその姿で、不安気に見つめてくる天使を安心させるようにケリーは二カッと笑う
すると、ようやくルウは安堵したように微笑んだ

ふと、ある話がケリーの脳裏を掠めた


「なぁ、天使…」


ケリーはガラスの向こう側に在るルウの髪のような闇夜を見上げながら、ぽつりと問い掛けるようにルウを呼んだ


「パンドラの箱って知ってるか?」
「パンドラの、箱?ううん」


それってなんなの?と好奇心を伺わせながら首を傾げる
ただそれだけの動作さえも一枚の絵画のように優美で艶かしい


「俺もよくは覚えていないが…、前にどこかの辺境の星で聞いた、その星の御伽話に出て来る、ある箱の名だ」
「御伽話?」
「まぁ、本当は神話らしいが、御伽噺みたいなもんだろう。少なくとも俺にはそんなもんだ」


それ自身が意思を持っているかのように髪がざわりと蠢いた
見る人が見たらホラーに違いない


「なんでも、その話の世界では神々という高位の存在がいて、人間達に、時に祝福を、時に禍を与えていたらしいぜ…。まるでラーの一族みてぇだと思わねぇか?」


そこで一旦区切り、視線をルウの方へとちらりと向け様子を伺えば、ルウは神妙な面持ちで、それで?と続きを促した


「パンドラの箱っていうのは、そんな世界で、万能神ゼウスと呼ばれた神がパンドラと呼ばれた女性に渡した箱なんだとさ」
「どんな、箱なの…?」
「あー、詳しくはよくわからねぇが、パンドラがその箱を開けた時、その箱からあらゆる罪悪・災禍が抜け出て、人々は不幸になったんだとよ。
…だから、パンドラの箱とは総じて禍と同意語みたいなもんらしい」
「…禍?」
「あぁ」


悲しみと諦めに似たような、しかし、それでも必死に笑みを湛えてルウは笑った
それはケリーには痛々しくしか映らない


「まるで、あたしみたいね…禍だなんて…」
「天使…」


いいの、そう思われても仕方ないから、と首を横に振るルウをケリーは顎を掴んで顔を上に挙げさせ、瞳をじっと合わせた
青い瞳はあの星のように美しい
それを曇らせるような事はあってほしくなった


「そんな事を思わせる為にお前にこんな話をしたんじゃねぇよ」


声に微かに怒りを感じたのか、今度は戸惑うようにルウの表情は揺れる


「…キング?」
「最後まで、聞けよ。でなきゃ俺がお前を苛めたみたいだろ?この話には続きがあるんだ」
「…続き?」
「あぁ。…あらゆる罪悪・災禍が箱から抜け出た。けどな、天使。それでも一つだけ残っていたものがあるんだ」


何が?、と視線で問えば、ふとケリーの表情が優しく歪む
それはルウが大好きな、大好きなキングの笑顔で
温かい気持ちになって


「希望だ」
「きぼう…?」
「そう、希望だけが箱の底に残っていたんだ。罪悪や災禍に押し込められていたのさ。そして、自分を出せと訴え、人々へ希望を与える為に飛び出たのさ」


ケリーはあやすようにルウの髪をくしゃりと一撫ですると、ほら、悪いだけの話じゃないだろう、とおどけた様に笑って、続く言葉さえも優しく温かい


「俺はな、天使…。正しく、お前をパンドラの箱のような存在だと思う事があるよ。勿論、悪い意味じゃなく、いい意味でな。
第一、唯の人にだって、それを判別する人間によって善悪が変わるもんだろ?ラーの奴等にとって、お前は確かにいつか、禍を呼ぶかも知らねぇ。
…ま、俺はお前や金色狼に酷ぇことさえしなきゃ、お前がそんな事するわけないと思ってるし、知ってるがな。そう、知ってるんだ、俺はお前がどんなに優しいのかって。
でなきゃ、俺はもうここにいないし、女王だって眠ったまま、チビと孫に至っては生きてるかさえわからん。
お前はそれを、罰せられるかもしれない覚悟を背負ってまで叶えてくれた。感謝してもし足りないぐらいだ。ありがとな、天使…」
「ううん、あたしが好きでした事だもの。キングの事大好きだもの。キングじゃないキングに会うのが嫌だっただけだし、子供たちは、ミアの夢を叶えただけだもの」


その言葉にケリーはもう一度、ルウの頭を愛しげに撫でた


「ほら、そういうところがお前は優しいと言うんだ。天使、お前は俺にとっても、お前をよく知る奴等にとってだって、悪い存在になって映らない。
そう、俺にはお前が、箱に残った希望のように見えるんだ。もう、そんなに落ち込むな。あいつらがなんと言おうと、俺はお前が好きだし、悪しき存在には思わないからな」
「…うん!」


にっこりと、嬉しそうに微笑むルウの表情にそりゃよかった、とキングは笑っていると、おずおずと下からルウが何か言いたい事があるのだろう、見上げてきた
ルウが何がしたいかが分かって、昔からちっとも変わらない無邪気な彼女の様子に内心苦笑すると、両手を差し出した
まぁ、急にされて倒れかけるよりマシだろうし、これはこれで可愛い気がする
ルウはケリーの許可が取れた事を確認すると、その嬉しさを表すが如く、勢いよく飛びついた
その反動で一瞬倒されかけるが、なんとか体勢を整えて、ルウのしなやかな身体を抱き占しめ感触を楽しみながらも一言呟いた


















「ったく、本当に天使が今日は女でよかった。いくら天使でも男に抱きつかれるのは俺はごめんだぜ?」


その言葉に可笑しそうに笑う姿は正しく天使のようで

きらきらと輝く希望のよう











fin











*****あとがき。*****
こんにちは。モノカキさんに30のお題「パンドラ」より茅田作品で天使×キングですv 10万打企画第11弾で大好きな茅田作品より、キング(ケリーさん)と天使(ルウ)の話ですvこの二人の組み合わせが大好きなので、一度書いてみたかったんです!!特にキング愛。彼は誰にも愛される素晴らしい人だと思ってます。いえ、思うでなく、そうなんですけどね☆
整形後もかっこいいけど、整形前の方がもっとかっこいい彼が、70歳を越した時も50歳ほどにしか見えない素敵なおじ様だった彼が心底一番好きなキャラじゃないかと思います。結婚しててもいいよ、私を愛人でいいんでしてくれぇ!と真剣に思います(笑)
今回、「パンドラ」というお題を聞いて、やっぱり「パンドラ」本人よりも箱の方を思いつき、厄災の事を思い出した時、ルウの境遇を思い出しました。本誌で相当最近スキンシップが少なくなってしまった二人の事も思い出し、ここは自分で自給自足だ!キング、天使を慰めてやって!!という気分と勢いで書き上げたので、一部(特にキング)の口調が変かもしれませんが、その辺りは軽くスルーしてやってください!!

では、この話が少しでも気にいってもらえたなら幸いです。

05.10.13「月華の庭」みなみ朱木





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