君は笑いながら指す
薔薇の如き棘で
残酷までに


















「君は気高く美しい。まるで薔薇のようだ」
「・・・・」


なんて陳腐な言葉だ
なんの捻りもなく、自分に酔いしれているかのように朗々と謳う
今時、こんな台詞を使う奴がいたんなんて・・・
希少価値が高いよな、ほんと
あ、でも、キャプもある意味同じか・・・
この国の将来が心配だな
今更だけど

そんな事を思いながら天国は目の前の男から永遠と紡がれる愛の言葉を聞き流していた
もちろん、無表情で

ウンザリだ

男に告白されたって嬉しくもなんともない
いや、女だって、もうウンザリ
上辺しか見ていない彼らには、厭き厭きした

欲しいのは自分にとって大切な人
それ以外はいらない
何も望まない





そもそも、何がいけなかったのか?
そう、全てはアノ父親のせいだ
こういう事になるのが分かっていたから嫌だったのに、無理矢理パーティに出席させられた
一人息子の事に少しも感心を持とうともしない癖に、連絡を取る気もない癖に、こういう時だけだ
そんな事実に吐き気を感じる
しかも、今回は『真面目に』との注意書き付き
あの人は俺を道具のようにしか思ってないのに、いや、思っていないからか、釘を指す
まさか、こんな場で自分が危行に走るわけないだろうに
俺が、自分に取って不利益になる事を臨んでするわけがない
学校でのアレは、ただ単に、周りを欺いているだけだ
何を好んであんな馬鹿をしていると思っているのか
いっそ、その恐れている事でもやってのけようか、とチラリと頭の中を過ぎる
が、悲しいかな
まだ未成年である為に、絶大な力を持つあの人である為に、今逆らうのは得策ではなかった
だから、仕方がないと割り切った
沢松をお供に、真面目に正装をし、真面目に出席した


が、これが問題があったのだ

元々、天国は中性的な雰囲気を持っていた
優しく微笑めば女性とも見えるほどで
もちろん、顔の造作も見事だ
ただ、学校では粗野な印象を持たれるように振舞っているから、そうとは気付かれにくいのだけだ
本人が何もせず、黙ってさえいればふらふら〜と女子ならず男供も釣れてしまうのだ

この、女性のみならず、この男性もという所が沢松が頭を抱えている一因であった
もちろん、本人はそれを望んではいなかった
誰がそんな事で得をするのだ
しかし、釣れてしまうのは仕方がない
今では、それをいかに効果的に利用することに諦めた

天国はプロ顔負けの演技力を持っている
出席さえすればいいのならば、地味に目立たなくいることだってできたのだ
しかし、そこへ、「真面目に」という要望が加われば、
彼にピッタリとよく似合った、洗練されたダークスーツを着こなし、上品に振舞う
常に艶やかに微笑み、聡く、気高く、凛とした美貌
まさに上流階級といったような立ち振る舞い
しかし、決して驕ることのない人柄

理想という言葉があまりにもよく似合う人物に見事に変化を遂げる


よって、今回のパーティでは人がうんざりするほど寄ってきた
しかし、親の命令
邪険にすることも出来ず、微笑みをばら撒く
が、それにも限界というものがある
余りにも周りによって来られるのが嫌になって、外に風に当たりにいったのも不味かった
うっかり、沢松を連れてこなかったものだから、こういうのが釣れてしまうのだ
つまり、馬鹿男が





「君を一目見て、私の心は締め付けられんばかりに痛むよ・・・」


まだ、尚も続く
いい加減にしろ
よくもまぁ、男相手にそこまで讃えられるものだ
ある意味、拍手を贈りたくなった
むろん、する気はないが

・・・あ、ゲンカイ

これでもよく付き合った方だろう
このままでは俺の耳がどうにかなってしまう

あぁ、運良い
というか運が俺の方に向いてきたようだと言うべきか
よくやくアイツも来たようだ
しかし、


「遅い」
「え・・・?」


ようやく俺が反応を見せたかと思ったら、この言葉
相手は意味が分からないという表情を見せた

が、天国はそれを気にせず、相手の男性ににっこりと艶やかに微笑んだ


「すみません。その気持ちは嬉しいんですが、俺にはもう婚約者がいるんです」
「そ、それは知っています!…非常に残念ですが。しかし、せめて!お傍にいさせてくれるだけでいいんです!!」


