「めんどくせー」

口癖のようにそんな事を言いながらも、結局、彼は俺に甘いのだ
その事実を俺は知っている









蜜のごとく












「ナルトー!」


自分を呼ぶ声になんだろうとそちらへ目線を向ける
視線を目まぐるしく彷徨わせながら、自分を探すシカマルの姿を見つけた
自分は気配を消してる上に、こんな高い木の上だ
俺を見つけるのは難しいだろう
必死に俺を探しているシカマルを見ていると、ちょっと脅かしてやろうかなと悪戯心がうずく
思ったが吉日
素早く印を結んだ

―ほんと、ナイスタイミングだぜ、シカマル!!

仕事の報酬にと、火影から貰った(奪った)巻物に書いてあった禁術
丁度、試してみたくてうずうずしてた所だ

印を結び終えた途端、シカマルは固まったように動かなくなった
どうやら術は成功らしい
禁術としては比較的、優しいというか見破られやすいもので、シカマルになら見破られてしまうかも、と心配だったが杞憂だったようだ
いや、これはこれで心配ではあるが

で、効能は、というと…
じっくりと観察をする
微かに彼の顔が赤くなったような気がするのは気のせいだろうか?
最初は、珍しいその様子に興味深く見ていたナルトだが、なんだか気に入らなくて、再度、印を結ぶ
術の解除だ
結局、たった数分の悪戯に終わってしまったのだった


「…はっ、ナルト?おい、いるんだろ?!出てこいっ!!」


シカマルは術が解かれて正気に戻るとすぐ、ナルトがいる方向へと向き、怒鳴った
やっぱりバレたか、と舌を軽く打つ
シカマル程の実力の持ち主なら気付かないはずがない
いや、気付ける力の持ち主だからこそ、ナルトの傍にいられるのだが

…ヤバ、結構怒ってるなぁ、シカマル。怒らすと厄介なんだよなぁ…

ふぅ、と溜息をひとつ
これで俺の幸せが一つ逃げたな、なんて頭の片隅で考えてしまった自分にくすっと笑う


「――何?」


勢いよく、木の上から彼の前に飛び降りる
俺の居場所を分かっていたものも、シカマルは僅かに驚いたような反応を見せた


「前々から、人を実験台にするなと言ってるだろーが」
「なんのことだってば?」


わかんない、といった感じに首を傾げながらシカマルを見つめる


「おい、いい加減にしねーと、いい加減、俺もキレるぞ?…蒼輝」


蒼輝
俺のもう一つの名、暗部での、裏での名前
その名前を呼びながら一睨みしたシカマルに、本気の憤りを感じたナルトは軽く肩を竦めた
自分のその反応に彼は溜息をひとつ零す
そう、諦めが肝心
そういう物分りの良いところが彼の美点だ


「大抵、あいつ等相手なのに、なんだって今日は…」
「だって、あの術にあいつ等ってのは俺が嫌なんだよ。うわぁ、キ、キモイ!」
「…お前、どこでそーゆー言葉を覚えてくるんだ…」
「まぁ、それは置いておいてv」
「・・・」
「あいつ等相手にあの術つかったら、相手は確実に俺だろ?恐ろしいぜ。俺は見たくない!」


ナルトは顔を不快そうに歪めた
あの術
あの術とは、対象者にその者の想い焦れる人物と願望を遂げさせる、魅せる術
カカシやアスマにかけたら何を想像させられるかたまったもんじゃない
ちょっと想像してしまうだけで鳥肌ものだ


「だからって俺はないだろ、俺は」


嫌そうに顔を引きつらせるシカマルにナルトは楽しそうに笑った
しかし、先ほどの表情が心の中でちらついて、次第にその笑顔は曇っていく

だって、気になったんだ
いつか、お前が俺の元から離れていくんじゃないかって

お前は俺の
数少ない、全てを曝け出せる存在で
温もりをくれる人で

その彼の想い焦れる人
彼のその人を見つめる表情は幸せそうで

俺は今、名も分からないヒトに今にもシカマルを奪われてしまうんじゃないかという恐怖を覚えて
そして、嫉妬している


「ナルト…?」
「え」
「どうした?ぼーっとするなんてお前らしくねぇ」


心配そうな表情
それが嘘偽りない温かな優しさだと俺は知っている

でも、こんな気持ちを言えるはずなくて
そして、心配もかけたくなかった

本当に自分らしくない
与えるものに与えるものに無頓着で無関心で、どうでもよかったのに


「いや、ちょっとな。今夜の任務のことでさ」
「またか?お前、ここの所毎日じゃねーか。かといって、下忍の任務も休みじゃねーし。大丈夫かよ?
ったく、火影も人使い荒いよな。めんどくせー」
「お前も人のこと言えないだろうが、黒月。ほとんど毎日だって聞くぜ?」
「俺は、お前ほど難しいのが俺には回ってこねーんだよ。それに、実際、今日は暇だせ。…手伝おうか?」
「いや、いい。一人で行く。人手欲しかったらアスマにでも頼むし」
「…なのか?」
「え?」
「いや、難しいのかってきいたんだ」
「んー。そこまでは。ただ、ちょっと面倒なんだよね。なるべく多くの情報を得てから殺せだってさ」
「…てことは、色か?」
「あぁ。仕方ない。これが一番手っ取り早いからな」


こうやって話を濁して
逃げようとする自分

―俺はこんなに弱かっただろうか?

