ふわりと漂う甘い香り
そして、記憶は甦る









キンモクセイ











その木々が生殖するのは、里で一箇所のみだった
金木犀は濃厚な香りを放つにも関わらず、森から少し入ったところにあるせいか
そこは人気もなく、ひっそりと花を咲かせていた
その場所をいのが初めて見つけたのは偶然で、思わず神に感謝した

誰もそこは知らない
教える気もない

自分だけが知る秘密の場所で
賑やかなのも好きだけれど、たまには一人でいたい時だってある
それにはまさにココは好都合な場所だった
花屋の娘なせいか、自身も花は好きだ
綺麗な花も、可愛い花も心が和らぐのだ
むろん、木々も好きなので、花の季節だけではなくとも、この場所はいのにとってお気に入りの場所なのだ





「うーん、今日もいい匂いだわv」


香る華やかな匂いを辿りながら、本を片手に今日も森へ行く
この本を今日中に読破したい
それにはあの場所は打って付けで
むろん、既に小寒くなってはきたが、暖かい格好をしていれば気にはならない
それに、読書の秋に、秋の森はなかなか雰囲気がピッタリだった

ばれない様に、人気に気を配りばがら森へと足を踏み入れる
もう、色鮮やかに紅葉しだした木々を通り越し、少し開らけたその場所へ行くと…


「え…?」


そこには人の気配
今までに一度も無かった事にいのは驚きを隠せなかった
しかも、仮面に黒衣の衣装を纏っている
つまりは暗部ということで…
向こうも同じだったのだろう、仮面の下から微かに動揺した気配を感じた


「キャッ!」


が、直ぐに平静を取り出し、逃げる為だろう、飛び出してきた為にいのは驚いて転びそうになった
しかし、両手は荷物で塞がっていた為と、咄嗟の事で受身が上手く取れそうもなく、
危ないと思わず目を瞑ったが、その次に襲い掛かるだろうと思われていた衝撃はなかった
驚いてゆっくりと目を開ければ其処に映るは仮面の人の姿
その人物に、ふわりと受け止められている


「あ、ありがとう」
「・・・・」


しかし、彼(恐らく、体型からしてそうなのだろう)は無言のまま、そっと、しかし迅速にいのを地上に下ろす
いのが間近で誰だろうか?と認識する間もなく、自分の傍を彼は黒い疾風の如く通り抜けていった
振り向けば既に姿は無い

自分が感じたのは微かに視界を掠める金色
そして、甘い金木犀の香りだけだった…












次にその香りを嗅いだのはアカデミーの廊下での事だった

あの後、しっかり調べてみたのだが、他に人が訪れたような痕跡はなかった
ここ何年もここに通っているというのに、あの時以外に誰かに会った事もないし、痕跡を見つけたこともない
だからこその"秘密"の場所であって…
きっと、自分以外に彼しか知らないのだろうと決定づけたのだった
もう行くのは辞めようかとちらりと思ったが、姿を見られるのは不味いだろうに、自分を助けてくれるような人だ
悪い人ではないだろうと思い、今も暇を見つけては通っている
いや、違う
単純に気になるのだ、彼が
きっと、もう一度会いたいのかもしれない…

それなのに、ある人物とすれ違った時、自分とあの人以外からは香るはずもないその匂いを、微かだが嗅いだ
間違いない、記憶の香りと違わない香りで
この場所では香るはずがないその匂いに、いのは反射的に振りった瞬間、相手の袖を捕まえた


「えっ、なんで…?」


しかし、その人物の顔を見た瞬間、思ってもみない展開に驚いた
よっぽど自分は驚いた表情をしていたのだろうか?
彼も自分のその表情と、急な行動に驚いているようだった
ちょっと気まずい気持ちになる
同じ人物なはずが無い
だって、相手は…


「ええっと、なんだってば?いの」
「べ、別になんでもないわよ!」
「そうだってば?」
「そうよ」


納得いかなそうに首を傾げた
その幼い仕草はまったく彼とは被らない
ましてや、彼は暗部だ
このドベと言われているヤツのはずが無い


「あのさ…」
「なによ」
「…用がないなら、いい加減、離して欲しいってば」
「あっ、悪かったわね」


でも…
彼がこの匂いを纏っているのは事実で
つまりは…


「あんた、行った事あるの?」
「…は?」
「だから、その匂いよ!!」


意味が解らないといった様子だったナルトだったが、そのいのの剣幕と、匂いという言葉に押されるように自身の匂いをくんくんと嗅いだ
周りも珍しいこの組み合わせに顔を見合わせるようにして様子を傍観している
サクラに至ってはナルトと同じように匂いを嗅いだ


「あら、ナルトってばずいぶんいい匂いの石鹸を使ってるのね」
「…そうだってば?貰い物だってば」
「へぇ。いい香りね、コレ」
「うん。オレの一番のお気に入りの香りだってば」