しかし、相手はその言葉にも挫けなかった
なぜ、こう、自分の周りに集まってくるのはこういう人物ばかりなのだろうか
下僕に望んでなろうと思う、その気持ちがこれっぽっちもわからない


「・・・残念ながら、天国の傍にいられるのは決まってるんですよ」
「お前にな」


男性は突然現れた沢松に驚いた
しかし、反対に天国は平然としていた
それが当たり前のように

天国の傍らに、彼が立つ
彼には及ばないが、彼もまた、容姿が好かった
その二人が並ぶ姿はまるで1枚の絵画のよう


「だから、諦めてください、こいつの事は」


沢松は男性に対して微笑む
それは、余裕とも言えるもので
ぐさり、と牽制を指す


「そう、誰も、俺はこいつ以外を望まない。傍らに立つ事を許さない」


それを微笑して天国は受け止める
その言葉に特別な感情は籠もっていない

ただ、当たり前の事実なのだ
彼らにとっては




あぁ、薔薇が刺す
美しく咲き誇る気高きモノが
棘を纏い
お前はいらないと
残酷なまでに事実を突きつける





男は素直に引き下がるしかなかった
きっと、どんなに足掻いても彼の隣に存在することは認められない
それが分かったから、分からされたから










「・・・沢松」


天国は男性の姿が見えなくなると、沢松に持たれるように体を預けた
あの言葉を聞き流すのに忍耐がかなりいったのだ
疲労がすごい
野球でもこうはいくまい


「ご苦労様」
「…っ、本当に死ぬかと思った!あぁ、なんであんな奴に俺は寒い言葉を聞かされなきゃなんねーだよ!!」


あぁ、寒気がすると暖めるように腕を擦る天国に沢松へ苦笑した


「何笑ってんだ?ったく、お前が居ればこんなことにならなかったのに・・・。来るのは遅いし」
「その点については謝る。けどな?俺は、忙しかったんだ。なんで、今日は比較的、お前に寄ってくる奴がいつもより少なかったと思ってるんだ?」


どうしてだろうなー?とにっこりと笑う沢松に得も知らぬ迫力を感じて、天国は軽く冷汗を流す


「あー、アリガトウゴザイマス」
「ドウイタシマシテ」


お互いに単調に言葉にだして顔を見合わせると、苦笑する


「ったく、疲れた…。絶対に当分は行くもんか!」
「本当にな…。ったく、何を好んで、あいつ等だけでも大変なのに、こういう奴らまで牽制しなきゃ…」


本日、何度目になるか分からない、うんざりとした表情をお互いに浮かべる


「とっとと帰って、家で休むぞ」
「あぁ」


こんな日こそ、二人っきりでゆっくりしたいから


「さて、棘をもう一刺ししてくるか…」





邪魔はいらない













****あとがき。****
お久しぶりのモノカキさんに30のお題、NO.25「棘」です。沢猿ですv
えー、本当はWEB拍手用の短いものを書いてたつもりが、意外と長くなりそうだったので、急遽変更。いつもより、台詞が少なくてごめんなさいι意識しないとすくなくなっちゃうんですι書き始めが拍手用だったからいいか、と思ってたもんでι
ええっと、「棘」。天国さんは、笑顔でぐさりだよなと思って。そう思ってたらなんだかこんなお話に。びみょーな沢猿でごめんなさいιただ単に、ハン猿と牽制する沢が書きたかったんです!
あ、基本設定は、沢猿猫シリーズのです。猫さんに心開く少し前とでも思っていただければ・・・。

この作品が、皆様の心に少しでも留まったのなら幸い・・・

04.05.30  「月華の庭」みなみ朱木




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