それは私にとっての…










precondition of happiness













ぱらりと小さな、本のページを捲る音が聞こえた
彼の後ろから流れるクラシック音楽は読書の邪魔をしないように小さめに
今日はアヴェ・マリア
最近のお気に入りの曲
寒い冬ではあるけれど、今日はいい天気で
窓越しに差し込む太陽の光で中は暖かい
久しぶりの二人っきりの時間に少し寂しいながらも嬉しさでいっぱいだ
檜はそろそろお茶を出した方がいいかもと思い、出していたタロットカードをしまった


カタリ


椅子から立ち上がると微かな音を立った
慌てて彼へと目線をやる
涼やかなシルバーの弦にノンフレームの眼鏡が光できらりと一瞬反射した
その奥の美しく意志の強い琥珀色の瞳は間違いなくこちらを向いている



「檜…どうした…?」



あぁ、読書の邪魔をしてしまったようだ
そっと出て行きたかったのに…



「ううん。…あの、天国、喉渇いたんじゃないかなって、思った…かも…」
「そっか。ありがとな」



にっこりと優しく笑う
その彼の笑顔にどきりと自分の胸は高く早く鼓動を刻む
それと同時に小さな優越感
この笑顔は自分と、沢松君しか知らないって知っているから



「紅茶でいい、かも…?」
「あぁ、檜の入れた紅茶は美味しいしな」
「嬉しい…かも…」



頬が微かに赤くなるのがわかる
密かに猛練習したかいがあったと言うものだ
まっててね、と猫神さまをソファの上にそっと置いて、向かい越しのキッチンへと向かった





紅茶を入れる
温めたポットにはこれまた最近のお気に入りの葉っぱのキーマン
この蘭のような香りが好き
本当はウヴァも好きなんだけれど、これはミルクティー向き
天国はストレートを好むからちょっと向いていないのだ
一さじは自分の為
一さじは天国の為
最後の一さじは紅茶の精の為に…
この最後は素敵なおまじない
紅茶の精に「美味しくしてね」というお願いの気持ちなのよ、とお母さんが言っていた
でも、日本の水では渋くなっちゃうから小さなスプーンに変えておまじないをかける
最後に湧きたったお湯を空気を含ませながら注ぎ、蓋をして蒸れるのを待つ

この時間を待ってるのが一番緊張するのだ
美味しくできるかな?って
大好きな人に飲んでもらうのだから、美味しいのがいいんだもの

そっと向かいの天国へと目線をやれば、真剣に読書中
タイトルといえば…ドイツ語…?みたいらしく読めない…
難しそうなものをすらすら読んでしまうなんてかっこいいなぁと見惚れてしまう
沢松君曰く、「やっかいな魅力」らしいけれど
これを天国が聞いたらにっこりと笑って怒るだろうなぁという光景が目に見えるようでくすっと笑った

ようやく時間を向かえた紅茶をカップに注ぐ
琥珀色の液体はまるで彼の瞳のようだ
ちょうどよさそうな色にほっと一息
ソーサーに自分用に角砂糖を一つ添えて…



「はい…かも…」



そっと前のテーブルに
液体が微かに揺れて香った
ようやく本から顔を離した彼が待ってましたと言わんばかりに笑顔で一口
ドキドキしながらその光景を見守って



「ん、美味い」
「よかった…。嬉しい…かも…」



にっこり笑ってお礼の言葉
美味しいの、その一言に嬉しさと幸せを感じて



会話の少ない静かな空間
それでも、冬の暖かな光、音楽、紅茶、猫神さま
大好きな、幸せになる条件がいっぱい揃っていて
そして、何よりも彼が隣にいて…
もう一人彼がいないのが少し残念だけれど
それでも、


「幸せ…かも…」



そう呟かないではいられない幸せな時間










fin









***あとがき。***
モノカキさんに30のお題より「ふたり」です。拍手用sssなので短くてごめんなさいι
久しぶりに?猫猿ですvしかも眼鏡猿ですよ!沢猿猫シリーズの猫猿ですよー。檜ちゃん大好きです!!
ふと、檜ちゃんが天国の事を思いながら丁寧に紅茶を入れる光景が浮かび、萌えーvとなり、つい勢いで書いてしまいました!変なトコがあったらすみません!!
たまたま二人の話を書いていてお題の「ふたり」が目に付きました。いつも無理矢理お題ですみません。てか、拍手でお題を更新するんじゃないよ、自分…(滅)

05.2.28 「月華の庭」みなみ朱木



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