もっと、温もりを知る前の自分は強かったような気がする
何もなくても生きていられたから…
"温もりが俺を臆病にさせた"
そう思うけれど、でも、反対に知らなかった頃には持っていなかった強さも持っていて
守りたいものがあるからこその強さを知って
だから、手放そうとは思わない
知ってしまった今となんては大切だから
きっと、寂しさで凍死してしまう

でも、いつか、みんなが離れていってしまうのならば知らなければよかったかもしれない
そんな想いも頭を過ぎる
なんて弱気な自分


「やっぱ、手伝う」
「は?いや、だから必要ないって」
「情報さえ手に入れば殺すだけなんだろ?だったら、俺が情報を集める。もともと俺はそれが得意分野だしな。俺にだって出来るさ」
「でも、俺に命じられた任務だし」
「火影様に了承はとる!つか、取れなくてもやる!!」
「そんな、無茶苦茶な!なんか変だぞ、今日のシカマル」


いつもなら頼んでも初めは「めんどくせー」の一言なのに
もちろん、最終的にはいつも手伝ってはくれるんだけど
でも、今日の彼は積極的で、強引で


「熱でもあるんじゃねー?大丈夫か?」


ぴたりと額をくっつける
ほのかに感じたシカマルの体温がみるみると高くなっていくのが分かる
37.5℃ぐらい
微熱ってところ?


「シカマル、お前、熱いって!やっぱ体調悪いんだろ?早く帰れよ」
「いや、違う、これは!」
「これは…?」
「…っ。と、兎に角、色は辞めとけ!手伝うから。わかったか?!」
「…あ、あぁ」


余りにも真剣な表情で言うものだから、思わず頷いてしまって
そうしたら、よかったと安堵したように微笑むシカマルがいて
シカマルのお願い?には弱い
まぁ、反対に、俺も弱いけどね…


「もしかして、心配してくれたんだ?」
「…悪いか」


その照れた表情が可愛くて笑ってしまう


「別に色ぐらい…」
「よくねぇ!!」


忍者ならば通る道?だし
自分の事には無頓着だから
それほどまでに嫌ではないけれど
心配が嬉しくて


「ありがとな」


いつかは去っていってしまう人かもしれない
それでも、今、現時点の彼の気持ちが嬉しいと思う


「もっと強くなるからさ、そうしたら、俺をいつも連れていってくれよな」
「そうしたら、最強コンビだな」
「最凶の間違いだろ」
「違いねぇ!」


笑って


「まずは、今日みたいに簡単に術に陥らないように、てとこだな。あまりに簡単に引っかかってたぞ、シカマル。いい夢でも見れた?」
「あれは…!」
「あれは?」


聞き返すと再度真っ赤になった
どうやらシカマルは照れ屋さんということで決定のようだ


「…っ、ビックリしたんだよ、急に、ナルトが笑うからさ。幸せそうに。だから…つい…」
「…俺?それで…?」
「…あぁ!」


もう、どうにでもなれ、といった感じで全てを打ち明けるシカマルに、自分も気恥ずかしくなる
…というか、アレは俺?ってことは俺、自分に嫉妬してたんじゃん!
自分の顔も心なしか熱い


「馬鹿みたいだ…」
「へ?」
「なんでもない」
「…まぁ、いいけどな」
「シカマルって以外と欲ねーよな。もっといいモノ想像すりゃーいいのに。俺の笑顔だなんて」
「…そんなことねーぞ」
「どこが?」
「・・・」
「ま、いいけどね」


サービスv
そう言って、笑ってやる
彼が望んだ笑顔で

蜜のごとく甘い、幸せに満ちた微笑み



「やっぱり、幻想より本物だろ?」














fin










*****あとがき。*****
こんにちわ。朱木です。えー、3周年記念小説、ナルトよりスレシカナルです!
今回はナルトもがんばるぞvとの意気込みを込めての作品ですv相変わらず、CPか?てぐらいな話ですが(泣)でも、まぁ、甘さはいっぱいv(砂吐く)
あ、スレ設定なんで、一応、蒼輝…ナルト 黒月…シカマルで暗部名です。まぁ、あんまり関係ないんでアレですがιとりあえず、現時点のサイトにあるナルト小説の設定ってことで。「はじめまして」のちょい前のお話ですvそして、なぜかモノカキさんに30のお題より「37.5」を無意味に拝借(死)
にしても、シカマルが思った以上に可愛くなってιナルトもずっごい鈍いよーιまじでスレてんの?!とか叫びました…。
あぁ、行く先不安です…。とりあえず、3周年万歳☆皆様ありがとう!!
では、少しでも楽しんでもらえたなら幸い…

04.03.26 みなみ朱木「月華の庭」





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