当たり障りの無い回答にいのは少し苛立つものを感じた
いくら、世の中に花の香りの石鹸が流通してようとも、ここまで同じ香りを再現できるはずはない
彼からは作り物でない、本物の香りがしたのだから
その辺りの人間なら騙すことはできたかもしれない
しかし、自分は普段から花と接して生きている
間違えるはずは無い
まして、この里ではこの花の希少価値は高い
知らない人間が殆どのはずだ

いつもとまったく変わらない表情

なのに、それが今は嘘くさいようなモノにしか見えなくて
じっと、自分の存在を忘れたかのように楽しそうにサクラと話すナルトを凝視した
なにもかもが怪しい
思い起こせば、この里に彼のような金色の髪を見かけた事は無い
金髪がいないわけではない
自分もその内に入るのだから
しかし、彼ほどの金髪がいないのも事実
短い間だが、この瞳に映った金は彼にそっくりで…

間違いない、と結論づける

その視線に気付いているだろうに、気付かない振りも怪しい
きっとナルトなのだ
だとすれば、なぜ、実力を隠しているのだろうか?
なぜ、ドベの振りをしているのだろう?
ナルトの事が気になって
知りたいと思って…

サクラに微笑む姿にちくりと胸が痛む

もう一度会いたいと思った
しかし、その思いはもう達成されている
なのに、なぜ、こんなにも胸が痛むのか?

その問いに当てはまる答えを自分は一つしか知らなかった…
サスケ君が好きだと思っていた
でも、本気でもないことも心の片隅のどこかで分かっていて
悔しかったのだ
サクラが楽しそうに彼の事ばかりを話すものだから
だから、つい、張り合うように好きだと思いこんでしまったのだ


そう、これが

恋なのだ…





「おい、いの。遅れるぞ」
「…ってやる」
「何って言った?」
「シカマル?いい所に来たわね。あんた、確か、ナルトと仲良かったわよね?」
「…な、なんだ?突然…」
「聞きたい事があるのよ。ちょっと、付いて来なさい」
「は?授業始まるぜ?それにめんどくせー」
「何?私の言う事が聞けないっていうの??」
「…ソンナコトハ アリマセン…」


不承不承了解したシカマルを待てないとばかりに引きずるように連れて行く
視界の片隅で笑うナルトに心の中で「待ってなさい?」と宣言する
自分の中の思いさえ確定されれば、あとは突っ走るだけだ




「やばいかな…?」
「ナルト、何か言った?」
「ううん。何でもないってば」


いつもと変わらない笑顔でナルトはサクラに答え、授業の時間だと、教室へと戻り始める


『シカマル、隠しとおせよ…!』


周りからは人が消えると、ナルトはいのと自分の全ての事情を知る友の消えた先を見つめた


「まさか、あの場所に自分以外の、しかも、いのが来るとは思わなかったな…」


満開の小さな可愛い橙色の花が咲く木々
自分の庭のように知り尽くした森で、この時期は誘われるようにあの場所へ行ってしまう
そして、香しい空間に思わず酔いしれて、気を抜いてしまったのだ
つい、転ぶ彼女まで助けてしまい、姿を仮面を被ってたとは言え、見られてしまった
しかも、忍たる自分が香りを今現在まで微かであろうと纏っていたとは…
なんて、自分らしくない

そもそも、なぜ彼女を助けたのかが分からない
いつもなら、誰が転ぼうとも気にはしないのに…
むろん、ドベを演じている時ならば別だが


「演技が移ったか?…ま、いいや。その内諦めるだろ…」


すっとドベの仮面を被った自分へと切り替え、教室に入っていった
何も今までと変わらない生活を予想して





そして、
彼のその予想は覆されるのだ…










*****あとがき。*****
 今日和。かなりのお久しぶりですιモノカキさんに30のお題「君は誰」よりいのナルですvというか、いの→ナルト?うーん。難しいですね。
 えっと、当サイトのいのちゃんがナルトの素を知り恋をしちゃう場面。てか、バレネタですね。この話から、全てのシカナルいの話が進むのです。一度書いて見たかった!本当はしっかりバレて、面と向かって告白するまでの、もっと甘いシーンを入れる予定だったんですが、なんだか書いてたらここまでになってましたιまぁ、希望があったら書きます。この続きとして。希望者は何かの手段(笑)で訴えてください。
 題材は、学校に咲く金木犀が可愛くて、尚且つ、よい匂いだったので、バレるのはこんな香りだったら素敵だなぁ、と。記憶に残る香りって素敵じゃありませんか?自分では気付かない匂いってあると思いますし。
 そうそう、説明忘れ。私的スレナル像では素では独特な言葉遣いではありません。ドベの振りしてる時だけ「だってば」な感じ。しかし、ナルトだと分かりにくいと困った時には仕方なく使ってますが(笑)

では、このお話が少しでも皆様に気にいってもらえたなら幸い…

04.10.31「月華の庭」みなみ朱木




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